小説の部
審査 高橋源一郎先生
審査 高橋源一郎先生
中学・高校から、合作も含めて21編の作品が応募されました。
作品はすべてそのまま審査員の先生に送られ、厳正な審査が行われました。
【最優秀賞】
「臆(こころ)」 高校1年 森山悠愛、森美彩子
「桜の木の下で眠る。」 中学3年 吉村真歩、吉田莉子、弘田花奈子、村島綾菜、横山円香、新村純
(講 評)
最優秀賞作品は、甲乙つけがたく(正確にいうと甲乙丙つけがたく)、二つの作品を選びました。どちらも共作だったのが驚きです。一つは、高校生の森山悠愛さんと森美彩子さんの「臆(こころ)」。テーマは「小説(を書くこと)」、そんな難しいテーマに真正面からぶつかっていく姿勢にうたれました。きちんと「小説」になっています。おみごと。率直にいって、いくつか矛盾と欠陥はありますが、それがなかったら、出版社が公募している新人賞とっちゃいます。次も頑張って。もう一つの最優秀賞はなんと六人の中学生(吉村真歩、吉田莉子、弘田花奈子、村島綾菜、横山円香、新村純)による共作の「桜の木の下で眠る。」。テーマは霊能者。ちょっと怖目のファンタジー。六人もの共作なのに、文体も世界観も見事に統一されていました。キャラクターの描き分けもきちんと出来てるし、もう拍手ですね。それからもう一つ、こちらもほんとうに差がなかったのですが、さすがに三作受賞は難しく、泣く泣く落として、優秀賞になったのが、岡留碧さんの「廻生」。なんというか、不思議な世界観(一種の「輪廻」小説です)の作品ですが、それを断固として実現させている意志の強さが最高です。これも細部をブラッシュアップすれば、新人賞行けますよ。なんか、ふだんやっている小説の新人賞の選考委員目線になってしまいました。
総 評
とにかく、驚くほどレベルが高かったです。みなさん、このままどんどん小説を書いていってください。優秀の三作から。宮腰彩寧さんの「静かな君を彩る」は、亡くなった兄から人生の「彩り」を教わって再生する妹のお話。不覚にも泣きました……。園田百花さんの「生きる希望」のテーマは、学生のみなさんには、いろいろな意味でなじみ深い「イジメ」。うーん、この作品にも胸をうたれました! 出井陽佳さんの「!WARNING!」、とりとめがなく、脈絡がないSFっぽいお話が続くなあと思ったら、結末の大どんでん返しにはびっくり。上手すぎますよ。
ということで、他のみなさんの作品も一言ずつ。関野美紗さんの「四家の姫君の中宮争い」、タイトルそのまま、「光る君へ」の時代(?)を舞台にしたラノベですね、すごく上手でした。岡田知佳さんの「chasing your dreams」は等身大のお話です。でも、ちゃんと言いたいことを言えてますね。御前優香さんの「ここからがスタート」、ふつうの、でも、ちょっといい、優しいお話でした。ぼくは好きですよ、こういうお話。金田結惟さんと鯰江菜央さんの「Distorted rotation」、よく考えられたオチを、的確な文章で書いていました。グッジョブ! 山崎愛莉さんの「デイジー」、短いけど余韻の残るエピソードでした。猫の鳴き声の「なおん」がいいですねえ。秋山英璃さんの「淡藤色の記憶」は、悲しいお話。でもオチはちょっと怖いです。それから、高校生離れしてるなあと思いました。大人っぽい感じですね。尾鼻美海さんの「命」は、ちょっと怖いお話。変なオチをつけずに、そのまま書いた方がもっとすごい小説になったと思います。尾鼻さん、小説家のセンスありますよ。青木佑佳さんの「120年目の贖罪」は壮大なファンタジー。よく最後まで書き切りましたね。ラストのところは要らなかったかも。小川遥加さんの「『生きる』という『選択』」は、等身大の小説で、文章もストレート。すごく感じのいい小説でした。もしかしたら小川さん本人みたいな文体なのかも(想像です)。原田みどりさんの「スポットライト」は、ステキな演劇小説。キャラクターの描き分けもバッチリ! 川辺小夏さんの「今日だけは」は、爽やかな、青春の一瞬をうまく切り取った作品でした。最初に出てくる「写真」、もっと作品中に使った方が効果的でしたね。山田優芽さんの「覚悟しておけ」は、とてもポジティヴで、明るく、爽やかな小説。いいよ、とっても。渡部心海さんの「ランニングヒーローズ」は、甘酸っぱい青春小説。ちょっと強引なところもあったけど、それくらいでいいさ。早川陽香さんの「旅人と海とそれから」は、王道のファンタジー。すごく読みやすかったです。宮坂美羽さんの「あなたへ」は、こういう、断片的な小説もありますね。小説は自由です。もっと工夫するともっと面白くなりますよ。というわけで、みなさん、ご苦労さまでした。読んでいて楽しかったです。