HIV長期感染者は認知障害になりやすい?

HIV関連神経認知障害=【HAND:HIV-Associated Neurocognitive Dysfunction】

HIV治療における問題

治療薬の進歩で長期生存が可能になったエイズウイルス(HIV)感染をめぐり、新たな問題が明らかになっています。

HIV感染による認知障害というと、今までならば、エイズ発症者に見られる、エイズ脳症(AIDS Dementia Complex;ADC)でした。

しかし、多剤併用療法が浸透してからは、重篤な状態で脳症を呈する症例はめったに見られなくなっていて、『脳症は過去の問題』と、思われていました。

ところが、2000年頃から、HIV感染症例の中に、軽度の認知症が認められるケースが多いことが、報告され始めています。

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の長期感染者に、症状は比較的軽いものの、注意力や記憶力が衰え、薬の飲み忘れをするなどの、認知症のような症状を訴える患者が増えていることが、世界中で問題となっているのです。

『放置すれば症状が進み、薬の服用がおろそかになってエイズ発症が早まる恐れがある』 この比較的軽度な認知障害のことを、HIV関連神経認知障害(ハンド:HAND)と呼んでいます。

HIV関連神経認知障害は、早期に異常を見つけて対処することが重要ですが、本人が自覚することは難しく、簡便な診断法もありません。

日本でも、国立国際医療研究センター(東京)エイズ治療・研究開発センターをはじめとする、全国のHIV診療の拠点病院15施設が、HANDの実態調査に着手し、感染者の言語能力や注意力、記憶力、情報処理の速さ等を、さまざまな検査で調べました。

その結果、多剤併用療法を受けていて、物忘れなどの認知障害の自覚は全くない人でも、詳細な検査をすれば、かなりの頻度で軽度の異常が見つかることが明らかになってきました。

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HIV長期感染者の増加状況グラフ・データ

HIV関連神経認知障害(ハンド:HAND)の特徴

重症度によるHANDの種類

  1. 顕著な機能障害を伴う認知障害(HIV-Associated Dementia;HAD)
  2. 軽度神経認知障害(Mild Neurocognitive Disorder;MND)
  3. 無症候性神経心理学的障害(Asymptomatic Neurocognitive Impairment;ANI)

HANDは3つのタイプに分類されます。

米国の感染者1555人に対する調査(平均年齢43・2歳)では、HIV感染者の約半分にHIV関連神経認知障害(HAND)が見られました。

HANDは、ごく軽症の場合、受け答えがややゆっくりになるとか、規則を厳格に守っていた人が若干ルーズになるなど、「なんとなく変だが異常というほどではない」微妙な変化が多く、認知症などを調べる簡易検査では異常はみられず、約1時間かかる本格的な検査をして、ようやく異常を検出できる程度だと言います。

1.顕著な機能障害を伴う認知障害(HAD)

HADによって、転びやすくなるなど運動障害が起き、入院による加療が必要となる場合がある⇒33%

2.軽度神経認知障害(MND)

MNDによって、怒りっぽくなるなど性格が変化し、日常生活に支障がでて支援が必要となる⇒12%

3.無症候性神経心理学的障害(ANI)

ANIによって、物忘れがひどくなるが、日常生活は問題なく行える⇒2%

HIV関連神経認知障害(ハンド:HAND)の発症の原因

まだ、原因は明らかにされていませんが、脳内に入り込んだウイルスが神経細胞に与える影響や一部の薬の影響が考えられています。

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HANDを治療しないとどうなるか?

HIV関連神経認知障害(HAND)を放置するとどうなるかは、国際的にもまだ確かめられていません。

しかし、薬の服用が守れなくなれば、脳内のHIVが増えるなどして認知障害が進み、社会生活を続けるのが困難になったり、エイズ発症が早まったりすることが懸念されます。

厚生労働省エイズ動向委員会のまとめでは、国内でこれまでに報告されたHIV感染者(エイズ患者を含む)の累計は2万人を超えています。

影響は大きいのです。

現状出来ることは

  1. 少しでも早く治療を開始する
  2. 物忘れなどの自覚症状があれば特に、脳内に届きやすい薬を選ぶ
  3. 発症メカニズムの解明研究を進める

の3点です。

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