2025.7.21
『英語語源辞典』を読み進めていると、afeard という見出しを見つけた。afeard は古語あるいは方言として使用されており、意味は afraid と同じであると書かれている。後期古英語から使用が確認されており、動詞の意味を強める英語本来語の接頭辞 ā- と fear の古英語形である fǣran から成る āfǣran の過去分詞 āfæred に由来し、中英語の語形は afered であった。また、古英語の fǣran は名詞の fǣr から派生したもので、ゲルマン祖語の *fēra-、印欧祖語で「…を試す、…を危険にさらす」を意味する *per- に遡る。印欧祖語の /p/ とゲルマン祖語の /f/ の音韻対応はグリムの法則(Grimm's Law)によるもので、グリムの法則は印欧祖語からゲルマン祖語への規則的な子音推移について、デンマークの言語学者ラスムス・ラスクの着想に基づきドイツの言語学者ヤーコプ・グリムが法則としてまとめたものである。
次に afraid の項目を『英語語源辞典』で見てみよう。afraid は1333年以前の中英語期に初出し、元は affraie(n) (現代英語の affray)の過去分詞である。affray は1300年頃に初出したとされており、古フランス語の effreer、e(s)freer から借用された。これは俗ラテン語の *exfridāre から発達したもので、「…から離れて」、「反対、否定」の意を表す接頭辞 ex- と *fridu から成る。*fridu はフランク語の *friþu から借用したもので、ゲルマン祖語で「平和」を意味する *friþuz、そして印欧祖語で「愛する」を意味する *prī- に遡る。同じ印欧祖語の *prī- を語源に持つ語には「自由な」を意味する free がある。また、afraid の中英語の語形は af(f)raied であり、『英語語源辞典』によると -aid の綴りは16世紀から見られる。『英語語源ハンドブック』にはこのように afraid という語形が規則的ではないことと、「怖がらせる」を表す類義語 frighten、terrify、scare とは異なり、affray は動詞としての使用頻度が低くなっていることから、afraid が affray の過去分詞であることは気づきにくいと述べられている(p. 6)。
afeard と afraid は一見すると語形が似ているが、afeard が英語本来語であるのに対し、afraid はフランス語から借用したもので、それぞれ異なる印欧祖語に遡ることが分かる。『英語語源辞典』では afeard はシェイクスピアに多用されているが、その後 afraid に取って代わられたと説明されており、afraid が一般的になったのは1611年の欽定訳聖書(The Authorized Version)の常用語であったためだと考えられると述べられている。シェイクスピアの作品と欽定訳聖書はほぼ同時代のものであるが、両者で使用語彙が異なること、そして『英語語源辞典』の説明が妥当であるならば、欽定訳聖書が afeard の衰退と afraid の普及に影響を与えたかもしれないことは興味深い。
参考文献
「Afeard, Adj.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Affray, V. & N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Afraid, Adj.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Fear, N. & V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一『英語語源ハンドブック』研究社、2025年。
キーワード:[Grimm's Law] [Indo-European] [Germanic] [French] [Authorized Version] [Shakespeare]