2025.6.6
「(さいの)1の目、(トランプの)エース」、「(テニス・バドミントンなどの)エース、(とくに)サービスエース」などを意味する ace は、中英語期の1375年頃に(古)フランス語から as として借用された(ここでの古フランス語の語義、そして英語での第1義は「(さいの)1の目、(トランプの)エース」である)。as はラテン語の assem 、ās から発達したもので、ラテン語以前の起源ははっきりとはしないが、『英語語源辞典』ではエトルリア語が起源である可能性が示唆されている。
中英語期の語形は借用元の(古)フランス語と同じく as であったが、『英語語源辞典』によると16世紀から<s>が<ce>に変化したという。これは英語において、フランス語での<ce> = /s/の綴字と発音の対応関係(<ce> = /s/の成り立ちについては、「27. accent, accept, access」を参照されたい)を借りて、特に語末の -s が -ce に置き換えられたもので、ace の他にも juice 、lattice 、pace 、palace などが挙げられる(Upward and Davidson p. 97)。フランス語に由来する<ce> = /s/の関係が(初期)近代英語期までに定着していたことが窺える他、<s>から<ce>の綴字にすることによって有声の/z/ではなく無声の/s/の発音であることが明示されたが、これらは結果として語源であるフランス語やラテン語とは異なる綴字になってしまったことになる。
また、ace における母音の発音は、name などのように、中英語期の/aː/の発音から大母音推移によって/ɛː/へ、その後さらに/eː/に変化し最終的に二重母音化して/eɪ/となった。
参考文献
「Ace, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
Upward, Christopher, and George Davidson. The History of English Spelling. Wiley-Blackwell, 2011.
キーワード:[French] [Latin] [Great Vowel Shift]