_春季カンファレンスを終えて(原朋邦)

春季カンファレンスを終えて

第19回年次集会会長 原 朋邦

平成19年3月4日だったと記憶していますが、五十嵐正紘先生が、私の診療を見たいと言われて所沢の私のクリニックまで来られたことがありました。3~4時間、私の診療を見ていただき、その後、私の診療態度についての先生の御感想や御意見を伺い、そして話し合うことが出来たのは実のある楽しいものでした。私が会長を受けることが既に決っていたこともあって、学会の活動や年次集会の内容に話しは及び、私の考えを聞いて頂き、先生のお話も伺うことができました。あっと言う間に、深夜に至ってしまいました。そのときの内容が、私の年次集会の基本案となっています。

五十嵐先生も実行委員として御支持、御指導して下さいました。体調が悪くてご出席 されないときにもメールでご意見を頂戴していました。その五十嵐先生が故人となられて、五十嵐マインドを伝えることを意図した会の翌日に前夜の余韻を残しながら春季カンファレンスを開催しました。五十嵐先生が所沢まで来てくださったのは、学会の現在、将来について私に話しておきたいと思われたことの方が大きな要因だったのではないかと考えながら、春季カンファレンスに臨みました。

私が春季カンファレンスで実行委員に企画を提案したのは、午前中に患者さん(医療の提供を受ける側)の立場からの小児医療へ望まれることを先ず聞かせていただき、特別講演として、ご本人が辞退されなければとっくの昔に管理職に就かれている筈なのに、非常に高い総合性を持って総合病院小児科の医長を全うされている都立府中病院小児科横路征太郎先生に、先生の経験に基づくお話を伺う。午後に、総合病院小児科、小児から後期高齢者まで幅広く診ようとされている、或いは診て居られる方に、お話を伺いたいと考えました。竹村、松村先生はこの企画に外せない方でした。

1980年代にアメリカのロバートハガチーがacademic general pediatricianを提唱していますが、日本には、少ないか居ても教育や研究に深く関与していることはないだろうと思います。診療の場を、竹村先生は大学、松村先生は御自分の診療所において居られますが、学生の教育、研究に深く関与されていて、将に、academic general internistです。

プライマリケアを志向する学会には、私共が学ぶべき理論や方法論が沢山あり、連携は本学会にとって利が大きいというのは、五十嵐先生も私も同意見でした。実行委員の提案も加わり、具体化されました。企画している途中で、小児科医会から小児科総合医の提案がありました。私共は、小児科学会、小児科医会、小児保健学会、そして本学会と二重・三重に身分が重複しています。小児科医会の案の是非を論じる場にはしたくないと思ったのですが、具体的に見ながら論じ合えるかと考えて西牟田先生に加わって頂きました。

15回の春季カンファレンスでは私も座長を務めさせて頂きましたが、感染症、抗菌薬の適正使用がメインテーマになり熱気溢れる会になりました。今回の課題だとコメディカルの参加は少なく、150-160名の参加であろうかと予測していましたが、結果的に130名の参加でした。前登録が116名でしたので、当日参加が30名位と考えて弁当も注文していたのですが、当日登録の数はピタリだったのですが、前登録者の参加が94人で弁当も余ってしまいました。

私に直接感想を言って下さる方は、当然ながら辛口の評はないのですが、本人としては演者のお力により、優れた内容になったのではないかと考えています。横路先生は、common diseaseにもバラエティがあり、そのことを知っていないと誤診に至ること、rare diseaseであっても見逃したり、cure 出来ないことが許されない疾患があり、rare diseaseであっても、症状や所見は、commonで あること、などを次代のスタッフの養成にはそのことを伝えていくことの重要性を実例を述べられました。

私共の学会の質の向上には、やはり勤務医の方の参加 が重要だと改めて思いました。患者さんと提携していくには、オーソライズされた広い視点にたったヘルスケアの知見を共有することが必要であり、アメリカ小児科学会が出版しているBright Futurers 3の ようなものを作成し、普及させる必要があると考えました。

家庭医療の立場では自然に家族の一員である子どものケアに関ること、地域に根ざした医療では子どもから成人までの継続したケアが望まれることを示されました。どちらも必要に応じて小児科専門医との連携、協力はされています。小児科医会の小児科総合医としての内容は、提供されるべき医療の内容としては理解できますが、小児科医全てが到達するには、教育・研究のシステムが必要あり、それを享受する機会が保障されていることが必要で、それが今後の課題だと考えました。

子どもの成長・発達を確保するのが小児医療の目的ならば、そのために寄与している人との協力、連携、提携を図ることは重要だと思いました。春季カンファレンスで得たことを夏の年次集会で更に具体化して、学会としても個人としても行動変容につなげたいものです。