2025.7.12
ショッピングモール、スーパーマーケットなどを展開するイオンをアルファベットで表記すると AEON になることを知ったとき、幼心に <a> が付くのかと驚くとともに、なぜ「アエオン」でも「エオン」でもなく「イオン」と読むのだろうかと疑問に思っていた。
英語の aeon は「永劫、無窮」、「(地質学用語で)累代(代(era)の上位区分)」を意味し、1647年に初出した。現代英語では aeon に加えて eon の綴りもあり、『英語語源辞典』によると第2義の「累代」(1933年初出)では通例 eon で綴られる。
aeon はギリシャ語の aiṓn から後期ラテン語の aeōn を経由して英語に借用されたが、これらは印欧祖語で「生命力、生命」を意味する *aiw- に遡り、同じ印欧祖語に遡る語には他に age がある。つまり、英語の aeon における <ae> の綴字はギリシャ語(ギリシャ文字)で <ai> に相当する綴字からラテン語で <ae> の綴字になったものに由来する。
/iː/ の発音については Upward and Davidson では大母音推移によるものであると説明されている(p. 219)。ギリシャ語とラテン語の両方で後に <ai>、<ae> の綴りが <e> になり、発音は /eː/ を表していた(Upward and Davidson p. 219)。(英語に借用された16世紀の綴字は <ae> であるが)英語における /eː/ の発音が大母音推移によって /iː/ となったと考えられる。aeon と同じようにギリシャ語/ラテン語に由来し、語頭の <ae> が大母音推移を経て /iː/ と発音される語には、aedile「(古代ローマの)造営官」、aegis「(Zeus が Athena に授けたという)神盾、庇護」などがある。
英語における <ae> と /iː/ の綴字と発音の乖離には、ギリシャ語・ラテン語由来の綴字と、英語における大母音推移が関わっていた。
参考文献
「Aeon, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
Upward, Christopher, and George Davidson. The History of English Spelling. Wiley-Blackwell, 2011.
キーワード:[Latin] [Greek] [Great Vowel Shift] [spelling-pronunciation gap] [Indo-European]