2025.5.21
再びabridgeの登場。「8. abbreviateとabridge」で紹介したが、abridgeは「短縮する、要約する、(人から)奪う」を意味する動詞で、中英語期にabreg(g)e(n)として(古)フランス語のabréger、古フランス語のabregierから借用された。これらのフランス語はabbreviateと同じくラテン語のabbreviāreを語源に持ち、abbreviateと二重語になっている。したがって、ゲルマン語由来で「橋」を表すbridgeとの語源的関係はない。
/ʤ/の発音を表す綴字について、借用元のフランス語では<g>が1つになっており、中英語でも<g>が1つあるいは2つで綴られているが、現代英語では<dg>となっている。Upward and Davidsonによると、二重字<dg>は中英語から特に初期近代英語期に、ゲルマン語由来の語とフランス語・ラテン語由来の語の両方で用いられるようになったとされている(p. 118–19)。OEDでabridgeの語形の変遷を確認してみると、中英語期から1500年代の語形として<abrydge>が現れており、1500年代以降は<dg>を持つ語形が主流になったようで、Upward and Davidsonの記述と一致する。
<dg>を用いることで、歯茎硬口蓋破擦音/ʤ/を表す綴字と、giveなどに見られる軟口蓋閉鎖音/g/を表す綴字を書き分けることができ、主に初期近代英語期に導入されたことを踏まえると、初期近代英語期の正音学者・綴字改革者の影響が考えられる。Brengelmanは17世紀の正音学者がもたらした正書法の改善点の一つとして、<tch>と<ch>、<dg>と<g>、<ck>と<k>の書き分けを挙げている(p. 347)が、より早い16世紀、そして中英語期の<dg>の使用についても調査する必要があるだろう。
参考文献
「Abridge, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Abridge, V.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/abridge_v?tab=forms#6081805. Accessed 21 May 2025.
Brengelman, F. H. "Orthoepists, Printers, and the Rationalization of English Spelling." The Journal of English and Germanic Philology, vol. 79, no. 3, 1980, pp. 332–54.
Upward, Christopher, and George Davidson. The History of English Spelling. Wiley-Blackwell, 2011.
キーワード:[Latin] [French] [spelling reform]