開催概要

『ポプラ社と絵本・本と子どもの発達に関する共同研究を実施:全国保育・幼児教育施設の絵本・本環境実態調査の結果公表』

2020年2月19日(水) 11:00~12:00 
東京大学教育学部158教室(東京大学本郷キャンパス 教育学部棟1階)

千葉  均(株式会社ポプラ社 代表取締役社長)
池田 紀子(株式会社ポプラ社 取締役 児童書事業局 局長)
秋田 喜代美(東京大学大学院教育学研究科長 教授)
遠藤 利彦(東京大学大学院教育学研究科 教授/同附属発達保育実践政策学センター長)
野澤 祥子(東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター 准教授
高橋 翠(東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター 特任助教)


発表のポイント

  1. 株式会社ポプラ社と東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(Cedep)は「絵本・本と子どもの発達」をテーマに掲げ、実験・調査・事例研究を三つの柱として、子どもを取り巻く絵本・本環境を多層的・多面的に研究することによって、絵本・本の新たな価値の発見と生成、環境改善を目指している(図1)。

  2. 記者会見では、まず調査研究の第一弾として実施した「全国保育・幼児教育施設の絵本・本環境実態調査」の結果を報告する。保育・幼児教育施設の絵本・本の調査は初の試み。

  3. 今後の調査研究では、就学前の子どもの絵本・本環境の実態や優れた取り組みを地域及び一般家庭も含めて調査していく予定。また、実験研究ではデジタル絵本やアニメーション動画と絵本・本の相違点について、親子の視線行動や言葉かけの違いから明らかにしていく予定

詳細はこちらのファイルをご覧ください。

Cedep×ポプラ社_共同研究の背景と概要
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Cedep×ポプラ社_全国保育·幼児教育施設の絵本·本環境実態調査の結果と今後の研究計画について
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開催レポート

2020年2月19日、全国初となる全国保育・幼児教育施設の絵本・本環境実態調査結果の公表と、共同研究の主旨及び今後の研究予定に関する記者発表を実施しました。当日は多くの媒体社の参加があり、本研究への社会的な関心の高さを感じました。

当日の登壇者は向かって左からこちらの6名です。


・野澤 祥⼦(東京⼤学Cedep 准教授)

・遠藤 利彦(東京⼤学⼤学院教育学研究科 教授 / 東京大学Cedepセンター⻑)

・秋⽥ 喜代美(東京⼤学⼤学院教育学研究科⻑ 教授)

・千葉 均(株式会社ポプラ社 代表取締役社⻑)

・池⽥ 紀⼦(株式会社ポプラ社 取締役 児童書事業局 局⻑)

・⾼橋 翠(東京⼤学Cedep 特任助教)

この共同研究の意義と目的が、遠藤利彦東京大学Cedepセンター長によって語られました。


日本では他国に例を見ないような絵本文化が花開き受け継がれてきたことは、大変すばらしいことだと思っています。

一方で、昨今情報化の波が押し寄せ、赤ちゃんの段階からスマートフォンにごく普通に触れるという状況になってきています。今あらためて、子ども達にとって絵本・本、デジタル絵本などの本等が、発達や教育にどの様に影響を及ぼすのか、それを学術的・実証的に明らかにしていくことは、非常に意義があると考えています。

そして、その様な実証的な知見を受け、時代に先駆けて、これからの子ども達がどのような形で絵本や本に触れて、その中でどんな学びが出来ていくか、その新しい方向性についてご提案をしてまいりたいと考えています。

(当日の挨拶より抜粋)

この共同研究の全体像が改めて、野澤祥子東京大学Cedep准教授によって説明されました

共同研究では、1.実験研究、2.調査研究、3.事例研究を三つの柱として、子どもの発育発達プロセスにおける絵本・本の固有性や、認知能力・非認知能力の発達への寄与の可能性、保育園・幼稚園での絵本をとりまく環境の実態などを明らかにしていきます。

全国初となる 「全国保育・幼児教育施設の絵本・本環境実態調査」結果が高橋翠東京大学Cedep特任助教より発表されました。

▲調査結果発表の様子(高橋翠東京大学Cedep特任助教)

調査研究の第一弾として実施した、全国の保育・幼児教育施設の絵本・本環境実態調査の結果の概要をお知らせします。本調査を通じて、小中学校と比較して、保育・幼児教育施設では絵本・本の年間予算および蔵書数が非常に少ないことが明らかになりました。

◆調査の背景

本研究では、待機児童問題の解消に向けて就学前の保育施設が急増する中、施設による絵本・本環境の実態を明らかにすべく、全国の保育・幼児教育施設(認定こども園、幼稚園、認可保育所、認可外保育施設等)を対象とした調査を実施しました。なお、保育・幼児教育施設の絵本・本の調査は初の試みとなっています。

▲研究の背景・今回の調査結果概要・今後の展開をまとめた全体像(発表資料P2)

◆今回の成果

絵本・本(注1)の年間購入予算については、多くの施設が5万円未満と回答していました。具体的に、年間予算が5 万円未満の施設は認可保育所で60.4%、幼稚園で55.0%、認定こども園(注2)で41.1%でした(注3)。

また、絵本・本の蔵書数については、300冊未満と回答があったのは、認可保育所では30.8%であったのに対して、幼稚園では9.8%、認定こども園では7.7%であり、施設形態によって蔵書数に差が見られました

義務教育段階の教育施設(小中学校)における1校当たりの年間の図書費用は、全国平均で、小学校では平均49.8万円、中学校では58.7万円となっています(注4)。また、蔵書数は、小学校では10,335冊、中学校では11,579冊となっています。したがって、就学前の保育・幼児教育施設の蔵書数・図書予算は、小中学校と比べて非常に少ないと言えます。

▲2.調査結果の報告「蔵書数・予算の概算と施設による比較」(発表資料 P19)

◆研究手法

2019年10月上旬に、ポプラ社のダイレクトメールを通じて、保育・幼児教育施設33,566園(幼稚園9,733:国立51、公立3,730、私立5,952 / 保育園22,981:公立8780、私立14,701/認証保育園852:私立852)にアンケート用紙を郵送し、FAXまたは発達保育実践政策学センターのウェブサイト上で回答を受け付けました。回答締切は2019年10月31日でした。回答のあった施設は、認可保育所611園、幼稚園301園、認定こども園80園、その他施設50園の計1,042園でした(回収率3.1%)。


◆本調査の結論・社会への影響

国外の研究では、就学前施設の絵本・本を含む言葉に関する教育環境は子どもの言語発達において重要であることが明らかにされていることから(注5)、我が国の就学前施設における絵本・本環境の質の保障と拡充に向けた取り組みが急務であると考えられます。


◆今後の共同研究計画

今後は就学前の子どもの絵本・本環境の実態や優れた取り組みを保育・幼児教育施設だけでなく地域及び一般家庭も含めて調査していく予定です。また1.実験研究の第一弾として、デジタル絵本やアニメーション動画と絵本・本の相違点について、親子の視線行動や言葉かけの違いから明らかにしていく予定です。

注1)本調査において「絵本」に含まれるもの:一般的な絵本,布絵本,児童書,図鑑 子ども 向け雑誌(子どもが共同利用するもの)、「絵本」に含まないもの:紙芝居、デジタル絵本、子どもが個人で利用する子ども向け雑誌とした。

注2)ここでは幼保連携型・幼稚園型・保育所型・地域裁量型の全ての施設が含まれる。

注3)本調査では施設の設立・運営主体(認可保育所について公営・民営、幼稚園について公立・

私立、認定こども園については公営・民営)の回答欄を設けなかったため、結果は施設形態ごとに公営・民営および公立・私立をあわせた数値になっている。

注4)2019年度学校図書館調査報告(全国SLA 研究調査部)

注5)Schmerse, D., Anders, Y., Flöter, M., Wieduwilt, N., Roßbach, H. G., & Tietze, W. (2018).Differential effects of home and preschool learning environments on early languagedevelopment. British Educational Research Journal, 44(2), 338-357.

ポプラ社千葉均代表取締役社長より本共同研究への想い

子どもの成長において、子どもの頃に得た、絵本を通じたあたたかなコミュニケーションの記憶はその全ての礎となるものだと考えています。当社では「のびのび読み」という赤ちゃんと絵本の接点を広げる活動を行っていますが、この研究成果を踏まえて、より一層の自信をもって「のびのび読み」を推進していけると考えていますので、今後の研究成果に注目してもらえればと思います。


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教育制度の視点から見た共同研究の意義等、秋田喜代美教授による締めくくりの挨拶