近年,日本では生活道路での事故が問題となっている.生活道路のような見通しの悪い交通環境では,車載センサの利用のみでは出会い頭事故の防止が困難であり,新たな対策が必要とされている.一般的には,道路に設置したセンサや交通参加者のスマートフォンなどから情報を取得し,自車から見えない領域の交通参加者の位置を把握することが有効である.しかし,道路全体を観測可能なようにセンサを配置することはコストの観点から現実的でなく,すべての交通参加者がスマートフォンの情報を提供することは想定できない.そのため,リアルタイムで得られる情報が限られた状況での位置推定手法が必要とされている.そこで本研究では,図1のように一度路側センサで観測された交通参加者が観測範囲外に出て行き,観測値が得られなくなった際に位置推定を継続する手法検討する.具体的には,事前に蓄積された統計的な情報から仮想的なセンサ観測値を生成・利用することで,リアルタイムの観測値の不足を補い,小さな不確かさで位置推定を継続する手法を提案する.
図1
提案手法の具体的な流れを図2に示す.提案手法では,統計情報から算出した仮想的な観測値と路側センサによりリアルタイムで取得された観測値をカルマンフィルタにより統合して位置推定を行う.カルマンフィルタはセンサ観測値の不確かさを考慮可能な手法であり,推定値xとその不確かさPを出力する.今回の想定環境では,リアルタイムで利用可能な観測値が限られており,推定の不確かさが増大してしまう点が課題となる.提案手法では,交通参加者の移動特性を表現している統計的な情報から仮想的なセンサ観測値を生成・利用することで位置推定の不確かさの増大を緩やかにする.ここで,仮想的なセンサ観測値zとその不確かさRは,サイクリストの平均速度とサイクリストの取り得る速度の範囲をもとに算出する.また,この際に仮想的な観測値を過剰に信頼してしまわないように仮想観測の周期とその不確かさを決定する.
図2
提案手法をシミュレーションにより評価し,提案手法が従来手法と比較して位置推定の不確かさを低減しながら適切な位置推定を行えることを確認した.さらに,実機実験を行い適切な位置推定を行えるか検証を行った.実験の結果から,提案手法が位置推定の不確かさを小さく保ちながら適切な位置推定を行えることを確認した.詳細な結果に関しては,論文をご確認いただきたい.今後は,道路ごとの異なる移動特性の考慮手法の検討および統計情報の構築手法の検討に取り組む.
関連発表
鈴木健斗,楊健宇,伊藤太久磨,サイクリストの移動パラメタを仮定した確率論的位置推定手法の初期検討,第22回ITSシンポジウム, 2024.
謝辞
本研究はJSPS科研費 21K03976とスズキ財団の助成を受けて実施いたしました.