哲学や心理学、宗教について学び、人間と機械の接点、未来について模索することをテーマに開講している学校設定科目(公民)。多分、今一番力を入れている。科目名は「認知科学」と悩んで、「人間と機械」とした。基本は、認知科学。
高校時代に教わった科目の中で「倫理」が一番面白く、情報科の視点を持った自分だったら「倫理」をどう教えるかを考えて生み出した科目。情報科でない理由は、この科目は「問題解決」を主眼としていないため。
教科書として「倫理」を使用。高2選択週2コマ(分割1コマずつ)、TTではない。生徒は全員「情報Ⅰ」を履修済み。
1クラス20~25名程度,年間で50時間程度。
2022年度までは「倫理」として開講。
科目の概要はこちらの発表が詳しいです。
1学期:「人間と機械編」「心理学編」「哲学のはじまり編」
2学期:「西洋思想編」「東洋思想編」「ロボット・AI編」
3学期:「探求活動編」
「人間」と「機械」は異なる。本当にそうだろうか?
#01 人間とは何か?
価値判断と事実判断、4つの産業革命、3回のAIブーム、機械破壊運動(ラッダイト運動)
#02 機械に任せたいこと,任せたくないこと
#03 幸せとは?
サルトル、エピクロス、J.S.ミル、アリストテレスなど「幸福」に関する哲学者の思想
#04~#06 「イヴの時間」を通して考える「人間と機械」の関係
フランケンシュタイン・コンプレックス, 不気味の谷現象,ロボットフレンドリープロジェクト
#07 心の哲学~機械で心は作れるか?~
チューリングテスト、中国語の部屋、コンピュータ機能主義、シンボルグラウンディング問題、哲学的ゾンビ
「人間と機械」を追求すると,「心」が重要なように感じる。では「心」とは一体何なのだろうか?
#08~#09 「人格」の心理学
フロイトの力動論(エス・自我・超自我)、交流分析(エゴグラム)、ユングの向性検査
#10~#12 心理学史と「認知」の心理学
心理学史(ヴント・行動主義・ゲシュタルト心理学)、認知心理学(知覚・記憶)、系列位置効果再現実験、ストループ効果
#13 「発達」の心理学
心の理論、認知発達段階説(ピアジェ)、発達理論(エリクソン)、自我同一性形成度チェック
#14「顔認識」に着目する「人間」と「機械」の違い
OpenCV、新生児の顔検出、文化圏における表情認識、サッチャー錯視
#15 心の哲学2~心とはあらためて何か?~
クオリア、「中国脳」仮説、マリーの部屋,集合的無意識
「心」を追求すると,哲学的な問いに遭遇する。哲学的な思索を深めてみよう。
#16 ギリシャ神話
#17 万物の根源
#18~#19 ソクラテス・プラトン・アリストテレス
人間にしか作り上げられない存在に、「神」がある。我々人間が「神」をどのように作り出したかを明らかにし、人間の特質を考えてみたい。
#20~#21 キリスト教
ユダヤ教と創世記・イエスの教え・キリスト教の発展
宗教的な考えが支配する世の中を「理性」が作り変え、人間や社会を「機械化」する。その流れに、人間はどう抗ったのか?
#22 理性への信頼
科学革命・デカルトによる人間の機械化・ホッブズによる国家の機械化
#23~#24 実存主義・理性への懐疑
主体性の回復・キルケゴール・ニーチェ・サルトル・構造主義・社会主義・功利主義と義務論(カント)
西洋思想が最後に辿り着いた答えに、東洋思想は初期から辿り着いていた。昨今,情報科学の領域では東洋思想に注目が集まっている。
#25 東洋思想① インド思想と仏陀の生涯
#26 東洋思想② 四諦中道の教え
諦めるとは明らかにすること
#27 東洋思想② 空の思想 〜そもそも意識とは?〜
空の思想・受動意識仮説
#28 日本思想の源流と日本神話・諏訪神社訪問
倫理の学習を終えた今、あらためて「人間と機械」を考える。
#29 【機械→人間】あたたかいテクノロジーLOVOT 〜ロボットに心はある?〜
#30 【人間→機械】技術はどこまで進歩して良いか? ~生命とは~
脳死,安楽死,ゲノム編集,死後労働D.E.A.D,AIによる死後復活
#31~#32 【人間⇔機械】人間と機械の間で 攻殻機動隊 第2話「暴走の証明」/第15話「機械たちの時間」を考える
初期の哲学者は「理性」を重要視してきた。それでは「理性」を追求した先に「人間」はいるのだろうか? 人工知能との会話を通じて考えてみよう。
#33 生成AIに触れてみる(生成AIで自己PR書を作成!)
#34 議論① カウンセラーは機械のほうが良い?
#35 議論② あなたは人間であるとどう主張する?AIであるとどう見抜く?
#36 議論③ 生成AIの是非
「倫理」をテーマとした探求発表 授業記事
すべてメディアルームに所蔵。授業コンセプトにしている本。基本、自分自身が衝撃を受けた本をもとに噛み砕いてストーリー化している。
主に哲学・思想に関する書籍
「16歳の道しるべ 哲学の物語(西洋編,東洋編)(鈴木雅也)」
「機械より人間らしくなれるか?(ブライアン クリスチャン)」
「NEXUS 情報の人類史(ユヴァル・ノア・ハラリ)」
主に生命倫理に関する書籍
「人間はどこまで家畜か 現代人の精神構造(熊代亨)」;急速な文化の進展が、人間を疎外している
「いのちを“つくって”もいいですか?―生命科学のジレンマを考える哲学講義(島薗進)」;「変えていく愛」と「受け入れる愛」
「生物と無生物のあいだ(福岡伸一)」
主に心理学に関する書籍
「心理学入門一歩手前―「心の科学」のパラドックス(道又爾)」
「ものぐさ精神分析(岸田秀)」;人間は本能の壊れた「動物」である
「新・自分さがしの心理学」(ナカニシヤ出版);エゴグラム等のテキストとして使用
「心理学実験を学ぼう!」(金剛出版);系列位置効果実験のテキストとして使用
「認知神経科学(放送大学,道又爾)」
「錯覚の科学(放送大学,菊池 聡)」
「心理学ワールド(日本心理学会 機関誌)」
主に情報科学に関する書籍
「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの(松尾豊)」
「〈弱いロボット〉の思考 わたし・身体・コミュニケーション(岡田美智男)」
「温かいテクノロジー AIの見え方が変わる 人類のこれからが知れる 22世紀への知的冒険(林要)」;LOVOTを紹介する書籍
「明日、機械がヒトになる ルポ最新科学(海猫沢めろん)」
授業で取り扱った作品
「奇跡の人」
「イヴの時間」
「攻殻機動隊」
「serial experiments lain」
「人魚の眠る家」
「肩の上の秘書」
「世界は何から出来ているか」「愛とは何か」、「人間とは何か?」、「人は死んだらどうなるか」、「幸福になる、豊かになるとは」。一言でいえば倫理は多分、“当たり前””考えても仕方がない”と思っている領域を、丁寧に壊し、再構成していく科目です。高等学校で学ぶ科目の中でも一際、異質な科目だと思います。「問題が解けるようになった!」「できるようになった!」という爽快感を味わうことはできませんし、きっと心の中に一年間たくさんのモヤモヤを抱えていくことになると思います。でもそれが、本授業のねらいです。
倫理には難解な哲学用語が多く登場しますが、本質は”考え方”です。この考え方に迫るメタファーとして、本授業では「人工知能」を多く用います。「人工知能と恋愛が出来ると思う?」と考えることで自分達が恋愛に求めることに気付き、「人工知能と人間の違いは何だと思う?」と考えることで、何となく考えていた人間らしさ、自分らしさに答えを持つことができる、担当者はそう考えています。それは、担当者自身が大学で人工知能・心理学を学ぶ中で、数々の”当たり前”が壊れた経験に基づきます。当たり前が壊れた時、その人の視野はぐっと広がります。
「人工知能」はあくまで1つの例ですから、皆さん自身の関心に基づいたメタファーを是非心の中に用意してください。個々人が冒頭に示したような問いのうちから最低1つのテーマについて、1年間のうちに自己が受講前に抱えていた認識を壊して再構成することが、本授業の目標です。それはきっと、皆さんの人生の指針の1つになるはずです。