@理学部1号館(東棟)2階 285教室
祝・直木賞受賞!
本専攻で地球惑星科学の博士号を取られた作家の伊与原新さんが『藍を継ぐ海』で今年1月に第172回直木賞を受賞されました。専攻OB・OGとしては史上初の快挙です。
今回の五月祭では、先日の直木賞受賞を記念して伊与原さんの講演を行います。
学生との対談形式を中心にしつつ、聴衆の皆さんの質問にも答えていく形で進行する予定です。
入場は無料です!会の前後にはサイン会も行われる予定ですので、愛読者の方はご自身で所蔵の本をご持参ください。
運命的な出会い、そして大切な決断を前にしたとき、伊与原新さんの傍らにはいつも「言葉」がありました。
1972年に大阪府に生まれた伊与原さんの運命を変えたのはある一冊との出会いでした。
『新しい地球観』。プレートテクトニクスの第一人者である本学名誉教授の上田誠也先生が書いたこの本をきっかけに、伊与原さんは地球科学を志します。
地学への思いを抱き神戸大学に入学した伊与原さんが特に興味を持った研究、それが地磁気でした。地磁気の研究を大学院で続けることにした伊与原さんは、『地球の真ん中で考える』などで知られる浜野洋三先生に教わるため東大の大学院へやってきました。
アフリカ南部など世界各地で汗をかいて標本を集め、実験データと向き合う日々を続け、博士号を取得します。
伊与原さんが大学院生時代に訪れた南アフリカでの一枚。太古代の地磁気の研究では、その時代の岩石が日本で殆ど産出された例がないため、世界各地がフィールドワークの舞台となる。現地で採取した約35億年前の岩石標本を実験室に持ち帰り、観察・分析する日々が続いた。伊与原さんを地球惑星物理の分野へと導いた「野に出て物を見つめる」姿勢は、作家になった現在にも通じている。
(写真提供:文藝春秋社)
地球科学のプロフェッショナルへと歩み始めた伊与原さんに待ち受けていたのは、研究の難しさでした。
古地磁気学で信頼できるデータを得ることは至難の業。先の見えない苦悩の中で、伊与原さんの救いとなったのが、昔から大好きだった小説でした。
気晴らしに読んでいたミステリー小説が心を動かし、ある日トリックが閃きました。小説家・伊与原新が誕生した瞬間でした。
伊与原さんがひも解く「物語」は、大地から人間へと矢印の向きを変えてゆくことになります。
富山大で助教をしていたころ、調査で訪れたカナダ・ノースウェスト準州での一枚。世界最古の岩石が露出する地域で、古地磁気研究における極めて重要なサイトとなっている。研究に使える標本を探しては磁力計にかけ、思うように出てくれない結果と向き合う日々が続いた。
(写真提供:文藝春秋社)
作家に転身した伊与原さん。しかし転身して暫くしたころ、伊与原さんはスランプに陥っていました。再び訪れた壁を打破してくれたのは、かつて格闘した地球惑星科学でした。『月まで三キロ』がヒットを呼び、伊与原さんは作風を確立します。
地球惑星科学にまつわる小説を数多く書いてきた伊与原さん。その中には、様々な事情を抱えた人たちが、地球惑星科学を通して、ささやかながらも確かな幸せにふれてゆく姿が活写されています。
地球科学への自分らしいかかわり方を築き上げた現在の伊与原さんにとって、地球科学とはどのようなものなのでしょうか。そして、地球科学の未来を担う若者に対して、どのような思いで筆を執っているのでしょうか。
「夢化けの島」(『藍を継ぐ海』所収)の舞台となった山口県萩市の見島でツアーを行う伊与原さん。萩焼に使われてきた見島土、そして見島の溶岩台地に興味を持ち、小説の舞台に選んだ。地球科学と文学の両方を織り交ぜた唯一無二の語り口は、小説にとどまらない様々な場で人々を悠久の地球へといざなっている。
(写真提供:文藝春秋社)