2025.5.25
academyは『英語語源辞典』によると1474年初出で「(プラトンの)アカデメイア学園、アカデメイア学派」の意味で用いられていた。「学園、学校、大学」の意味としては1549年、French Academyなどの「学士院、芸術院」の意味としては1691年に初出となっている。academyはトロイ戦争に加わった古代アテネの英雄の名前であるakádēmosに由来し、ギリシャ語の形容詞akadḗmeios「アカデーモス(の森)の」の女性形であるakadḗmeiaからラテン語に借用されたacadēmīa、あるいは(古)フランス語のacadémieから中英語期に借用された。
『英語語源辞典』には中英語の語形としてachadomyeが載っているが、語源説明欄を見る限り、ギリシャ語、ラテン語、フランス語のいずれにも<ch>の綴りは含まれていない。OEDの語形欄を確認すると中英語期から17世紀まで<ch>を持つ綴りが見られたようだが、『英語語源辞典』にもOEDにもなぜ<ch>の綴りが用いられたのか説明はされていなかった。一つの可能性として考えられるのは、英語では古典ギリシャ語由来の語で<ch> = /k/の対応関係が成り立っていることで、Upward and Davidsonには次の語が一覧として挙がっている(p. 201):
archaeology, archaic, architecture, bronchitis, chaos, character, charismatic, chasm, chemical, chlorine, cholera, chorus, Christian, chrome, chronic, dichotomy, echo, hierarchy, mechanical, melancholy, ochre, orchestra, orchid, psychological, scheme, schizophrenia, scholar, school, stomach, technology
『英語語源辞典』ではこれらの語のギリシャ語語源は<kh>で書き表されているので、これらの<ch>の綴字は語源に沿ったものである(characterなどいくつかの語は<c>から<ch>への語源的綴字による変化を遂げたが、反対に現代のacademyは<ch>から<c>への綴字の変化が、正しい語源を反映させた語源的綴字である)。筆者の管見の限りでは、academyにおける<ch>の綴りに関する記述は辞書や先行文献には見られなかったが、ギリシャ語由来の語で/k/の発音に<ch>の綴字が対応する語からの類推で、academyも<ch>で綴られたのかもしれない。また、『英語語源辞典』やOEDには<ch>の綴字の記載はなかったが、中世のラテン語やフランス語でのacademyの綴字の状況も確認する必要があるだろう。
参考文献
「Academy, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Academy, N.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/academy_n?tab=forms#1385626. Accessed 25 May 2025.
Upward, Christopher, and George Davidson. The History of English Spelling. Wiley-Blackwell, 2011.
キーワード:[French] [Latin] [Greek] [analogy] [etymological spelling]