2025.5.20
前回と前々回は、英語本来語で、英語学習者であれば誰もが目にする基本語であるにもかかわらず、(いやだからこそ)発音と綴字の不一致が生じた2語を取り扱ったが、今日は趣向を変えて何かが召喚されそうな表題の2語について。
日本語でも「アブラカダブラ」として知られるabracadabraは「昔「おこり(agues)」などの護符として用いられた三角形の形に書かれた呪文」と『英語語源辞典』で説明されている。語形はそのままに、後期ラテン語から17世紀末に英語に借用されたが、ラテン語はギリシャ語のabrakádabraから借用しており、語源不詳としつつもギリシャ語のAbráxasとの関連が示唆されている。
ぼんやりとアラビア語あたりが語源なのかと思っていたので、ギリシャ語がルーツの一部になっていたことに驚きつつ、OEDの記述も確認してみた。OEDではラテン語以前の語源について、次のようないくつかの可能性を示していた。
・ラテン語あるいはギリシャ語に起源を持つ(abecedary、abecedarianの語源であるabecedariusに-ra-を挿入したものなど)
・トラキア語、シュメール語などからの借用
・ギリシャ語起源のabraxasとの関係
・アラム語での悪魔の名前を起源に持つ
・ヘブライ語のbĕrāḵāh ‘blessing’ とdāḇar ‘to speak’ または dāḇār ‘speech, word’との関係
しかし、どの説も十分な証拠がなく、語源ははっきりとはしないようだ。ただ、謎めいていた方が神秘的な力がありそうな気もしなくはない。
さて、『英語語源辞典』とOEDのどちらでもabracadabraへの影響の可能性として挙げられているAbraxas (abraxas)は、365の天界を支配する大神の名前、あるいはabraxasの文字を刻んだ護符を表す。こちらもギリシャ語から後期ラテン語に入り、18世紀に英語に借用されている。『英語語源辞典』の解説によると、Abraxasはギリシャ字母のα、β、ρ、α、ξ、α、σで構成されており、それぞれの文字が表す数字(α = 1、β = 2、ρ = 100、ξ = 60、σ = 200)を合計すると365になるという。数秘学は門外漢だが、見事に365になっていることに感動したし、このような解説まで載っている『英語語源辞典』の情報量の多さにも驚愕した。
参考文献
「Abracadabra, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Abraxas, a-, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Abracadabra, N. & Int.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/abracadabra_n?tab=etymology. Accessed 20 May 2025.