2025.7.4
adore は1375年頃に初出の動詞で、「(神として)崇拝する」、「礼賛する」を意味する。『英語語源辞典』によると中英語期の語形は adoure(n) で、古フランス語の adourer、(古)フランス語の adorer から借用し、フランス語はラテン語で「…に話しかける、声をかける」を意味する adōrāre から借用した。adōrāre は接頭辞 ad- と「話す」を意味する ōrāre(orate「(大げさに)演説する」の語源でもある)から成る。
これだけを見ると単にラテン語・フランス語から <d> を含んだ語形で英語に借用されたと考えられるが、OED には中英語期の語形として <aoure>、<aouri>、<aure> の <d> を持たない綴字が掲載されている。OED では adore はフランス語からの借用とラテン語からの借用の両方の経路があったとしており、
(i) フランス語:Anglo-Norman and Old French aurer, Anglo-Norman and Old French, Middle French aorer, aourer, Anglo-Norman adhourer, Anglo-Norman and Middle French adourer, Anglo-Norman and Middle French adorer
(ii) ラテン語:classical Latin adōrāre
の語形から、中英語の時点でフランス語から借用した <d> を含まない綴字と、ラテン語・フランス語から借用した <d> を含む綴字が競合していたと考えられる。
adorn は1385年頃に初出の動詞で、「飾る、装飾する」、「名誉を与える」を意味する。『英語語源辞典』によると中英語期の語形は adourne(n) で、(古)フランス語の ado(u)rner から借用し、フランス語はラテン語の adornāre から借用した。adornāre は接頭辞 ad- と「ぴったり取り付ける、…を着飾る」を意味する ornāre(ornate「飾り立てた、凝った」の語源でもある)から成る。
こちらも adore と同じく、『英語語源辞典』の情報ではラテン語・フランス語から <d> を含んだ語形で英語に借用されたように見える。しかし、OED には中英語期の語形として <ahourne>、<aorne>、<aourne>、<aovrne> の綴字が載っている。OED の語源記述によると、フランス語には <d> を含む綴字と <d> を含まない綴字があり(Anglo-Norman aurner, aourner, ahourner, Anglo-Norman and Old French aorner, Anglo-Norman and Middle French adourner, adorner)、こちらも中英語の時点でフランス語から借用した <d> を含まない綴字と、ラテン語・フランス語から借用した <d> を含む綴字が競合していたと考えられる。また『英語語源辞典』には14世紀から16世紀に用いられた aourne(n) は古フランス語の ao(u)rner の借入と説明が付されている。
一口に語源的綴字と言っても、adore や adorn のように英語に借用された時点からラテン語の語源に沿った <d> を持つ綴字と、フランス語で <d> が脱落したものを継承した綴字の両方が用いられ、最終的に <d> を持つ語源に沿った綴字が標準となった語もある。
参考文献
「Adore, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Adorn, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Adore, V.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/adore_v?tab=etymology#10279500. Accessed 3 July 2025.
“Adorn, V.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/adorn_v?tab=etymology#10084436. Accessed 3 July 2025.
キーワード:[etymological spelling] [ad-] [Latin] [French]