2025.5.12
「…ができる」「有能な」を表す形容詞ableは1338年以前の中英語期に古フランス語のable、(h)abileから借用された。これらの古フランス語はラテン語のhabilemから発達したもので、'hold, have'の意味を持つhabēreから派生している。昨日の「12. ability」と同じ語根を持っており、habitとも同根語である。
古フランス語では語頭に<h>を持つ形と持たない形で揺れがあり、現代フランス語ではhabileとなっているようだが、『英語語源辞典』によると14、15世紀にラテン語にならって<h>が付いた語形を再構成したという。このフランス語での動きを受けて、英語でも15世紀から18世紀にはhable、habil、habileの綴字がableとともに用いられたようだ。フランス語と英語のどちらでも語頭に<h>を付ける語源的綴字が現れたが、フランス語ではそれが定着した一方、英語では定着しなかったことになる。また、英語の中でも同じ語源に遡るhabitは<h>を持つ綴字が標準となったのに対して、ableは<h>を持たない綴字が標準となった。英仏、あるいは英語の2語の綴りの命運を分けた要因は何か、それとも偶然の結果なのか、調査する必要がある。
ところでableの次の見出しになっている-ableは「…できる」の意味を加える接尾辞であるが、形容詞ableと語源的な関係はない。-ableは中英語期に(古)フランス語またはラテン語の-ābilisから借用された。本来のラテン語の接尾辞は-bilisであり、基になる動詞の不定詞が-areであれば-ābilis、-ereや-ireであれば-ibilisとなるが、フランス語では動詞の活用型にかかわらず-ableの形をとり、英語でも本来語に付くときは-ableとなる(『英語語源辞典』"-Able, Suf.")。言われてみればaudible、edibleなどは-ibleを持っており、これらの語はラテン語に遡る。『英語語源辞典』では「語源上の関係はないが、一般にableと連想され、そのことがこの接尾辞にすぐれた造語力を与えることになった」と結ばれており、英語の接尾辞としては-a-の付いた-ableとして捉えられ、ableの後ろ盾を得ることで生産性の高い接尾辞となったようだ。
参考文献
「Able, Adj.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「-Able, Suf.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
キーワード:[etymological spelling] [initial <h>] [French] [Latin] [suffix]