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これまでの研究

3. 翻訳段階の制御に基づいて真核細胞で機能する人工遺伝子ネットワークの構築

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RNA 分子で人工的な遺伝子ネットワークをつくりたい

世の中にはさまざまな特徴を持ったいきものや細胞が存在しており、その特徴は遺伝情報としてゲノム DNA にプログラムされている。複雑なプログラムには数多くの遺伝子が関わっており、遺伝子の発現や機能がうまく制御される必要がある。このようなプログラムを実現するためには、個々の遺伝子機能の特徴だけでなく、遺伝子間の制御関係( = 遺伝子ネットワーク)そのものも大きな役割を果たすことがわかってきた。

いきもののプログラムを自由に操作したり、改変したり、あるいは新しく構築したりするためのもっとも強力な技術として遺伝子工学の技術があり、その技術は今なお飛躍的に発展し続けている。しかし一方で、この強力な技術の応用には、ヒトを含めて自然界に存在する生物が持っている遺伝情報を損傷、破壊してしまう危険を伴っている。 そこで、遺伝情報が傷つく危険性を回避しつつ遺伝子工学の強力な技術を活用するため、DNA 分子の遺伝情報を基にして細胞内で最初につくられる RNA 分子に注目し、DNA 分子を操作するかわりに RNA 分子を人工的に操作する、次世代の遺伝子工学技術体系の開発を目指した。その第一歩として、mRNA として導入した遺伝子による人工的な制御ネットワークの構築に取り組んだ。

ネットワークモチーフ

ゲノム中の遺伝子の間には様々な制御関係が存在している。そのなかには登場頻度の高い(よくある)制御のパターンがあり、ネットワークモチーフと呼ばれている。ネットワークモチーフのなかでもっとも単純なものは、自分自身を制御するフィードバックループ制御で、1つの因子のみで構成できる。そこで私たちは、翻訳抑制機構を利用して転写を介さないネガティブフィードバックループ制御を人為的に構築した。数理モデルから単純な翻訳抑制制御と比較したネガティブフィードバック制御らしさを導いて実験結果と対比することで、私たちが構築した制御系がネガティブフィードバック制御らしさを示していることを確認することができた。(ref. #3)

2因子のネットワーク

次に2つの因子で構成されるネットワークを構築した。2つの因子を一方向に接続するとカスケードとなり、双方向に接続するとトグルスイッチ様の回路となる。米国 Massachusetts Institute of Technology の Ron Weiss 教授らとの共同研究により、人工的に構築したネットワークを DNA、mRNA、そして RNA ウイルスレプリコンの3種類の方法で細胞に導入し、ネットワークを細胞内で機能させることに成功した。3種類の方法のうち特に mRNA として細胞に導入する研究を私たちは担当した。つまり、私たちは2因子のネットワークを mRNA 分子のセットとして構築し、この mRNA セットを試験管内で合成して細胞に導入した。これは細胞内で全く転写の過程を経ない遺伝子ネットワークの構築といえるだろう。(ref. #7)

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References

#3. Stapleton, J.A., Endo, K., Fujita, Y., Hayashi, K., Takinoue, M., Saito, H., and Inoue, T.:

“Feedback control of protein expression in mammalian cells by tunable synthetic translational inhibition.”

ACS Synthetic Biology, 1 (3): 83–88 (2012). [Top 10 Most Read Articles of 2012] Article (Open Access) | PUBMED | DOI

#7. Wroblewska, L., Kitada, T.‡, Endo, K.‡, Siciliano, V., Stillo, B., Saito, H., and Weiss, R. (‡equal contribution):

“Mammalian synthetic circuits with RNA binding proteins for RNA-only delivery.”

Nature Biotechnology, 33 (8): 839–841 (2015). Article | PUBMED | DOI


一連の研究コンセプトについて以下の英文著書でも解説しています。

Books

#2. Endo, K.*, and Saito, H.:

“mRNA Engineering for the Control of Mammalian Cells in Medical Applications.”

In: Masuda S., Izawa S (eds.), Applied RNA Bioscience, Springer Singapore, pp 95–114 (2018). Publisher | DOI

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5. 生きた細胞の内部で多変量の数値計算を実行する mRNA の設計

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4. 合成 mRNA を用いた細胞内情報に基づく生細胞分画法の開発

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2. mRNA のエンジニアリングによる遺伝子スイッチ設計技術の拡張

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1. 機能性 RNA 分子(= RNA アプタマー)の創出