アートとテクノロジーの交差と位置付けられるメディアアートの作品体験は、作品が制作された時点のテクノロジーと人々の知覚に大きく依存します。作品がメディア環境に埋め込まれていることは、作品の保存・修復だけでなく作品体験の維持を困難にします。このため、美術館やギャラリーといった展示の現場での取り扱いにくわえてアート市場での流通が難しく、周縁化されて続けてきました。
しかしながら、メディア環境に埋め込まれているということは、作品の保存・修復・維持という観点からは課題でも、アーカイバル・リサーチの観点からは大きな可能性を見出すことができます。メディアアート作品そのものを、制作された当時のメディア環境や人々の知覚のアーカイブとしても捉えることができるからです。本連続研究会では、この観点からメディアアートにおけるアーカイバル・リサーチを再考します。
企画・司会・進行:小林茂(情報科学芸術大学院大学[IAMAS]図書館長・教授)
アーキビスト/キュレーターの明貫紘子さん、コンサベーターの田部井勝彦さんにお越しいただき、岩井俊雄さんの「時間層」シリーズや三上晴子さんの《存在,皮膜,分断された身体》の再展示をめぐるお話を伺います。
明貫紘子/映像ワークショップ合同会社 代表
1976年石川県生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]学芸員を経て、inter media art institute(ドイツ)にてビデオアートのアーカイブ構築に従事。メディアアートをはじめアニメや地域コミュニティなどのアーカイブに関する研究やプロジェクトに多数従事。主なプロジェクトに「岩井俊雄アーカイブ&リサーチ」「かがが」「アニメ背景美術アーカイブ&リサーチ」。2018年から木村悟之と石川県加賀市を拠点にして「眠っている文化・芸術資源を掘り起こし、次世代の創造性につなげる」ことをテーマに活動する。金沢美術工芸大学および京都精華大学非常勤講師。
田部井勝彦/株式会社MeAM代表取締役
1978年生まれ。2007年情報科学芸術大学院大学[IAMAS]修了。在学中よりメディアアート作品の制作を行う。また、美術展インストーラーとして映像やメディア技術的表現を専門に、多くの作品や展覧会施工を担う。2022年テクニカルディレクターとしてシビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]立ち上げに参画。2025年株式会社MeAMを設立し、メディアアート作品の修復、保守サービスを開始。主な修復実績は岩井俊雄《時間層シリーズ》、三上晴子《存在、皮膜、分断された身体》、マウリツィオ・カテラン《Untitled》など。
本学教員のクワクボリョウタ、松井茂より、本学附属図書館が収蔵する《Light on the Net》と「坂根アーカイブ」をめぐるお話を伺います。そのうえで、メディアアートを中核とする学校として日本で最初に開学し今年で30周年を迎える本学が取り組むアーカイバル・リサーチの展望について議論します。
クワクボリョウタ/情報科学芸術大学院大学[IAMAS]教授
1998年より活動を開始する。電子デバイスを素材とし、観賞者に積極的な体験を促す装置的な作品によって、「デバイス・アート」とも呼ばれる独自のスタイルを生み出した。その代表作には《ビットマン》、《PLX》、《ニコダマ》などがある。2010年発表の《10番目の感傷(点・線・面)》発表以降は、観る人自身が内面で体験を紡ぎ出すような光と影のインスタレーション作品(LOSTシリーズ)を制作している。ソロ活動の他、山口レイコとのユニット、パーフェクトロンとしても活動し『デザインあ展 neo』(2025年/TOKYO NODE)の展示構成などを手がける。
松井茂/情報科学芸術大学院大学[IAMAS]研究科長・教授
1975年東京生まれ。著書に『虚像培養芸術論 アートとテレビジョンの想像力』(フィルムアート社、2021年)、川崎弘二との共著書に『坂本龍一のメディア・パフォーマンス マス・メディアの中の芸術家像』(同、2023年)、伊村靖子との共編書に『虚像の時代 東野芳明美術批評選』(河出書房新社、2013年)等。キュレーションに「磯崎新 12x5=60」(ワタリウム美術館、2014、15年)、「磯崎新:群島としての建築」(水戸芸術館、2025、26年)等。アーカイブ監修に「坂本龍一|音を視る時を聴く」(東京都現代美術館、2024、25年)等。