目が醒めた。
目、というか意識という方が正解な気がする。
真っ暗な中で意識だけがふわりと浮いて。
そうしてくるりと意識は回転する。
球体になって、意識がまとまる。
産まれたての赤子のようだ、と思考した。
赤子も産まれたても言葉の意味はわからないが、
なんとなくそう思ったのだ。
それに疑問はあまり感じなかった
やがて真っ白という感覚ができる。色だ。影だ。
感覚が、本能が一生を十周しても読めなさそうな量の蔵書を持っている。
その本をおろして、読んで。あぁこういうものか。というような感じだった。
この意識はこちらの方へ、と思えば動くようだ。
なんとなく知っていた。どの方向へ行けばいいのかということを。
動いてある部屋のようなものにはいる。
ふわり、視界が広がる。
そこには、同じような存在達が集まっていた。
一つだけ、おおきな異なるものがある。
こちらに気づくと、ふわりと近づいてきた。
「やぁ、産まれたてさん。はじめまして。
色々と知ってはいるだろうけど、ここは教室_の廊下だね。
君みたいな産まれたてさんを迎える場所で、
学習場所を移動するところだよ。
君が最後だから、案内するね。君がこれから学ぶ教室に」
会話、というのだろうか。
そのおおきなものはそれを伝え、移動していった。
それについていった。
大学の講堂のような、そんくらい広い場所。
そこが学ぶ教室という場所らしかった。
最後、と言う通りある程度の場所は埋まっていて。
一個だけ空いている場所があったから。
そこにふわりと入った。
途端、視界に色が発生した。
真っ白、影の灰色、外の青色。黒板の緑色。
急激に染まる世界は、元々知っていたからと、すぐに慣れた。
メアリーの部屋の結果はこうなるらしい。
軽い説明が、その場所に一体だけいる灰色のものから。
どうやらこの世界、というものは3つの生態系に分かれているらしい。
生産者。
コアというものが緑色で、餌をもらってこの世界の全てを整える。
消費者。
コアというものが赤色で、亡骸や死にかけの存在があるとそれを食らう。
分解者。
コアというものが灰色で、消費者が食らった後のものや亡骸を分解する。
君達はまっさらな存在だから。
これから三年かけてこの世界の仕組みについて学び、
その後の二年間お試しで3つのうちどれかになったあと、
正式に選んだ生態系となる。と伝えられた。
もし死んでも、専用の地点で全部洗われたあとこうやって産まれるらしい。
そこから、このサイクルが始まった。
______ 一度目
彼の日記から抜粋。
0年、1日目。
日記を書くのが義務らしい。
まだ具体的な自我は定まっていないから、
どうやって書けばいいのかわからない。
話に聞けば灰色達は特別任務で来ているらしい。
アルバイト、だそうだ。
0年、2日目。
ちゃんと継続して書かないといけない。
そういえば昨日書いてないから、
今過ごしている場所のことでも書こう。
今は寮の一室で過ごしている。
産まれたて達は一人一部屋当てられるらしい。
段々と1年、2年と上がっていくと一部屋ごとの人数が増えるそうだ。
0年、3日目。
先生の名前を教わった。フィリアというらしい。
個体名が存在するのは灰色の特権らしい。
他の生態系は見た目からざっくりと呼ばれ、
たまにあだ名という形で名前があるらしい。
が、しっかりとコアに刻まれた名前で呼ばれるのは灰色だけだと。
0年、4日目。
教室以外の場所も行く途中で案内をしてくれた灰色に出会った。
名前を聞いてみたらレクトルというらしい。
フィリアに聞いてみたらフィリアも産まれたてのときに世話になったらしい。
レクトルは一体何年生きてるか誰も知らないらしい。
不思議だな、と思った。
0年、5日目。
今日は生態系の灰色以外も見学しに行った。
赤色が緑色の亡骸を食い散らかして、その後灰色が亡骸を分解する様子。
時計の裏側の緻密な歯車の国を見るような、感嘆が出るような機構だった。
後5年かけて、やがて機構の一部になるのだろう。
ずっと記憶に張り付いている。
以下。取り止めない機械的な日常が続く。
0年、346日目。
今日は初めて自我が発現した。
周りの個体達よりも少し早かったから、フィリア先生に褒められた。嬉しい。
昔のことを思い出して、味気ないなと思う。
自我が発現してよかった。これからも頑張ろう。
0年、351日目。
そういえばレクトルを最近見ない。
自我が発現する前はよく見かけていたのに、
産まれたてで無くなったからだろうか?
フィリア先生に聞いてみても的を得ない事しか言わない。残念。
1年、0日目。
ここに来て1年がたった。
僕の後から自我が発現した子たちとも仲良くやれているし、
まだ自我が発現してない子もみんなでお世話している。
1年、87日目。
僕にも親友ができた。名前はエリック。
少しちゃらけてはいるが、芯はしっかりしているいい子だ。
彼から声をかけてくれて、それからすぐに仲良くなった。
1年、161日目。
エリックと過ごした1日はとても楽しい。
きっと一人のときに戻れないだろう、友情は麻薬みたいな中毒性がある。
エリックと離れ離れになりたくないし、エリックと過ごしたいと思う。
1年、242日目。
一人であることを考えれない。
簡単に考えられたはずの一人の道はエリックと過ごす道に塗り替えられた。
少し怖いと言うか、なんというか。不可思議な恐怖だ。
1年、336日目。
エリックと過ごす日々は楽しい。
とは言っても、僕がエリックに振り回されてるとこはあるんだけどね。
それでも一緒に過ごす時間が楽しいからそれでいいんだ。
2年目、0日目。
今日は産まれて2年目の記念日。
エリックと一緒に美味しいものを食べちゃった。みんなで楽しめてよかった!
これからもよろしくね、エリック。
<中略>
2年目、87日目。
エリックと出会って1年の記念日だ。
記念に物をあげた。僕とエリックのお揃いの物。
びっくりして、すっごい喜んでくれた。ずっと生態系になっても一緒にいようね。
3年目、0日目。
産まれて3年目の記念日!
エリックと一緒に綺麗な景色を見たんだ。また見ようね!
仮体験はエリックと一緒の生産者を選んだ。ずっと一緒。
以下、ありきたりな人間らしい日常が続く
4年目、362日目。
後出しなんてとってもずるいと思う。
分解者以外は生態系になると発話ができなくなってしまうらしい。
エリックの声を聞けないのは寂しいけど、その分今のうちにたくさん聞いておかないと。
4年目、363日目。
夜通しエリックと話した。
どんな姿になるのか二人で想像しあいっこした。
こんな事しても意味がないことは知ってるんだけどね。
4年目、364日目。
にっきをかくいみを見いだせない。
どうしてかかせているんだろう、分解者達は。
わからない、わからないな。この思考もきえちゃうんだろう?
4年目、365日目。
もうおわりなんだろうね。
このにっきも、もうだれもみない。
えりっく、ずっとだいすき。
____5年目。
エリックと僕は二対の生産者となった。
兎のような頭と耳に、柳のような、タツノオトシゴのような流れる体毛。
大きさは小さく、小学生ぐらいの大きさ。
色はまっさらな振り立ての雪のような白で、コアは体毛に優しく包まれている。
エリックは色が夜のような優しい黒になっている。
「寂しがり屋の恋人達」と、分解者の間では呼ばれているらしい。
二人で空を泳いでいる様子を大切な人と見れたら、
きっと二人は転生しても一緒にいれるのだ、と。
それでも、彼らには寿命が存在する。
星が数多降る夜に、二人の声はよく響いた。
確認した時は、お互いを暖め合うように、
寄り添いあってなくなっていたらしい。
魂は、洗われる。
目が醒めた。
目、というか意識という方が正解な気がする。
真っ暗な中で意識だけがふわりと浮いて。
そうしてくるりと意識は回転する。
球体になって、意識がまとまる。
産まれたての赤子のようだ、と思考した。
赤子も産まれたても言葉の意味はわからないが、
なんとなくそう思ったのだ。
それに疑問はあまり感じなかった
やがて真っ白という感覚ができる。色だ。影だ。
感覚が、本能が一生を十周しても読めなさそうな量の蔵書を持っている。
その本をおろして、読んで。あぁこういうものか。というような感じだった。
この意識はこちらの方へ、と思えば動くようだ。
なんとなく知っていた。どの方向へ行けばいいのかということを。
動いてある部屋のようなものにはいる。
ふわり、視界が広がる。
そこには、同じような存在達が集まっていた。
一つだけ、おおきな異なるものがある。
こちらに気づくと、ふわりと近づいてきた。
「やぁ、産まれたてさん。はじめまして。
色々と知ってはいるだろうけど、ここは教室_の廊下だね。
君みたいな産まれたてさんを迎える場所で、
学習場所を移動するところだよ。
君が最後だから、案内するね。君がこれから学ぶ教室に」
会話、というのだろうか。
そのおおきなものはそれを伝え、移動していった。
それについていった。
大学の講堂のような、そんくらい広い場所。
そこが学ぶ教室という場所らしかった。
最後、と言う通りある程度の場所は埋まっていて。
一個だけ空いている場所があったから。
そこにふわりと入った。
途端、視界に色が発生した。
真っ白、影の灰色、外の青色。黒板の緑色。
急激に染まる世界は、元々知っていたからと、すぐに慣れた。
メアリーの部屋の結果はこうなるらしい。
軽い説明が、その場所に一体だけいる灰色のものから。
どうやらこの世界、というものは3つの生態系に分かれているらしい。
生産者。
コアというものが緑色で、餌をもらってこの世界の全てを整える
消費者。
コアというものが赤色で、亡骸や死にかけの存在があるとそれを食らう。
分解者。
コアというものが灰色で、消費者が食らった後のものや亡骸を分解する。
君達はまっさらな存在だから。
これから三年かけてこの世界の仕組みについて学び、
その後の二年間お試しで3つのうちどれかになったあと、
正式に選んだ生態系となる。と伝えられた。
もし死んでも、専用の地点で全部洗われたあとこうやって産まれるらしい。
そこから、このサイクルが始まった。
______ 二度目
0年、1日目。
日記を書くのが義務らしい。
まだ具体的な自我は定まっていないから、
どうやって書けばいいかわからない。
話に聞けば灰色達は特別任務で来ているらしい。
アルバイト、だそうだ。
0年、2日目。
継続して書かないといけない。
そういえば昨日書いてないんで、
今過ごしている場所のことでも書くか。
今は寮の一室で過ごしている。
産まれたて達は一人一部屋当てられるらしい。
段々と1年、2年と上がっていくと一部屋ごとの人数が増えるようだ。
0年、3日目。
先生の名前を教わった。ポレモスというらしい。
個体名が存在するのは灰色の特権らしい。
他の生態系は見た目からざっくりと呼ばれ、
たまにあだ名という形で名前があるらしい。
が、しっかりとコアに刻まれた名前で呼ばれるのは灰色だけなんだと。
0年、4日目。
教室以外の場所も行く途中で案内をしてくれた灰色に出会った。
名前を聞いてみたらレクトルというらしい。
ポレモスに聞いてみたらポレモスも産まれたてのときに世話になったらしい。
レクトルは一体何年生きてるか誰も知らないらしい。
不思議だな、と思った。
0年、5日目。
今日は生態系の灰色以外も見学しに行った。
赤色が緑色の亡骸を食い散らかして、その後灰色が亡骸を分解する様子。
労働者が細々と働くような、碌でもない光景だ。
後5年かけて、やがてこれの一部になるのだろう。
こんなのの一部になりたくないな。
以下。取り止めない機械的な日常が続く。
0年、346日目。
今日は初めて自我が発現した。
周りの個体達よりも少し早いから、ポレモスに褒められた。当たり前だ。
昔のことを思い出してみたが、無機物のようでつまらなかった。
これから今まで通りやればいい。
0年、351日目。
そういえばレクトルを最近見ねぇ。
自我が発現する前はよく見かけていたのに、
産まれたてで無くなったからか?
ポレモスに聞いてみても的を得ない事しか言わない。使えない奴だ。
1年、0日目。
ここに来て1年がたった。
俺の後から自我が発現した奴とも上手くやれてるし、
まだ自我が発現してない子は他の奴らで世話している。
1年、1日目。
他の奴と喧嘩した。
俺だけの物を奪ったアイツが悪いのに、俺が悪いことになった。
何でかよく分からない、どうして。
1年、2日目。
ポレモスに呼び出されて叱られた。
何百回も前の周期のコアで同じように早く出てきたは他の奴と仲良かったらしい。
そんなの俺が知るわけねぇ。うざい。
1年目、3日目。
勝手に他の奴が泣いた。
ただ俺はその先に行きたくてソイツが邪魔だっただけなのに、
また俺が悪者にされた。理不尽だ。
1年、4日目。
ポレモスに違う場所につれてこられた。
反省部屋というらしい。俺はただ俺のように生きてるだけなのに。
世間様はずいぶんと窮屈らしい。けったいな事だ。
1年、95日目。
他の奴と反りが合わない。
俺の周りには俺を慕ってくれる奴しかいない。
あぁ、早く生態系にならないかな。
<中略>
1年、346日目。
自我が発現してから1年がたった。
もうぼんやりと皆生態系を意識しているらしい。
俺はもうとっくに意識してるし決めてるから関係ない。
2年、0日目。
来てから2年がたった。
あと1年待てばやっと仮体験が始まるんだ。
早く年月が経って欲しい。
<所々破られている。中略>
3年目、0日目。
やっと仮体験が始まる。
俺は消費者。分解や生産なんてのになるかよ。
世界の覇者は紛れもない俺だ。
3年目、1日目。
先に生きているやつにあった。
亡骸の喰らい方、喰っていい奴と喰っちゃいけない奴。
消費者の基礎に関することを教わった。
3年目、2日目。
初めて喰らった。
それは失敗した分解の亡骸だった。
美味いなって感じた。これが消費者の特権か。
3年目、3日目。
生産者の死にかけも食べた。
コアに刻まれているのか、習わずとも喰らえる。
あぁ、俺はやっぱり世界の覇者になる運命なんだ。
以下、獣らしい日々が続く。
4年目、362日目。
そろそろ本当に分解者になれると思うとワクワクする。
言語が話せなくなるそうだが、別に関係はない。
だって俺は、分解者になるのだから。
4年目、363日目。
あともう少しで分解者になれるのが本当に嬉しい。
あぁ、ようやく待ち望んだものになれる。
歯車でも。一番巨大な歯車になってやるよ。
4年目、364日目。
明日は一人で過ごしたいから、仲間達と過ごした。
皆、俺の子分にふさわしい形になっていた。
もし覚えていたらだが、また会おう諸君!
4年目、365日目。
仮体験が終わる。
あぁ、やっと俺は世界に君臨するんだ。
二つ名はなんだろうか。おやすみ、いい夢を。
____5年目。
俺は、望み通り世界の覇者となった。
ソリウス、というのが与えたれた二つ名だった。
見習いの正しい脅威として。
世界に住まう消費者の最大の清掃者として。
姿は、狼の顔に虎の足、ライオンのたてがみにワニの尻尾。
そして俺を代表するのはチーターの素早さとガゼルの持久力。
あぁ!素晴らしい。これこそ世界の覇者なのだ。
そうやって、世界に君臨して。君臨して、君臨して。
寿命が、来てしまった。
なんとなく、今日死ぬのだとわかってしまって。
生前だったら喚き散らす所だと思うのだが、
でも歯車としてずっと生きていたからか拒否感はなかった。
最後に、俺は意味もなく吠えた。
世界に存在した最後の痕跡を、爪痕をつけるように。
そうして、俺は死んだ。
ソリウス、全て言うとソリタリウス。
寂しがり、とつけられた魂は洗われる。
______ n度目
目が、覚める。
瞳を観測する。色覚があって、影の感覚があって、立体構造が確認できて。
手を広げて、握って、閉じて。
そうやって自分の「手」を観測する。
次に、自分の肉体もぐるりと観測する。
血液が全身を組まなく渡るように、
肺胞一つ一つ、心臓の筋肉、DNAの一つ一つ。
すべてを余すことなく完璧に完全に観測を行う。
確か、ボクの名前はレクトル。
そうやって自分が作り終わると周囲を見渡す。観測する。
そうすると、そこはどうやら図書館のような場所だった。
「あ、あれ?!君もう観測し始めてるの!?」
ふわり、と誰かが来た。
そちらの方に目を向けると、胸の位置にある球体(自分もそういえば透明だが存在する)が透明の人間のような。
いや、おとぎ話の天使が一番近いだろう。天使がいた。
「君、しかも透明じゃないか!名付けも終わってるってことは、
えっ、もしかして前の記憶とかあったりするかい?」
そう食いつくように天使っ子はボクにぐいぐいと来ていた。
「確かに、前の記憶は存在s」そう答えかけると、
「え?!?!本当かい!?あっちゃ〜、じゃあ先に謝罪をしよう。
ごめんね、管理局を代表してテセウスが謝罪するよ。
本来君みたいな魂は存在しないはずだし、
もし出たら周囲を観測する前に管理局が来る手はずなんだけどね」
そうド苦労人のようにトホホ、と天使っ子はどこからか取り出したハンカチで額の汗を拭う。
管理局というのは多分透明のコアの者たちだろう。
「その、めちゃくちゃおこがましいんだけどさ。
もしよかったら君の輪廻がこの方向にいかないようにその輪廻に存在しててほしいんだ。」
それはどういうこと?と思わず聞こうとする
天使っ子は気がついたようにあぁそうそう、と話を続ける
「輪廻の中でもね、生産者と消費者と分解者の人数制限があるのよ。
だから君が分解者にいたら生産者か消費者になるしかないの」
なるほど。確かに消費者か生産者にしかならなかった。
でも同じ存在が2つ居て管理局、そちら側は大変ではないのかと疑問が湧く。
「いいのいいの、元々こっちの責任だしね。
だから君はその分岐点、まぁちょっと分解者のフリをしてくれたらいいんだよ」
それならまぁ自分は責任を取らなくていいのならいいか。と思う。
管理局が責任取ってくれるのなら元々そちらのせいではあるし、なんら関係ないと思う。
「じゃあ、一応もう一回生まれる場所に送るから
うまく行けるよう祈ってるよ!それじゃあね!」
目が醒めた。
あぁ、正常にどうやら送られたようだった。
真っ暗な中で意識だけがふわりと浮いている。
暗い海の中を一人で生きているようだった。
己の体を何回も繰り返したように球体に観測し、意識をまとめる。
産まれたての赤子もきっとこのような場所にいるのだろうか。
そういえば前に、胎児は夢を見るという話を聞いたことがある。
この世界が存在してから、
生物の元となる星が衝突し、摩擦熱でマグマの海ができ、
長い年月をかけて冷えて固まり、海がやがてそこに存在し、
そして何かの奇跡で単細胞の生物が誕生した。
約35億年間の全ての生物、いわゆる前世というものを体験する。
そういった話だったはずだ。
そんな事を考えているとやがて真っ白という感覚を思い出す。色だ。影だ。
感覚が、本能が一生を十周しても読めなさそうな量の蔵書を持っている。
ここに落ちる前に観測した図書館のようなものは己の感覚や本能だったらしい。
その本をおろして、読んで。あぁこういうものか。というような感じだったのを思い出す。
球体の状態から、移動するということを観測すればその方向へ移動する。
知っていた。いや、何回もやっていたどの方向へ行けばいいのかということを繰り返していた。
もう何回見飽きただろうか、自分はある部屋のようなものにはいる。
ふわり、視界が広がった。
「うんうん、うまく行ったみたいだね。
君には来る子達の道案内を頼みたいかな〜、一番お寝坊さんだから。君って。」
そう、どこからか声が聞こえてくる。管理局の人間は表舞台に出ることは許されないようだ。
自分は一応ここに分解者としているため、他の真っ白なコアの産まれたてよりは大きい。
白いコア達がわらわらと集まっている様子はまるで保育園児のようだった。
彼ら一人一人に声をかけ、教室に誘導をする。
まぁ自分が来るまでは単なるアナウンスの方が正しいかもしれない。
ざっと数えて2700以上のコアが移動してくる。
いっぱいいるなぁという認識だったがいざ数えるとそんなにいたのか。
そんなこんな考えながら半ば機械的にアナウンスを繰り返す。
そうやって暫く過ごしていたら最後の一人。つまり自分が来た。
少し優しく、自分に伝えてしっかりと案内をする。
ちゃんとついてきている事を確認しながら、小さな自分を教室へと。
大学の講堂に、先生の役目を持った灰色がいる。
目が合う。軽くお願いします、と会釈をする。ここまでだ。
大丈夫、ここまで来たならきっと出来る。
だから行っておいで。君の未来には明るいものしかないんだから。
「ねぇ、ボクはここで終わりかい?」
どこかにいるかわからない天使に、
そう、いつかの時に何気なく尋ねる。
一応人数が換算されるまでこの世界にいる必要があったから。
「うん、そうだね。もう少しで、君の輪廻は終わり。」
ふわりと透明なコアの天使が降り立つ。
なんとなくこの場所の屋上に歩き出す。
途中、自分に出会ってお別れの合図をした。
多分きっと君は気が付かない。気が付かなくていい。
屋上は、この世界のある程度が全て見渡せるような場所だった。
食うもの、食われるもの、解するもの。
それらの営み全てが見渡せる場所。
そこが、生まれた場所の、魂を洗い清めた場所の、屋上だった。
いざ、こうやって見下ろしてみたら綺麗だとしか形容できなかった。
どうしても、この殺して生かして分解するサイクルが。
どうしても綺麗だと思ってしまったんだ。
「、どうして。僕はこの輪廻に巻き込まれたんですか」
ぽつり、となんとなく天使に訪ねてみる。
なんで尋ねるのかというのはよくわかっていない。
「さぁね、管理局の下っ端にはわからない。
でも君は」
そこまで言って、天使は目を伏せて口をつぐんだ。
「いや、これはナンセンスだね。
結局管理局は管理をするだけなんだ。
観測をされた彼らを管理して。また観測されたら管理をして。
透明は表面上は含まれないだけで、サイクルの一つ。
管理局もどうしてこの世界にいるかなんてわからないよ。
外部から来た、魂のことも。観測のことも。
みんなが役目に従って、そうやって生きている。
そうやって、この世界が観測されているんだ」
天使は告げる。
この世界のことを、世界が回る、捕食されている。分解されている。餌を与えている世界を。
「君の観測は。ここで、終わりなんだ」
天使は、語り部のように告げる。
輪廻が回っている世界を、背中にしながら。
そう、観測は。終わってしまうんだ、そろそろ。
「お疲れ様。 君」
そう、言葉が告げられる。それは、ボクの本当の名前だ。
生まれ変わるコアに刻まれた名前ではなくて、ボクだけの名前だ。
「これにて、物語の観測は終わり。
これからも、誰かの世界の観測を忘れずにね。
君は現実を生きて、僕達は輪廻を生きるから。」