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これまでの研究

2. mRNA のエンジニアリングによる遺伝子スイッチ設計技術の拡張

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リボスイッチのモジュール性

真核生物の mRNA の 5’ UTR にアプタマーを挿入することによって人工的にごく単純なリボスイッチを作成することができる。このような設計で構築されたリボスイッチでは、標的分子がアプタマードメインに結合するとリボスイッチがコードしているタンパク質の合成が抑制される。標的物質があるときに発現がなくなるので OFF 型のスイッチとよばれる。このようにして設計された最初の人工リボスイッチは自然界のリボスイッチが発見されるより前に発表されており、バイオエンジニアリングが天然の系に先んじた稀有な例といえる。

リボスイッチの mRNA としての役割は開始コドンから終止コドンまでの配列自体が担っている。一方、アプタマーは RNA の配列によって形成される「分子のかたち」のため標的分子への親和性を持つ。リボスイッチを構成するこれら 2 つの部品は、同じ RNA 分子であっても機能も領域も完全に独立しており、他の性質をもった部品と簡単に交換できる。つまり、原理的には任意の標的物質に応答して任意のタンパク質を出力する人工的なリボスイッチを構築できる。ところが、同じ標的物質に応答して同じタンパク質を出力するにしても、感度や応答度 (S/N比) には様々なニーズがあるはずだ。そこで、同じ部品で構成されるスイッチの応答性能を調節するための設計方法の開発に取り組んだ。

スイッチ性能の調節

mRNA の 5’ UTR にアプタマーを挿入するとき、その位置が 5’ 末端から離れるほど徐々にスイッチの応答性が失われることを見出した。一方、5’ UTR に挿入するアプタマーの数を増やせば段階的にスイッチの応答性が高まる。つまり、これら 2 つのパラメータ(アプタマーを挿入する位置と数)を変更するだけで同じ標的物質に対する応答性能が異なる様々なスイッチを簡単に合成できる。この設計方法は mRNA 上 の cis 因子を改変するだけなので、同じ標的物質を入力として複数の遺伝子を同時かつ特異的にそれぞれ独立した応答性能で制御することも可能となった。(ref. #4)

スイッチ性能の反転: RNA inverter

これまでに多様な分子メカニズムに基づいた人工的なリボスイッチが開発されてきた。しかし ON 型のスイッチと OFF 型のスイッチは全く異なる原理に基づいて構築されていたり、同じ原理に基づいていても部品ごとに大きな改変が必要であったりした。そこでスイッチの性能を単純に反転させる機能を持った部品を開発し、RNA inverter と名付けた。

スイッチの性能を反転させるには「翻訳反応依存的な翻訳抑制」を実現すればよいと考え、翻訳反応依存的に mRNA の分解が誘導される mRNA の品質管理機構と mRNA の中間部分から翻訳反応を開始できる IRES という配列を応用することにした。完成した RNA inverter は、OFF 型のスイッチに挿入するだけで ON 型のスイッチに変換できる。RNA inverter によるスイッチの性能の反転も mRNA 上 の cis 因子の改変のみに基づくため、1つの入力で複数の遺伝子を同時かつ特異的に ON/OFF それぞれの方向に制御することが可能となった。 (ref. #5)

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References

#4. Endo, K., Stapleton, J.A., Hayashi, K., Saito, H., and Inoue, T.:

“Quantitative and simultaneous translational control of distinct mammalian mRNAs.”

Nucleic Acids Research, 41 (13): e135 (2013). Article (Open Access) | PUBMED | DOI

#5. Endo, K., Hayashi, K., Inoue, T., and Saito, H.:

“Versatile cis-acting inverter module for synthetic translational switches.”

Nature Communications, 4: 2393 (2013). Article (Open Access) | PUBMED | DOI


前半のスイッチ機能の調節について以下の和文紹介論文でも解説しています。

Other Papers

#3. 遠藤 慧、齊藤 博英 :

「複数の哺乳類 mRNA の同時かつ特異的な翻訳チューニング法」

実験医学 32 (4): 595–599 (2014).


また、様々な設計の人工リボスイッチについて以下の英文著書で概説しています。

Books

#2. Endo, K.*, and Saito, H.:

“mRNA Engineering for the Control of Mammalian Cells in Medical Applications.”

In: Masuda S., Izawa S (eds.), Applied RNA Bioscience, Springer Singapore, pp 95–114 (2018). Publisher | DOI

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5. 生きた細胞の内部で多変量の数値計算を実行する mRNA の設計

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4. 合成 mRNA を用いた細胞内情報に基づく生細胞分画法の開発

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3. 翻訳段階の制御に基づいて真核細胞で機能する人工遺伝子ネットワークの構築

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1. 機能性 RNA 分子(= RNA アプタマー)の創出