〈ライフスタイル〉
主権者は私たち! 若者の手で社会は変えられる!2022年11月27日聖教新聞
全国の学校に、お笑い芸人による出張授業を提供
株式会社笑下村塾 代表取締役たかまつななさん
今回は、お嬢さま芸人としてデビューし、現在は笑いを通して社会問題を発信している、たかまつななさんの登場です。時事YouTuber、「笑下村塾」起業など、多彩な顔を持つ“行動の人”の思いを聞きました。10代、20代の皆さんにお届けします!
きっかけは富士山のごみ
■政治に興味を持ったきっかけは?
小学4年生の時です。アルピニストの野口健さんの環境学校に参加し、富士山の美しさに感動したものの、翌日に見たのは注射器やバスの不法投棄。ひどいなと思いました。
健さんは「大人はこういうのを見て見ぬふりするから、君たち子どもが伝えてほしい」と。ごみ拾いはお金がかかる、誰がやるのか考えた時、解決策の一つは税金。そこから、社会問題を解決するには政治が大事だと思うようになりました。
■そのことを伝える手段として選んだのが“お笑い”ですね。
環境学校の経験を全校生徒の前で発表することになったんですが、当時、私は人前で話すのが本当に苦手で。じゃあ文字だったらいけるのではと壁新聞を書きましたが、何人に見てもらえるのかモヤモヤして。それがきっかけで中学1年生の時、読売新聞のジュニア記者に。でも、それもあまり反響がなく……。
そんな時に「爆笑問題」の太田光さんと、人類学者の中沢新一さんの対論『憲法九条を世界遺産に』(集英社新書)を読んだんです。芸人だからこそできる発想だ!と、衝撃を受けました。
■お嬢さま芸人誕生のきっかけですね。
お嬢さまはキャラ設定ではなく、江戸時代に新宿を開拓した人物を先祖に持ち、ご自身は中学・高校とフェリス女学院という――。
中学でお笑い同好会を立ち上げ、高校生の時にハイスクールマンザイの大会に出場すると、毎回司会者に「フェリス」をイジられるんです。先生からは「清く正しく品格あふれるお漫才を」と言われてました。
私には普通だったフェリスが、世間からはお嬢さまと見られていることに気付き、ネタにしたらウケたので、その芸風でやり始めました。
18歳選挙権はチャンス
■お笑い芸人になると決め、慶應義塾大学のAO入試では「フリップ芸」を。高校卒業前からお笑いの養成所に通い、大学2年生で芸人デビューしました。
自分で自分を推薦するAO入試では、志望理由書を何十回と書き直します。自分の将来をメチャクチャ考える中で、漠然とした思いが「お笑いを通して社会問題を伝えたい」と明確になりました。
大学では単位や教員免許を早く取得できたので、メディアのことを勉強したくて、4年次からは東京大学大学院情報学環教育部にも通いました。現場の方から学べたのは大きかったですね。
■当時は出演番組もあり、かなり忙しかったですよね。なぜ、そこまで頑張れたんですか?
午前3時から5時放送のラジオ番組「オールナイトニッポン0(ZERO)」の時は、放送後、朝6時に三田キャンパスに行き、9時の授業まで机で寝たり、1日で三つのキャンパスを移動したり。あの生活にはもう戻れないですね。
父は芸人になることに大反対で「大学卒業後は知らん」と。大学院1年目の学費はお笑い大会の優勝賞金で。2年目は「笑下村塾」の起業もあり、クラウドファンディング(ネットによる資金調達)を利用しました。
なぜ頑張れたかというと……実は小学校の時はサッカー選手になるのが夢だったんです。ただ、女子ができる中学校は少なく親も反対で。サッカー選手になれないのは親のせいだと思ってしまった。
でも中学生の時、ずっと親のせいにしてる自分ってすごく恥ずかしいと思って。次にやりたいことを見つけたら、何かのせいじゃなく自分のせいにしようと決めたんです。
■それで多忙な学生生活の中で、笑下村塾の立ち上げを。
2016年に18歳選挙権が導入され、初めて政治の場で若者が主役になったと感じて。もっともっと若い人の声を届けるためには主権者教育が必要。日本には不足している面白い教材を作ろうと思いました。
自治体と組み投票率上昇
■書籍『政治の絵本 学校で教えてくれない選挙の話』(弘文堂)は、とても分かりやすく大人も勉強になります。なぜ若者が選挙に行かないと損をするのか理解でき、巻末の「悪い政治家を見抜く人狼ゲーム」は、ぜひ多くの人にやってほしいと思いました。
そう言ってもらえると、うれしいです。笑下村塾は芸人を派遣し、全国の小中高大(時に企業も)に、主権者教育やSDGsについて出張授業をしています。社会が抱える問題について皆で建設的に議論し、当事者意識を持って行動する人が増えると、あらゆる社会問題が解決していくはず。主権者教育は全ての問題に通じると考えています。
■欧州各国へ主権者教育の取材に行かれたそうですね。
イギリスの小学校では、「社会を変えるためには選挙に行ったり、政治家に陳情したり、署名を集めたり、デモに参加したり、たくさんの方法があります。皆さんも、例えば給食に不満があったら署名を集めればいいんですよ」と先生が教えるんです。スウェーデンやドイツも、学内で民主主義の活動をやっている。
日本の子どもたちは、それらが社会を変えるための手段で、自分も民主主義をつくる一員だ、という感覚がないと思うんです。代表者に何かを託して変わった、という経験がないから。
日本の幼児教育では「皆と仲良く遊びなさい」だけど、スウェーデンだと「あなたは誰と遊びたいの?」「何をしたいの?」と聞かれる。小さい頃から“自分の意見を言う”教育です。
私は主権者教育はもっと政治的な教育だと思っていましたが、自分の意見を述べる、それを聞いてもらえる、何かを変えた経験がある、というところから始まるんだな、と。それって自己肯定感にもつながると思います。
■最後に、若者にメッセージを。
今年、群馬県の山本知事が直接連絡をくださり、県内の高校で「笑える! 政治教育ショーin群馬」を春から展開しました。
その結果、今年の参議院選挙では、18歳の投票率が前回より8%上昇したんです。11月20日には、生徒たちから知事に地域の課題について政策提言も。これが成功モデルとなり、全国に広がればと思います。
一緒に社会を変える仲間を増やしたいです。若い世代の力で、社会は変えられます。環境にいいものを買うなど買い物だって投票です。何かの声にリツイートでもいい。私たちが関心を持ち、声を上げて行動し、選挙にも行く。若者が監視していることを、数字で証明しましょう!
たかまつなな 1993年、神奈川県横浜市生まれ。時事YouTuberとして、政治や教育現場を中心に取材し、若者に社会問題を分かりやすく伝える。18歳選挙権をきっかけに株式会社笑下村塾を設立し、出張授業「笑える! 政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)ほか。
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life@seikyo-np.jp
【編集】加藤瑞子
【メインカットと人狼ゲームの写真】手面香
【その他の写真・イラスト】笑下村塾提供