Snは高炉材にはそもそも全く含有されていないことから、その挙動の把握は実用を考えたときにはあまり注目されていない。市中材SN490Cを購入して溶接継手実験を実施したところ、顕著な焼き戻し脆化を示すことを発見し、これを東京ガスが興味を持っていたポップイン実験の供試材として使用する試みがなされた。(結局この方法は安定したポップインを発生させるには至らなかったが)
(2)2018Fy頃の実験
共同研究の枠組みがスタートし、2018Fy頃には大入熱溶接のダブルサイクルでの靭性劣化に着目した研究を開始した。大入熱CGHAZおよびCGHAZ+400℃程度の焼き戻しサイクルを受けることを想定した熱サイクルを百合岡の式から決定。左は最終的に整理に用いたCTOD計算のためのエクセルファイルである。この時のシングルサイクル材は比較的広範な温度帯でCTOD試験が実施できており、一応遷移曲線の形を決める定数を決めたと言っても良いかもしれない。
autoMLによる識別機試行、手持ち鋼鈑破壊靭性試験による焼き戻し脆化評価を行ったもの。粒界破壊っぽいと説明しているが、良く見るとやはりへき開。
さらに真空溶解にてSn,Bの影響を調査した。この報告書には高C(0.50C)のものの結果が収録されているが、顕著な焼き戻し脆化は認められない。ただしSnのレベルは0.01%とかなり低めに設定している。
さらに低C(0.05C)ベースで同様にSn(0.01%)とBの影響を調査した。高C同様顕著な焼き戻し脆化は見られなかった。
そこで、Sn量を0.1、0.2%とかなり増加させ焼き戻し脆化の確認を行った。明らかな焼き戻し脆化が見られた。何故(1):母材QT熱処理では0.01%でも脆化が見られ、溶接熱サイクル試験では0.1%程度まで増加させないと脆化が顕著化しないのかは不明なところがあるが、そもそも1350℃に加熱したCGHAZはかなり低靭性であることが原因かもしれない。破面SEM観察を実施したところ、破面形態はへき開破壊であった。つまり、一連の再現熱サイクル試験で一度も明確な粒界破壊は認められていない。高延性とは対照的である。