2025.6.15
across は「交差して」を意味する副詞として、おそらく1200年以前(OED では1250年以前)の Ancrene Riwle で初出し、1325年頃から「横切って」、1559年から「曲がって、誤って」の意味で確認されている。前置詞としては「…を横断して」の意味で1590–91年に、「…の向こう側に」の意味で1634年に初出した。現代英語の語形を見る限り、a- と cross から成る語のように見えるが、『英語語源辞典』と OED で語源の記述に微妙な違いが見られる。
OED は、 across は前置詞 on が弱化した a と「十字」を表す cross が英語の中で組み合わさったものであると説明しており、12世紀に a cross と2語に分けて書かれていたことについてフランス語の en croix との関係を指摘している。一方の『英語語源辞典』は、ラテン語の in から発達した an と ‘cross’ の意味の croiz を組み合わせたアングロ・フレンチの an croiz から借用したもので、中英語での語形は acrois であったが、通俗語源で ‘on’ の意味を表す接頭辞 a- と cross が組み合わさったものであると解釈されたと説明している。(ちなみに cross は『英語語源辞典』によるとラテン語の cruc-、crux から古アイルランド語の cros、古ノルド語の kross を経由したもので、アイルランドからのキリスト教の布教の中で古ノルド語から借入したものである。古フランス語の croiz (現代フランス語は croix)も同じラテン語のcruc-、crux を語源に持つ。)OED はフランス語の表現を基に、対応する英語語彙を用いて語形成したもの、『英語語源辞典』はフランス語から借用した語を、対応する意味の英語が組み合わさったものだと解釈し直して、語形を変化させたものであると説明していることになる。フランス語借用語なのか、フランス語を基にした英語における語形成なのかを断言することは難しいが、 OED の語形一覧を見る限り、初期中英語では <acreoiz>、<acreoyz>、<acroiz> などのフランス語に近い語形で書き表され、その後中英語期の間に <acros> や <acrosse> などの(英語寄りの)語形に変化したことが確認できる。
参考文献
「Across, Adv. & Prep.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Cross, N., Adj., Adv., & V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Across, Adv., Prep., & Adj.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/across_adv?tab=etymology#21386552. Accessed 15 June 2025.
キーワード:[word formation] [folk etymology] [French]