2025.5.28
昨日の accelerator に引き続き、<acce->の綴字を持つ表題の3語の語源を見てみよう。
accent は14世紀に古フランス語の acent またはラテン語の accentus から借用された。ad- を語源に持つ接頭辞 ac- と「音調、メロディー、歌」を意味する cantus から成るが、これは英語の prosody の語源であるギリシャ語の prosōidiā からのなぞり/翻訳借用(calque/ loan translation)である。翻訳借用とは語形は借りず語義だけを借りたもので、今回はギリシャ語の prosōidiā から「(言葉)に付け加えられた歌」などの意味だけを借り、語形はラテン語となっている。
accept は1380年頃に(古)フランス語の accepter またはラテン語の accipere の反復相(繰り返しを表す動詞形)acceptāre から借用したもので、接頭辞 ac- と 'take' を意味する capere から成る。capere は captive の語源でもある。
access は日本語でも「アクセス」として知られているが、1300年頃の初出の語義は「間欠熱」だったようだ(1751年に廃義となっている)。「接近、出入り」の語義としては1384年頃から用いられている。access はラテン語の accessum から発達した古フランス語の aces から借用され、ラテン語のaccēdere に遡る。accēdere は「応じる」、「接近する」、「(官職などに)就く」を意味する英語の accede の語源であり、接頭辞 ac- と「行く」を表す cēdere から成る。
3語の語源や意味を見るだけでも語るべきことが沢山あるが、綴字と発音の観点から一つ。語源であるラテン語の接頭辞 ac- の後につく cantus 、capere 、cēdere における<c>の発音は、古典ラテン語では/k/であった。しかし、フランス語で<e>、<i>、<y>の前の<c>の発音が/s/となり、英語に借用されるに至った。ちなみに古英語では後舌母音<a>、<o>、<u>の前の<c>は/k/、前舌母音<e>、<i>、<y>の前の<c>は口蓋化によって/tʃ/と発音されていたが、中英語期にフランス語から大量に借用したことで、<c> = /s/の対応関係も取り込むこととなった。
参考文献
「Accent, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Accept, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Access, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
水谷智洋(編)『羅和辞典』改訂版、研究社、2009年。
Upward, Christopher, and George Davidson. The History of English Spelling. Wiley-Blackwell, 2011.
キーワード:[French] [Latin] [Greek] [assimilation] [ad-] [calque / loan translation]