ゼロカーボン社会確率のために水素社会に移行する流れは止めることができないようである。再生可能エネルギーの戦力化にはまだまだ時間がかかりそうなことから、資源国におけるCCS(Carbon dioxide Capture and Storage )と並行した水素製造の適用が最も有望な手法である。生産国から水素を輸送する方法は幾つかのキャリアの案が考えられているが、ここでは最も早く実現が目されている単純低温液化をメインに検討する。
単純液化の技術は宇宙産業向けにすでに現存していることから、コストを度外視すれば実現は可能である。しかしながら、大量消費エネルギーキャリアとするには、政府の掲げるターゲットコストを満足することが必要である。これには現存の輸送船・貯槽構造物ともにその容量を大幅に増加させなければならない。
低温液化貯槽の大型化はLNGに学ぶところが大きい。LNGタンクは1940年代に米国にて世界最初の構造物設置が試みられたが、大爆発事故を起こすことにより20年の凍結期間をもたらすことになる。1963年に実質的な初適用を行う際には実大破壊試験を入念に行うなど極めて慎重な姿勢が取られたことは有名である。それ以来、世界中でLNGタンクは製造され、ダブルインテグリティを要求されるようになるなどの変遷を経て、今や25万m3もの大型タンクが実現している。最近ではもっぱら地上式平底円筒型タンクが採用されている。
平底円筒型タンクを我が国のような地震国に設置する場合には、激震時のタンクの変形や構造物に負荷される塑性ひずみを念頭においた破壊アセスメントが必要である。液化水素用材料としてこれまでの幾つかのPJによりSUS材が有望とされているが、実際のタンクの設計や地震動を考慮した検討が行われたことはない。本研究ではまず、代表的な市販SUS材を用いた加工誘起マルテンサイト量評価に重点を置いた基礎的検討を行う。
先行文献ピックアップ
1989年の論文。繰り返しひずみ付与条件下におけるSUS304Lの加工誘起マルテンサイト量評価実験。
2011年の国際学会論文。チェコスロバキア。同じく316Lの評価結果
NIMSで実施したSUS材の低温引張試験
実験計画