研究テーマ2022年度

研究テーマの特徴

①W-BOS法を用いた小容積衝撃波管より流出する超音速流れの可視化:2AM松川

 W-BOS(Wavelet based-Background Oriented Schlieren)法は,流体現象の密度勾配を可視化できる手法です.この手法には,可視化結果に定量性を有するという特徴があります.加えて,この手法では可視化結果を得るためにウェーブレット変換を用いた画像処理を行う必要があります.画像処理では,密度擾乱のない参照画像と密度擾乱による屈折光線で写像される計測画像の変位差を求めています.

 W-BOS法は新たな可視化手法として期待を寄せられている技術ですが,開発されて間もないため可視化手法として確立されていません.そのため,画像処理過程に発展の余地が多くあります.そこで,本研究では可視化に最適な実験条件を明らかにし,画像処理の精度を向上させることを目的としています.

 特に現在は,実験を網羅的に行い可視化結果への影響の解明や密度勾配分布から密度分布を得るための画像処理過程の改良を行っています.

②小容積衝撃波管を用いた衝撃波閉じ込め現象の三次元解析:AM2坊村

衝撃波とは,超音速現象中に発生する非常に強い圧力波のことをいいます.そしてこの衝撃波は,通過した背後の圧力や温度などを急上昇させる特性を持っているため,高エネルギーな現象であると言えます.この特性に注目し,衝撃波を利用しようとする研究は数多くなされています.

本研究では,衝撃波の新たな応用先として,「衝撃波閉じ込め」を提案しています.衝撃波閉じ込めは,その名の通り「衝撃波を閉じ込める」ことで,「衝撃波が反射する」という特性を利用するものです.壁で囲んだ領域内で衝撃波を何度も反射させると,何度も衝撃波が通過することになり,さらに高エネルギーな領域になると考えられます.ただ,エネルギー保存の法則から,体積の同じ領域内でエネルギーが上がり続けることはあり得ません.そのため,本研究では衝撃波反射領域そのものも圧縮することで,高エネルギーな領域を得ようと考えております.これが可能になれば,高いエネルギーを必要とする素材生成の新手法などが期待できます.

しかしながら衝撃波閉じ込め現象に関する研究が少ないため,衝撃波閉じ込めを発生させ,それを制御するための指標が存在しません.

この指標を解明するため,本研究では三次元の数値解析をおこないます.解析対象のモデルは衝撃波管および1枚の壁面です.衝撃波管からは,衝撃波とその後方に高圧ガスをともなう流れが発生し,壁面で反射してきた衝撃波は高圧ガスの先頭でも反射します.加えて,衝撃波管から出てきた高圧ガスは壁面に向かって進展するため,ガス先頭-壁面間における衝撃波の複数回反射だけでなく,衝撃波反射領域そのものの圧縮も同時におこなえます.


③小容積衝撃波管を用いた衝撃波閉じ込め現象についての研究:5M庄野,AM1出山

衝撃波は,非常に高いエネルギー有しており,様々な分野において期待されています.

そして衝撃波には大きく2つ特性があります.1点目通過した領域の温度,圧力,密度を急増させる特性,2点目固体や密度の高い気体に反射する特性があります.

これらの特性を応用し,局所的な高エネルギー場を生成することを目的としたものが衝撃波閉じ込め現象です.

衝撃波閉じ込め現象の原理としましては,衝撃波管によって対向する反射板に向けて衝撃波および噴流を発生させ,反射板および噴流先頭間で衝撃波を複数回反射させます.同領域の通過を繰り返すことで温度,圧力,密度を急増させ,高エネルギー領域が生成されます.

本研究の問題点としまして,衝撃波閉じ込め現象の物理的発生条件が不明であることです.

本研究では,特に衝撃波および噴流の密度をパラメータとし実験を行います.

そこで噴流は衝撃波管による発生条件によって密度を変え,反射板形状に曲率を与えることで衝撃波を収束させ密度を変えます.

このように本研究では,衝撃波および噴流の密度をパラメータとし噴流および衝撃波の衝突挙動の確認を問題解決へのアプローチとします.

④対向する非定常超音速噴流および衝撃波の衝突過程に関する研究:1AM宇野

高強度のパルスレーザーを固体ターゲットの表面に照射すると,表面の蒸発により高温の蒸気群(レーザー誘起プルーム)が放出されます.この現象はパルスレーザーアブレーション(PLA)と呼ばれます.雰囲気ガス中におけるPLAでは,超音速で膨張するプルームによって衝撃波が形成されます.プルームは時間とともに蒸気の状態から液滴へと成長し,最終的に雰囲気ガス中でナノ粒子が生成します.

ダブルパルスレーザーアブレーション(DPLA)は,2台のパルスレーザーおよび2つのターゲットを用いたPLAです.2つのプルームの混合により,最終的に雰囲気ガス中で複合ナノ粒子が生成します.DPLAでは,それぞれのプルームの前方に形成された衝撃波が,対向するプルームに衝突します.対向衝撃波の衝突は,プルームの時間的,空間的な膨張に影響を与えるため,ナノ粒子の成長過程を決定する重要な要因です.そのため,複合ナノ粒子の構造を制御するにあたり,対向衝撃波とプルームの衝突過程を解明する必要があります.しかし,対向衝撃波とプルームの衝突過程を実験により詳細に調べることは難しい点が問題点としてあげられます.

そこで本研究では,DPLAの現象をモデル化し,圧縮性流体力学に基づいた数値計算によって現象を解明します.数値計算では,短時間噴射する超音速噴流によってレーザー誘起プルームの放出を再現しています.実験から見積もることの難しい質量密度や圧力の分布をもとに,衝突過程について議論します.


⑤開放型楕円体を用いた水中衝撃波の3次元数値解析 AM新田

 

⑥開放型楕円容器の形状が衝撃波集束時の圧力勾配に与える影響:5M谷口

⑦茎熱収支法に用いる温度測定位置の改善を目的とした3次元数値計算:2AM榊

 近年,樹液流量データをもとに解析することで,灌漑すなわち水やりの時期や量を自動的に調節することができるため,より誤差の少ない定量的な樹液流量測定手法が求められています.

 樹液流を測定するための手法として,樹液流量測定手法の一つである茎熱収支法(stem heat balance method)は,伝熱工学を背景とした樹液流量測定手法です.まず,膜状のヒータによって茎が加熱され,熱は茎や樹液を通して流れていきます.このときの熱の流れを茎表面に設置した温度センサーで測定することで,樹液によって運ばれた熱量を求めることができ,時間あたりの樹液流量を算出することができます.この手法は,非侵襲的かつ加熱も茎を傷めない程度でとどめることができるため,様々な植物の樹液流測定に用いられています.

 先行研究では,この茎熱収支法を用いた樹液流測定装置の測定精度向上を目的として,温度測定位置の変化が流量算出精度におよぼす影響について調べられました.この研究では,温度測定グループを4組設置し,ステンレスパイプ内部を流れる水量を変化させ,最適な温度測定位置を調べました.その結果として,最適な温度測定位置はヒータの中心から27.5mm離れた位置であることを突き止めました.この先行研究における問題点として,なぜ27.5mm で最も精度が良くなるのか明らかにされていないことがあげられます.

 本研究ではこれらの問題点の解決策として,熱流体解析を用います.これにより,装置内部の温度場および流れ場を用いて測定装置をより詳細に調べることが可能となります.本研究の大きな目的は,温度測定位置の変化が樹液流量算出精度におよぼす影響を,数値解析を用いてより詳細に調べることです.実験では測定が難しい装置内部の温度なども数値計算を用いれば知ることができるため,工学研究には欠かせない要素となっています.本研究はSDGsの目標第2番,12番および15番の3つに貢献します.

⑧赤外線サーモグラフィを用いた茎熱収支法の改良:5M荒井

植物の樹液流量を測定することは育成管理に役立ちます.その樹液流量を測定する方法に茎熱収支(SHB : stem heat balance)法があります.

茎熱収支法で流量を測定するには,まず茎にヒータを巻き加熱します.次に熱電対で茎表面の温度を測定します.測定した温度から熱収支を求め樹液流量を算出します.この方法は植物の表面を加熱・測定するため傷をつけずに流量算出が可能です.

しかし流量や加熱量を変えた場合,最適な温度測定位置がまだ明らかになっていません.そこで本研究ではステンレスパイプを用いたモデル装置で実験を行い,温度測定に赤外線サーモグラフィを用いることを提案します.赤外線サーモグラフィを用いることでパイプ表面全体の温度分布を取り,最適な測定位置を調べます.

本研究はSDGsの目標第2番,12番および15番の三つに貢献します.


⑨赤外線サーモグラフィを用いた茎熱収支法による植物の樹液流量の算出:5M西前

今日の日本における農業人口は年々減少おり,その原因に農業従事者の高齢化や新規就農者の離農率の高さなどが挙げられます.その対策として育成状況を数値化することで植物育成を支援する例がありますが,本研究では植物体内の樹液流量に着目しました.樹液流量にはいくつかの測定手法がありますが,茎熱収支法は植物体に傷をつけない非破壊検査法です.従来の茎熱収支法は温度測定に熱電対を用いますが,先行研究では温度測定に赤外線サーモグラフィを用いた改良案を提案しました.しかし先行研究では植物の茎を模擬したモデル装置のみにしか実験を行っていないため,実際の植物に対する有用性は未確認です.そこで本研究では赤外線サーモグラフィを用いた茎熱収支法の植物に対する適用を目的としています.


⑩スリーブはんだ付けにおけるフラックスが不良はんだの抑制に及ぼす影響:AM2中道,5M中西

脱炭素化に伴い,安全性を必要とする自動運転や電気自動車が注目されています.これらの車載機器には,高品質かつ信頼性の高いはんだ付けが必要とされています.

信頼性の高いはんだ付けとして新たにスリーブはんだ付けが開発されました.スリーブはんだ付けとは,カットされたはんだ片を加熱されたスリーブと呼ばれる筒内で溶融し,ピンおよび基板を接合する方法です.特徴して,はんだの供給量や加熱時間の調整が容易です.また,閉鎖空間内で安定したはんだ付けを行えるため,信頼性の高いはんだ付けが可能です.

しかし,このスリーブはんだ付けにも問題点があります.スリーブはんだ付けは,1万回に1回程度の割合で不良はんだが発生してしまう.

そこで,本研究では不良はんだの抑制する際に用いられているフラックスと呼ばれる樹脂に注目しました.

フラックスを基板に塗布し,赤外線サーモグラフィおよびハイスピードカメラ用いて熱の影響を定量的に明らかにし,フラックスがスリーブはんだ付けに及ぼす影響を調べます.


⑪押出金型形状最適化のための数値解析【共同研究withアスカ工業】:AM2中道

福岡研究室では,企業との共同研究を通して,社会貢献に取り組んでおります.ペレット製造で使用される押出金型において,金型から流出するポリマーの速度は,ポリマーの品質を左右します.そして,アスカ工業が開発を進めている金型においても,押出金型から流出するポリマー速度は流出口によって速度が違うという課題をかかえていました.そこで,この課題を解決すべく,流出するポリマー速度を均等にできる押出金型の設計を目的とした共同研究が始まりました.我々はこの問題を解決するために,流路面積を広げるなど押出金型形状の改良をおこない,数値解析することで,流出するポリマー速度が均等になる最適な金型形状の研究を進めております.また,実際にポリマー速度を実験で測り,数値との比較も行っています.本研究はSDGsの「9. 産業と技術革新の基盤を作ろう」に貢献するとともに,奈良県の企業を発展させることにつながり,奈良県の地方創成に貢献します.

⑫香りカートリッジ内の流体挙動に関する研究【共同研究withアロマジョイン】:2AM坊村

近年,「香りを自動制御する」というニーズはますます増加しています.

香りの自動制御が可能になった場合,例えばアニメやVR空間の映像と同時に,映像に合わせた香りを楽しむことが可能になると期待できます.

香り自動制御装置は,株式外社アロマジョインによってすでに製品化されています.

当該装置は,周囲の空気を装置内部に取り込み,香り粒子を含ませたうえで大気へと放出することで香りを届けます.

香りを含んだ流体の挙動は,装置の形状などにより大きく変化すると予想されます.

しかし,当該装置を用いた香り噴出時の流体挙動は明らかにされていません.

また,装置内の流体の挙動についても解明されていないのが現状です.

そこで本研究は,香り自動制御装置の3Dモデルを用いた三次元数値解析をおこない,装置の改良指針を得ることを目的としています.

特に現在は,香りを受け取る部部であるカートリッジ内形状などの条件を変え,流体挙動に及ぼす影響を調べています.