研究室を2018年に立ち上げてから継続的に面白い成果をあげることができています。このページでは代表的な成果を年度毎にピックアップしています。紹介文やイラストは論文をもとに「生成AI(Gemini)」から生成させています。紹介文は簡単には確認していますが、イラストに一部不備があることはご注意ください(そのうち更新します)。
物理センサが未設置、あるいは故障した環境において、人間の言葉を「センサ」として代用する状態推定理論を開発しました。 「少し水が増えてきた」「暑い」といった主観的な日常言語に含まれる“物理情報”を、自然言語処理(NLP)を用いて抽出します 。 これらの情報をシステムの物理モデルと統合する「言語補助型パーティクルフィルタ(LAPF)」により、高精度な環境状態の推定を可能にします 。
この研究は、従来のハードウェア(物理センサ)への依存を減らし、人間が持つ直感的な観察力を高度な制御工学に組み込む「Human-in-the-loop」の次世代の形を示しています
Y. Miyoshi, M. Inoue, and Y. Fujimoto, Language-aided state estimation, IFAC Journal of Systems and Control, Vol. 35, No. 100372, 2026 (link)
安全制御の理論「制御バリア関数(CBF)」を世界で初めて大規模言語モデル(LLM)の出力制御に応用しました。 モデルを書き換えず、外付けの「安全フィルタ」として機能するため、「否定的な文章にしたくない」「スポーツの話題を続けたい」など、何でも目的に応じて自由に着脱・交換が可能です 。 物理システムや社会インフラへのAI導入に不可欠な、ハルシネーション(もっともらしい嘘)を防ぐ「論理的な盾」としても展開が期待されます。
制御理論とLLMの融合: 自動運転車の衝突回避などに使われる数学的理論(CBF)を、言葉の生成プロセスに適用しました
アドオン型(後付け): 従来の「追加学習(微調整)」とは異なり、既存のLLM(Llama 3など)をそのまま使いつつ、その出力をリアルタイムで修正します
ブラックボックス化の解消: 制御の根拠が数学的な関数(L-CF)に基づいているため、なぜその出力が選ばれたのかというプロセスが明確になります
Y. Miyaoka and M. Inoue, Control barrier function for aligning large language models, IEEE Transactions on Control Systems Technology, 2026 (link, プレスリリース, プレスリリース(英語))
専門知識が必要だった制御システムの調整を、誰もが「チャット」で気軽に行えるようにする試みです。自然言語処理(NLP)と制御理論を融合させる研究としてスタートしました。ユーザーの「もっと花瓶から離れて」といった日常的な指示をAIベースで構築したインタプリタ(Sentence-BERT等)が解釈し、リアルタイムで制御システム(MPC)の仕様へと翻訳・反映します 。さらに、対話を繰り返すことでユーザーの好みに確実に近づいていく「収束性」などの理論的保証も行い、利便性と信頼性を両立させています。
補足: 2022年末の「あのサービス」にインスパイアされて、いち早くアカデミックな制御理論の世界に取り込み、理論保証までおこなった研究です。
Y. Miyaoka, M. Inoue, and J. M. Maestre, Chat-driven reconfiguration of model predictive control, IEEE TCST, 2026 (arXiv 2025)
Y. Miyaoka, M. Inoue, T. Nii, ChatMPC: Natural language based MPC personalization, 2024 ACC, 2024 (arXiv 2023)
その他,拡張や応用も数多くおこなっています。
Y. Miyaoka and M. Inoue, ChatMPC for human-interactive autonomous driving, IFAC World Congress 2026, 2026
Y. Miyaoka, M. Inoue, K. Urata, and S. Harada, Chat-driven interface for virtual network reallocation, 2025 IEEE ICC, 2025 (link, NTT共同研究)
宮岡佑弥,井上正樹,虎谷大地,石井南,chat-AMAN: 管制官との双方向コミュニケーションで実現する協働型の航空管制支援システムの構築,言語処理学会第30回年次大会(NLP2024),2024(リンク)
高速道路においてトンネル入口等での無意識な減速による渋滞を、光の刺激(ペースメーカーライト:PML)で解消する研究です。VR環境で「人の無意識な反応」をモデル化し、ドライバーに違和感を与えず自然に加速を促す最適な光の動きを、制御理論(モデル予測制御)を用いて設計・検証しています。
研究のポイント
渋滞の正体: トンネルやサグ部(下り坂から上り坂への変化点)での「無意識な速度低下」が原因です
ビジュアルナッジ: 完全に人を排除する自動運転ではなく、光の視覚刺激で「人の無意識」に働きかけ、自発的な加速を促します
制御の視点: ドライバーの心理的な反応(手動制御と無意識制御の組み合わせ)を数式でモデル化し、渋滞を最小限にする光の速度を計算・制御しています
VR実験: 実際の高速道路での実験は困難なため、VR(仮想現実)シミュレーターを活用して、多種多様な条件下でのドライバーの挙動データを収集・解析しています
M. Takeda, M. Inoue, X. Fang, Y. Minami, and J. M. Maestre, Light guidance control of human: Driver modeling, control system design, and VR experiment, 4th IFAC CPHS, 2022 (link)
M. Inoue, M. Takeda, and J. M. Maestre, Benchmark Problem for Visual Nudge: Light-Guided Control of Human-Driven Vehicles, Control Systems Benchmarks, pp.203-215, Springer, 2025 (link)
航空機それぞれの姿勢制御は高度に自動化されていますが、複数の機体が入り乱れる航空管制は、今なお管制官の経験による手動管理が中心です。本研究では、この航空管制の問題に初めて「最適制御技術」を本格導入しました。
具体的には、燃料効率の良い降下方式(CDO)をベースにしつつ、機体間の適切な間隔を保つために「高度」と「速度」の指示を最適化するアルゴリズム「Semi-CDO」を開発しました。これにより、管制官と制御器がインタラクティブに連携し、安全な間隔を保ちながら燃料消費を大幅に削減し、現場の負担を軽減することが期待されます。
現在も、この成果をさらに発展させ、より複雑な気象条件下での運用や、管制官のさらなる負担軽減を目指した研究が続いています。
研究のポイント
制御技術の航空管制への応用: これまで手動だった機体群の管理に、最適制御理論を導入して効率化を図りました
「Semi」の由来: 完全に自動化するのではなく、管制官が指示を出しやすいよう、特定の地点(ウェイポイント)での高度・速度制約として最適解を出力します
研究成果: 関西国際空港をモデルにしたシミュレーションでは、従来の管制方式と比較して、安全な間隔を維持しつつ燃料消費量を顕著に削減できることを証明しました
S. Wada*, M. Ishii*, M. Inoue, and D. Toratani, Semi-continuous descent operation: A fuel-efficient interval management algorithm, Journal of Aircraft, Vol.61, No.2, 2024 (著者*は equal contribution, link, ENRI共同研究, プレスリリース, The Penmark)
M. Ishii, M. Inoue, and D. Toratani, Interval management algorithm for continuous descent operation: Reducing controller workload and mitigating delay propagation, Aerospace Science and Technology, Vol. 176, Part A, 2026 (link, ENRI共同研究)
従来の自動化システムでは、機械が人間を指示通りに動かしたり、すべてを自動で完結させようとしたりするものが主流でした。本研究では、「人を含むシステムの制御(Human-in-the-loop)」という新しいフレームワークを提案しています。特にビニールハウス内の温度や湿度といった農業環境管理に向けて応用しています。
特徴として、システムが最適解を一つに決めて強制するのではなく、複数の「許容できる行動候補」を提示(レコメンド)します。そして、提示された候補の中から、農家さんが「今は別の用事があるから、次の候補の時間に作業しよう」といった具合に、自身の都合に合わせて行動を選択できます。この研究では、実際に大学のキャンパス内に小型のビニールハウスを建てて実験を行い、天気予報よりも高い精度で環境を予測し、適切な作業タイミングを提案できることを確認しています 。まさに「実用化の準備ができている」一押しのテーマです。
人の自由を尊重: システムが行動を強制するのではなく、複数の作業候補(レコメンド)を提示し、農家さんが自分の都合に合わせて選べる新しい制御の形です
植物と人の共生: 植物の成長に最適な「飽差」と、人の作業の快適さを示す「不快指数」の両方を考慮し、双方にとって良い環境を目指します
低コストで実用的: 高価な自動装置を使わず、既存のハウスにセンサーを置くだけで始められるため、小規模な家族経営の農家さんでも導入しやすいのが利点です
菅井,井上,原,中村,吉澤,松本,ハウス内の土耕環境におけるレコメンド型温湿度制御,計測自動制御学会論文集,Vol.57,No.10,pp.456-463,2021(リンク).
従来のモデル予測制御(MPC)は、刻々と変わる状況に合わせて「最適な操作量」を計算し続ける、非常に賢い制御法です。しかし、その計算(オンライン最適化)には大きな負荷がかかり、素早い動きが必要な対象には実装が難しいという課題がありました。この研究では、最適化計算を「解ききる」のを待たずに、計算の途中経過をそのまま操作量として「瞬時(instant)」に決定する Instant MPC という画期的なアイデアを提案しました。この研究により、従来は計算が追いつかなかった高速なシステムにも、MPCのメリット(制約条件の考慮など)を導入する道が開かれました。
【主な利点】
準最適性の確保:最適化アルゴリズムの過程を直接利用しているため、厳密な最適解でなくとも、実用上十分な制御性能を維持できます
計算負荷の劇的な低減:重い最適化ソルバを回す必要がないため、計算能力の限られた安価なコンピュータでも高度な制御が可能です。環境にもよりますが100倍以上高速化できます。
数学的な安定性保証:散逸性理論(Dissipativity theory)という枠組みを用いることで、計算を途中で切り上げてもシステム全体が不安定にならないことを理論的に証明しています
K. Yoshida*, M. Inoue*, and T. Hatanaka, Instant MPC for linear systems and dissipativity-based stability analysis, IEEE Control Systems Letters, Vol.3, No.4, pp.811-816, 2019 (link,*は equal contribution)
人は「命令」されるよりも「提案」される方が、心地よく、かつ自発的に動けるものです。この研究は、そんな人間心理を制御理論に取り入れた、人を含むシステム(Human-in-the-Loop)のための新しい設計指針です 。 従来の制御のように「この値を入力せよ」と1つの正解を強制するのではなく、システム側が「この範囲なら安全です」という許容できる行動候補(選択肢)をセットで提示(レコメンド)します。人はその中から、自分の好みや経験、直感に基づいて自由に行動を選ぶことができます。
【2つの利点】
安定性の保証: 人が選択肢の中でどう自由に動いても、システム全体が不安定にならないことが理論的に証明されています 。内部モデル制御(IMC)という手法を応用し、人の自由な意思決定を「システムのゆらぎ」として捉えつつ、確実に制御しきることができます
目的の分散化(個人の自由を守る): 「システム全体の目的(全体の安定や効率)」はコントローラが担い、「個人の目的(自分の好みやコスト最小化)」は人が担う、という役割分担が可能です 。これにより、システム全体の秩序を保ちながら、個人の自由度(DOF)を最大限に尊重できます
本研究は理論的なアプローチでありながら、これまでにない新しいコンセプトを提案している点に最大の意義があります。人を含む複雑なシステム制御に取り組む当研究室において、以降のテーマ設定の規範となる重要な位置づけの研究です。
M. Inoue and V. Gupta, Weak control for human-in-the-loop systems, IEEE Control Systems Letters, Vol. 3, No. 2, pp. 440-445, 2019 (link)
他にも多くの面白い成果があります。完全なリストはこちらから確認することができます。