「AはなぜBなのか」という問において期待されるのは、AとBのアナロジーが成立するための根拠を示すことです。その後に、BとCが類縁関係にあるにもかかわらずAがCとアナロジーでないことの根拠が示されなければなりません。
ところが「イカが禁止されたから」という答えは、最初の問いに続いて後から生じる可能性のある「なぜタコであってイカではないのか」という問いを先取りして答えてしまっています。
もちろん、「え?どいうこと?」という素朴な疑問を喚起してその先につなげる番組の戦略に違いありませんが、ここは飽くまで「言語運用」について考える場。やはり無茶な論理的飛躍と言わざるを得ません。
まず質問の「どうして」が「なぜ」という理由をきいているのか、「どのようにして」という事情(背景)を聞いているのかよくわかりません。問答のちぐはぐさの責任の一端は質問の方にあります。
一方、ちこちゃんの答えの方は一見すると「~から」と理由を答えているかに見えて、どうやら白と黒に至った事情を答えているようです。それにしてもなぜ白と黒なのかがわかりません。
「どうしてパンダは白と黒なの?」という質問で通常思いつくのは、動物にはいろんな毛色の動物がいるけれど、なぜパンダは白と黒なの?ということではないでしょうか。ところが答えは「笹を食べているから」となります。では「笹を食べている」ことと「白と黒」であることとの因果関係は何か?ということが次に説明されなくてはなりません。本当はそこがポイントであるはずです。
因果関係はこうです。冬でもパンダは冬眠しないで食糧の竹を探す。雪の中でも天敵に見つからないように雪の白にも木の黒にも同化できるようにまさに「折衷案」で白黒になった。
これは飽くまでも仮説の一つに過ぎないようですが、もし本当にそうなら、答えは「冬木立の中で天敵にみつかりにくいようにするため」でなければなりません。もちろんそれに「雪が白で、木が黒」という補足があるとさらに理解の助けになっていいと思います。
これも何だかわかったようなわからないような感じ。
実はこれ、質問自体が不十分。というか少しインチキっぽいのです。本当は「日本の猫はなぜ魚が好き?」というように話を限定する必要があります。それに対して「日本人が魚好きだから」という答えは極めてわかりやすい。むしろ分かりやす過ぎて何のひねりもないくらいです。「え、それってどういうこと?」と視聴者に思わせて先につなげたいという番組の演出に文句を言うのは野暮ですが、あくまで「言語教育」の観点で、ということでお許しください。
というのも、演出目的でなくてもこういう「ズレ」は案外多く見られることで、定義や前提が曖昧なまま進む質問と応答は当事者以外からすると???ということになります。「猫」とだけ言われれば、猫全般を指すと考えるのが「普通」です。何を話の前提にしているのか、当事者同士はもちろん、周囲にもあらかじめ共通理解を得ておくことが大切なのでしょう。
因みにスイスの猫はチーズを食べるし、イタリアのシチリアの猫はトマトソースのパスタを食べるらしい。では豪邸で飼われている猫は何を好んで食べるのでしょう……。
これは「なぜ」と理由を問う質問の意図は明確です。ところがまたしても答えがわかりにくい。
普通、想定される答えは「癒されるから」。でも答えは予想を裏切って「群れで生きる生き物の習性として周囲にも餌を分け与えたいから」ということらしい。ではなぜ同じ人間ではなくて他の動物なのか?家族がいればわざわざペットを飼わなくてもいいのでは?
その事情はこうです。現代は核家族化がすすみ、大人数で「群れ」ることがなくなった。それに加えて生活が豊かになり、わざわざ人間に与える必要がなくなった。
正直これを聞いても完全には納得いかないけれど、やはり最低限ここまで事情を説明してくれないと答えの全体像は見えてきません。端的に理由を答えたかに見えて、実は一部分だけを切り取って答えたに過ぎないということ。