2025.7.9
現代英語では動詞は advise、名詞は advice と綴りによって品詞が区別されている。英語においてこの区別は初めからなされていたのだろうか。それぞれの語の語源と綴りの変化を見ていこう。
まず動詞の advise は1300年頃の初出で、第1義は「†見る、熟視する」(1603年までで廃義)、第2義は「忠告する、勧告する」(1375年初出)、第3義は「†熟考する」(1380年頃初出、1656年以前までで廃義)である。中英語での語形は <d> のない avise(n) で、(古)フランス語で「…を知覚する」を意味する aviser から借用された。フランス語の aviser は俗ラテン語の *advīsāre から発達したもので、「意見」を意味する *advīsum から派生した。*advīsum の原義は “according to one's view” で、ラテン語の ad と「見る」を意味する vidēre の過去分詞 vīsum から成る。つまり、英語における <d> の綴字はラテン語の語源を参照した語源的綴字であり、古フランス語でも <d> を挿入した adviser の語形が確認されている。
名詞の advice も同じく1300年頃の初出で、第1義は「†意見」(1651年までで廃義)、第2義は「†思慮分別」(1338年以前に初出、1654年までで廃義)、第3義は「忠告、助言」(1385年頃初出)である。動詞の advise と同じくラテン語の ad と vīsum から成る俗ラテン語の *advīsu(m) を語源に持ち、そこから発達した(古)フランス語の avis から借用された。『英語語源辞典』によると、古フランス語の avis は、ce m’est à vis (= this is according to my view) が ce m'est avis となり、à vis が1語として異分析されたことによって生まれた。ちなみに ce m'est avis は今日の m’est avis que (= it strikes me that) となった。また、ラテン語にも同様の表現 mihī vidētur (= it seems (best) to me) がある。
つまり、フランス語から英語に借用されたときには、名詞も <d> がなく、また <c> ではなく <s> で綴られた avis の語形で用いられていた。*『英語語源辞典』によると14世紀から16世紀にフランス語で語源的綴字として advis と書かれたことがあり、これが英語に取り入れられて15世紀の William Caxton 以降に <d> が挿入された綴字が固定した。そして、15世紀に語幹母音を表す <i> が長母音であることを示すために語末に <e> が付けられて advise となり(発音は大母音推移を経て /iː/ から /aɪ/ となった)、16世紀に無声子音の /s/ の発音であることを示すために <s> から <c> に綴字が置き換えられた。
したがって、名詞 advice と動詞 advise の綴字上の区別は語源に基づくものではなく、近代において発音上の区別を明示するために取り入れられたものということだ。
*本文では『英語語源辞典』に基づいて綴字の変化を記述しているが、OED によると動詞と名詞どちらにも中英語期から <s> と <c> の綴字が見られ、16・17世紀には <z> で綴られた a(d)vize も見られた。
参考文献
「Advice, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Advise, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Advice, N.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/advice_n?tab=forms#9724486. Accessed 9 July 2025.
“Advise, V.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/advise_v?tab=forms#9739578. Accessed 9 July 2025.
キーワード:[etymological spelling] [ad-] [Latin] [French] [metanalysis] [Great Vowel Shift] [pronunciation spelling]