2025.6.11
「知り合いにする[なる]」「体験させる」「知らせる」の意味を持つ動詞 acquaint は、中英語期の12世紀頃が初出とされている。中英語の語形は aqueinte(n)、acointe(n) で、古フランス語の acointier から借用された。このフランス語は中世ラテン語の accognitāre から発達したもので、ラテン語で「認識する」を意味する accognōscere の過去分詞 accognitus に遡る。accognōscere は接頭辞 ac- と「知る」を意味する cognōscere が組み合わされたもので、cognōscere は cognition の語源でもある。
上記の『英語語源辞典』を基にした説明を見る限り、語源であるラテン語や借用元であるフランス語には <acqu-> の綴りが見当たらない。この問題は①なぜ <qu> の綴りになったのか、②なぜ <-cq-> と子音が重ねられるようになったのかの2つに分けて考えるのがよさそうだ。
まずは①の <qu> の綴りについて、フランス語の綴りをOED の語源欄で確認すると、アングロ・ノルマンの acoyntier, acuinter, aquaynter, aqueinter, aquenter, aquintier, aquointier、アングロ・ノルマン、古フランス語、中フランス語の acointer、古フランス語、中フランス語の acointier、中フランス語の accointer が載っている(ちなみに現代のフランス語は accointer)。英語における <qu> の綴りはアングロ・ノルマンの影響を受けた可能性がある。
また、『英語語源辞典』には現在の形は quaint との連想によるものである可能性があり、acquaint は14世紀から16世紀には頭音消失形の quaint も用いられたと書かれている。quaint は12世紀頃から用いられている形容詞で、第1義「ずる賢い」、第2義「利口な、才に富む」、第3義「奇妙な」、第4義「巧みに作られた」第5義「風変わりで古風な趣きのある」があり、第1~4義は廃義となっている。ラテン語の cognōscere の過去分詞 cognitum から古フランス語 coint(e) (アングロ・ノルマンには quaint など <qu-> の語形が確認されている)を経由して中英語期に queint(e)、coint(e) として借用された。
したがって、ラテン語の <c> を <qu> と綴るアングロ・ノルマンの習慣が英語にも取り入れられたこと、acquaint で14世紀から16世紀に語頭の ac- が消失した語形が用いられたことも相まって、acquaint の語根と同じラテン語の cognōscere を語源に持つ quaint の語形から連想されたことが、<qu> の綴りがacquaint において定着した背景として考えられる。
次に <-cq-> の綴りについて、先述の OED による各時代・地域のフランス語の語形一覧を見る限り、中フランス語の accointer を除き、<-cc-> または <-cq-> の綴りはなく、古フランス語の時点ではラテン語の接頭辞 ac- から c が脱落していたことになる。中フランス語と英語において、脱落していた <c> の綴字が復活した(語源的綴字)ことになるが、OED による acquaint の語形一覧によると、中英語期からすでに <ac-> または <aq-> の綴字と、<acc-> または <acq-> の綴字で揺れていたようである(16・17世紀には <accquaint> の語形も確認されているようだ)。
アングロ・ノルマンでの綴字習慣、同根語の綴字からの連想、ラテン語を参照した語源的綴字と、現代の acquaint の語形に至るまでには随分と複雑な過程があったようだ。
参考文献
「Acquaint, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Quaint, Adj.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Acquaint, V.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/acquaint_v?tab=etymology#24468728. Accessed 11 June 2025.
“Quaint, Adj., Adv., & N. (2)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/quaint_adj?tab=etymology. Accessed 11 June 2025.
キーワード:[French] [Latin] [etymological spelling] [analogy] [ad-] [assimilation]