2025.7.11
adze(/ædz/)は「手おの」を意味し、古英語から用いられている。『英語語源辞典』によると古英語での語形は adesa で、中英語での語形は ad(e)se であるが、現代英語の <-ze> の語形は見られない。また、『英語語源辞典』においても OED においても古英語以前の語源は不詳とされている。
OED の語形一覧を見てみると、中英語までは語末の子音は <s> で書き表されているが、1500年代から1800年代には <s> の他に addece、addice のような <-ce> の綴字が見られる。OED によればこの <-ce> の綴字は無声摩擦音( /s/ )であることを表しており、古英語で一般的な規則とされる、母音に挟まれた摩擦音(f、s、þ (現代の th) ) の有声化が起こらなかった(/v/、/z/、/ð/ の発音にならなかった)ことによるものである可能性が示唆されている。現代英語での発音は /z/ であるため、綴りも発音も(どのような順番かは定かではないが)変化したということだろうか。
<z> の綴字が現れるのは、『英語語源辞典』によれば18世紀の初め、OED によれば17世紀からである。また、『英語語源辞典』には参照として、ラテン語で「斧」を意味する ascia を語源に持つ古フランス語の aisse の異形として、aze があったことが記されている。現代英語でも -ise と -ize のように <s> と <z> の交替・変異は見られるが、adze における <s> から <z> への変化が何を意味するのか、何が原因で変化したのかは筆者の現調査段階では断言することができない。
参考文献
「Adze, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Adze, N.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/adze_n?tab=forms#9585574. Accessed 10 July 2025.
キーワード:[intervocalic fricatives]