2025.5.11
「能力」「才能」などを表す名詞abilityは1398年以前の中英語期に古フランス語から借用された。『英語語源辞典』には中英語期の語形としてableteと(h)abiliteが、借用元の古フランス語の語形としてableteと(h)abilitéが挙げられており、語頭に<h>の付いた語形と付かない語形があったことが分かる。語源記述を読み進めると、古フランス語のablete、(h)abilitéはラテン語で「傾向、才能」を表すhabilitātemに遡り、habilisから派生したものであると説明されている。つまり、<h>の付いた語形はラテン語の語源を参照した語源的綴字となる。
『英語語源辞典』によると、古フランス語と中英語で語頭の<h>が付いた語形は14、15世紀にラテン語にならって綴られたものであるという。中英語期には一部の語で語源的綴字が使用され始めていたことは先行研究で指摘されているが、一般的には語源的綴字は16世紀頃の現象であるとされており、abilityに<h>を付けた綴字は比較的早くに現れた語源的綴字だと考えられる。しかし、『英語語源辞典』によれば16、17世紀に学者たちがhabilityの形を主張したものの、1700年には消滅したようである。ルネサンス期であることや語源的綴字の一般的な流れを考えれば、16、17世紀に<h>を持つ語源的綴字を学者たちが推していたことは想像に難くないが、なぜabilityでは<h>を持つ語源的綴字が定着しなかったのだろうか。今後『英語語源辞典』に沢山出てくるであろう、語頭に<h>が挿入された他の語に注目していきたい。
参考文献
「Ability, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
キーワード:[etymological spelling] [initial <h>] [French] [Latin]