2025.7.31
aggrandize は「増大する」を意味する動詞で、1634年初出の語である。フランス語の agrandir の語幹 agrandiss- から借用され、agrandir はラテン語接頭辞 ad- に由来する接頭辞 a- と古フランス語で「大きくなる」を意味する grandir を組み合わせたものである。grandir はラテン語で「大きい」を意味する grandis から派生した grandīre から借用したものである(grandis は英語の grand の語源でもある)。
借用元であるフランス語の agrandiss- と現代英語の aggrandize を見比べると、英語では <g> の数が1つから2つになっていることが分かる。OED の用例を見る限りでは、17世紀半ば頃までは <g> が1つの綴字が多く見られ、17世紀後半以降は <g> が2つの綴字が一般的になったようである。フランス語のagrandir に含まれる接頭辞 a- はラテン語接頭辞 ad- から発達したもので、ad- は g の前で ag- に同化する(「46. ad- ―語形変化を起こす接頭辞―」を参照)ことから、一種の語源的綴字として <g> が追加挿入されたと考えられる。ちなみに OED によると、かつてはフランス語でも †aggrandiss-, †aggrandir と <gg> の綴字が使われていたようである。
また、フランス語では agrandiss- と <s> で綴られているのに対し、英語では aggrandize と <z> で綴られている。(主にイギリス英語を扱う)OED によると aggrandize と aggrandise の間で現代でも揺れが続いているようだが、見出しとしては aggrandize を採用しており、 “with subsequent remodelling of the ending after verbs in ‑ize suffix” と接尾辞 -ize を持つ動詞からの影響が示唆されている。動詞に付く接尾辞 -ize は(古)フランス語の -iser または後期ラテン語の -izāre から借用され、ギリシャ語の -izein に遡る。中英語では -ise と <s> の綴字が用いられ、現代ではアメリカ英語とイギリス英語の違いとして取り上げられることもあるが、-ise と -ize の使い分けについて、『英語語源辞典』は次のように説明している:
-ise は F -iser の影響による形だが、結局 Gk -izein にさかのぼること、また発音はともに /-z/ であるなどの理由から、-ize の方が好ましいとされている。一般に名詞語尾 -ism, -ization をとる語の場合には -ize が用いられ、(イギリス語法では -ise も用いられる;baptize は -ize のみ)、語源的に Gk -izein と無関係な advertise, devise, exercise, surprise や、-is- を語幹に持つ場合(e.g. improvise, televise)には -ise が用いられる。実際上は個々の出版社などの慣習によっていることも少なくないようである。(p. 744)
実際には個々の慣習によることも多いとのことで、完全なルールではないようだが、『英語語源辞典』の説明に則ればギリシャ語の -izein を語源に持たない aggrandize は -ise で綴られるのが一般的になりそうなものである。しかし実際は aggrandise と語源的でない aggrandize の両方が用いられているようだ。
参考文献
「Aggrandize, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「-Ize, -Ise, Suf.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Aggrandize, V.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/aggrandize_v?tab=etymology#8528940. Accessed 31 July 2025.
キーワード:[etymological spelling] [ad-] [assimilation] [French] [Latin] [Greek] [analogy] [-ize/-ise] [suffix] [British and American English differences]