2025.7.6
adulterer は1513年に初出の名詞で、「姦夫」を意味する。ただし、『英語語源辞典』によると16世紀には「姦婦」の意味で用いられた例も見られた。adulterer は †adulter (「姦通を犯す」の意味で、OED によると1382年以前に初出)に行為者接尾辞 -er を付けたものである。『英語語源辞典』によると †adulter は中英語の avoutre(n) が変形したもので、ラテン語の adulterāre から発達した古フランス語の avoutrer から借用したものである。ラテン語の adulterāre は一説によると接頭辞 ad- と「他の人[物]」を意味する alter から成り、adulterāre の過去分詞 adulterātus を語源に持つのが英語の adulterate(動詞で「偽造する」、「†姦通を犯す」、形容詞で「にせの、まぜ物で質を落とした」、「姦通の」の意味)である。したがって、中英語の avoutre(n) から †adulter への変化はラテン語の語源を参照した語源的綴字であり、『英語語源辞典』には「ラテン語式再構成形」と記載されている(ちなみに adulterate は1531年にラテン語から直接借用したため、綴りの変化は起きていない)。また、avoutre(n) から †adulter への変化には <d> の挿入と <ou> から <u> への変化・<l> の挿入の3種類の語源的綴字が含まれているのが特徴である。
adulteress は †adulter にギリシャ語・ラテン語に由来する女性名詞語尾 -ess が付いた語で、「姦婦」を意味する。『英語語源辞典』によると adulteress も中英語の avoutres(se) のラテン語式再構成形で、後期中英語ではラテン語に近い語形ではなく、古フランス語から借用した avoutresse が用いられていた。
adultery は「姦通」を意味する名詞で1415年頃に初出した。こちらもラテン語の adulterāre を語源に持ち、そこから派生した adulterium または(古)フランス語の adultère から借用された。『英語語源辞典』によれば中英語期には借用元のラテン語の adulterium または(古)フランス語の adultère の語形を反映した adulteri と、古フランス語から借用した avoutrie の語形があった。そして、avoutrie はラテン語の影響を受けて <d> が挿入された advowtry に変形し、17世紀末まで用いられた。<d> を挿入するかどうか、語中の母音字を <u> と <ou>/<ow> のどちらにするか、<l>を挿入するかどうかで、中英語期から初期近代英語期にかけて綴字のヴァリエーションがかなり多かったようだ。
最後に今回取り上げた adulterate、adulterer、adulteress、adultery は昨日の記事で取り上げた adult とは語源的に関係がないことを付け加えておく。
参考文献
「Adulterate, V. & Adj.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Adulterer, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Adultery, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「-Ess (1), Suf.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Adulter, V.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/adulter_v?tab=meaning_and_use#9990904. Accessed 6 July 2025.
キーワード:[etymological spelling] [ad-] [Latin] [French] [agent suffix] [suffix]