生活道路の無信号交差点は,塀や建物によって見通しが悪くなり,出会い頭事故が発生しやすいという特徴がある.特に,歩行者や自転車利用者等の交通弱者は事故により重傷化しやすく,交通弱者を対象とした事故防止システムの開発が求められる.事故防止システムの開発に向け,交差点での衝突リスク評価手法について研究されており,このような手法ではリスクの一要因として見通しの悪さを評価する必要がある.このとき,既存の見通しの悪さ評価手法は車載センサを持つ自動車の視点を前提としており,交通弱者視点での見通しの悪さが評価できないという課題が存在する.そこで本研究では,任意地点での見通しの悪さを事前に評価し,通行中の交通参加者にそのデータを配付するという事故防止システムのフレームワークを提案する.図1に,提案するフレームワークの流れを示す.提案するフレームワークにより,交通弱者はスマートフォン等に内蔵されたGPSの位置情報を活用することで,リアルタイムの通行位置における交差点の見通しの悪さの評価を取得できる.本研究の目的は,交通参加者に配付するデータである「道路上の任意地点の見通し評価結果を記録した電子地図」の生成手法を構築することである.
図1 提案する事故防止システムの概要
提案する手法では,LiDARで取得した交差点周囲の点群データと,交差点や道路の位置が記録された地図情報を連携させている.これにより,道路上の任意地点における交差点の見通しの悪さをシミュレータ上で評価することが可能となる.このときの見通しの悪さの指標として,交差点の視認領域の水平角である「視野角」を用いた.視野角は,視点を基準として一定の水平角で空間を分割し,各空間内の点群の有無をもとに算出している.このときの視野角は,道路の進行方向を基準として左右それぞれに関して算出した.図2に,十字路における視野角算出方法の概要図を示す.図中の緑の点は道路の中央に設置された視点を表しており,青の点が表す点群をもとに左右の視野角を算出している.提案する手法では,道路上に一定間隔で設定した視点について左右の視野角を算出し,その結果を視野角地図として保存する.東京大学構内の道路について生成した視野角地図を実環境と比較した結果,提案する手法は実環境における交差点の見通しの悪さや道路内の位置に応じた視野角を算出していることを確認した.
図2 十字路における視野角算出方法
今回構築した視野角地図生成システムは,将来的に普及が想定される宅配ロボットや知能化モビリティの走行データを活用することで,少ないコストでの社会実装が期待できる.また,視野角地図は点群データと比較するとデータ容量が数百分の一程度であり,スマートフォン上での高速処理が可能であるという利点も持っている.
続いて,視野角地図を活用した交通弱者視点のリスク評価手法を構築した.提案手法では,交通弱者が所有するスマートフォン等に内蔵されたGPSの情報を活用し,視野角地図から自分の現在地における見通しの悪さ評価結果を参照する事を想定している.このとき,デバイスに内蔵されたGPSは位置推定精度が低く,誤った地点の見通しの悪さ評価を参照することによってリスクの過大・過小評価につながることが考えられる.そこで,本研究では低レベルGPSの位置推定精度を考慮するため,GPSの観測点を中心とする二次元正規分布として自己位置を仮定した.そして,道路内に一定間隔で参照点を設定し,各参照点における交差点のリスクを算出した.最後に,すべての参照点について自身の存在確率を重みとしたリスクの線形和を算出することで,衝突のリスクを確率論的に算出する手法を構築した.図3に今回の提案手法の概要図を示す.
図3 リスク評価手法の概要図
提案手法に基づくリスク評価システムの有用性を評価するため,低レベルGPSの位置推定精度を考慮しない決定論的なリスク評価システムと比較した.その結果,提案システムは自己位置の真値におけるリスクを相対的に精度良く予測できており,提案システムの有用性を確認した.今後は,構築したリスク評価システムをもとに,交通弱者のスマートフォン等を活用した事故防止システムの実現に取り組む.
堀 恵大, 田中哲生, 渡辺航太, 西真理夏, 荻野聖琉, 伊藤太久磨, 無信号交差点周囲の点群地図を用いた任意視点での見通しの悪さ自動評価手法の初期検討, 第22回ITSシンポジウム, 2024
この事業は,競輪の補助を受けて実施しました.