研究内容
Simplicity is the ultimate sophistication
Simplicity is the ultimate sophistication
ヒトの胃や腸では消化吸収や血糖調節など生命活動に重要な消化管ホルモンが産出されています.加齢と共に変化する消化管ホルモンの調節異常は,生体恒常性の破綻を引き起こし,萎縮性胃炎・腸内細菌異常増殖症候群・大腸癌や糖尿病など様々な疾患発症の要因となります.そのなかでも我々は腸内細菌-宿主間の相互作用に注目し,食事-細菌-代謝産物の軸を介した神経内分泌細胞の発生過程を理解するために以下の3つの研究テーマを推進しています.
当研究室の最終目標は,組織幹細胞を制御するプロバイオティクスとプレバイオティクスの開発を通し『腸内環境を自在に制御(デザイン)する社会の実現』です.しかし,腸内環境は我々のカラダを構成する細胞のみならず,1,000種30兆個といわれる無数の微生物が共生しています.ヒト遺伝子は約3万遺伝子ほど見積もられていますがその機能のほとんどは未だ理解できていません.また微生物の遺伝子総数は約1,200万(日本人では500万*: 他の民族より類似性が高いのは面白いですね)遺伝子ほど存在することが明らかにされています.したがって,それらの組み合わさって構成される腸内エコシステムの複雑性を理解することは容易ではありません.そこで我々は,オルガノイド培養法と呼ばれる生体臓器培養法を利用して,微生物学,生物統計学,ビックデータ解析法などを組みあわせることで,この複雑さを紐解く研究を推進しています.
Project 1: Understanding the molecular mechanism of interaction between gut bacteria and host cells.
Sasaki et al. (2020) Gastroenterology
腸内細菌と宿主は共生関係にあり,互いに様々な生理機能をもっていることが報告されています.しかし,その相互作用に関する詳細なメカニズムのほとんどは理解されていません.また,腸内共生細菌の中には種特異性があるため,ヒトから単離された細菌はマウスなど実験動物に定着しません.そこで我々は,ヘビ・マウス・ラット・イヌ・ブタから,ヒトの臓器の生体外培養を可能にするオルガノイドを利用したex vivo解析や無菌マウスや遺伝子改変マウスを用いたin vivo解析を組み合わせ,宿主-細菌間に存在する分子基盤の理解を目指しています.細菌が宿主に与える影響を調べるために腸内細菌の単離培養, シングルセルRNAシーケンス,メタボローム(代謝),グライコミクス(糖鎖)などの発現変動の統合解析(マルチオミックス)を実施しています.
Project 2: Elucidation of disease pathogenesis induced by disruption of symbiotic relationship with intestinal bacteria and development of new therapuitic methods.
Takeuchi, Miyauchi et al. (2019) Nature
Miyauchi et al. (2020) Nature
Nakamoto, Sasaki et al. (2019) Nat Microbiology
Sasaki et al. (2017) Nature
ヒトは加齢と共に腸内環境がどんどん変化していきます.この腸内環境の乱れ(dysbiosis)は腸の疾患のみならず,関節リウマチ・肥満・糖尿病・うつ病など全身性の疾患と関係することが知られています.しかし,そのほとんどはdysbiosisと疾患の相関性に関する報告であり,実際の因果性が証明される事例は少数しかありません.そこで我々は,オルガノイド培養法を利用し内分泌・代謝疾患発症の原因となる責任細菌の単離を目指し,その機能を理解することでdysbiosisと疾患の因果性を明らかにしていきます.このような基礎-臨床一体型研究は,医学部を有する群馬大学の特徴的なものでありまして,本課題研究は群馬大学医学部付属病院,ならびに関連病院の先生方の多大なる御協力の下行われているものです.
Project 3: Human organogenesis using the Organoid culture system.
Sasaki et al. (2017) PNAS
Grun, Sasaki et al. (2015) Nature
Schwank, Sasaki et al. (2013) Cell Stem Cell
体内の臓器の形は人それぞれですが,それらの構造は個々の器官の能力が最大限に発揮できるように進化してきた結果であります.このような分化した細胞が正しく配置され,機能的な器官が形成される過程は長い間研究されてきましたが,その発生過程は複雑性や倫理的な問題などからほとんど理解されていません.オルガノイド培養法の最大の利点の1つは,単一の組織幹細胞(シングルセル)から創られるヒトの臓器の発生を研究できることにあります.我々は,独自に開発したCRISPR/Cas9とオルガノイド培養法を組み合わせ,ヒトの臓器の発生や修復プロセスの理解を目指しています.