Research Contents / 研究内容
更新日時:2024年12月16日
更新日時:2024年12月16日
※ このページでは 市田 優(いちだ ゆう,ICHIDA Yu)の研究内容について紹介しています.なお,現在所属している関西学院大学理学部数理科学科では,市田優 の研究室に配属されることはありませんので,ご注意ください.
専門:数学(解析系応用数学)
数学の研究分野は多岐にわたっていますが,大きく分けるならば,代数,幾何,解析,確率統計といった分野があります.市田はその中でも解析学を中心に研究をしており,解析学の手法や理論を応用して新しいことを解明することを目指しています.
より詳しい専門:力学系理論と微分方程式,現象の数理解析,(広い意味での)防災数学
解析学の中でも微分方程式と呼ばれる方程式のなす解の定性的性質を解明することを中心に研究しています.微分方程式とは未知関数が関数であり,独立変数と関数とその導関数を含む方程式のことを言います.物理法則や化学反応,生物学など多くの文脈から出現する微分方程式に対して,解は現象をより深く知る上で重要な対象となるでしょう.しかし,微分方程式の解をいつでも公式によって陽的に書き表すことは難しいため,定性的な性質を明らかにするという立場で微分方程式の解の振る舞いについて様々な角度から知ろうとこれまで研究がなされてきました.その1つの分野が力学系理論であり,その中でも連続力学系と呼ばれる微分方程式の定性理論に興味を持っています.さらにその応用として,微分方程式とその解が表す多様な現象の数理的視点からの解析,そのターゲット,共通言語としての防災数学に関する研究に従事しています.
キーワード:力学系理論,常微分方程式,偏微分方程式,無限遠ダイナミクス,数理モデル,防災数学
力学系理論とは時々刻々と変化する物事の様子を数学的に記述した概念で,物理学における「力学」とは現在では異なる学問分野です.特に私の主軸としている「連続力学系」では微分方程式の定性的理論を対象としています.
微分方程式とは自然界の物事の振る舞いを決める法則の数学的表現であり,微分方程式の解を調べることは現象を理解し,予測できる可能性があります.多くの微分方程式では,解を既知関数で表現することはできないため,その定性的性質を解明するという立場をとり,連続力学系や幾何学的なアプローチを用いてその諸性質を明らかにすることを目指しています.
防災数学とは広い意味でさまざまな災いを防ぐことを意識し,それに資する数学.矢崎成俊氏(明治大学)による造語.災いの広さを意識して「広い意味での防災数学」とも呼んでいます.その射程は「災害」だけではなく,身の回りの「災い」をも対象としています.現象を数学的に理解しようとするモチベーションとして,または現象を数学的に理解しそれを社会に還元する啓蒙的な意味合いも込めて「防災数学」と呼んでいます.
多様な現象を数学的に記述する場合,原理・法則から導かれる微分方程式による表現が多くなされています.現象の多くは時間と空間の織りなす世界のもとで起こるものであり,偏微分方程式での記述が期待されます.現象理解のための偏微分方程式の解析において,偏微分方程式には一般的に解の公式なるものは存在しないため,解を既知関数によって表現することは期待できません.それは,特別な解に限ったとしても解のダイナミクス含めた定性的諸性質を明らかにする研究に意味があるといえます.市田は力学系理論と幾何学的アプローチを組み合わせた手法を援用することで偏微分方程式の特殊解の分類(存在,形状に関する情報,無限遠方などの漸近形式)を得ることを目標としています.特に,"変な"挙動(特異性を有しているなど)を見てみたい,そしてそれがどのようにしてなぜ出現するかという機構の解明に興味を持っています.それを含めて,方程式に含まれるパラメータの変化に対応する特殊解の分類の構造変化,無限遠分岐の理論応用展開を導くことも目標としています.これらは特殊解に制限することで常微分方程式系に問題が帰着されるため,無限遠ダイナミクスを誘導する力学系理論と幾何学的アプローチの1つであるポアンカレ型コンパクト化の適用が期待できます.例えば,
・MEMS型,負冪の非線形性を有する偏微分方程式の数理解析
・空間1次元退化放物型方程式の数理解析
・走化性方程式系の数理解析
・非線形拡散・自己拡散・退化拡散が及ぼす特殊解の構造変化
・無限遠分岐の構造理解,理論構築と応用展開
真の現象理解を促すための分野横断,そのキーワードとしての「防災」
自然現象,社会現象における「なぜ」という疑問に論理的に説明できることを目指し,その表現方法として数学は古くから発展してきました.数学から興味のある現象を知りたいと思ったとき,数理モデルを用いることは有力なアプローチの1つでしょう.すなわち,数理モデルを構築し,それを数学解析し,数値シミュレーションし,モデルの妥当性を検証し,必要に応じてモデルを修正し,解析し,比較検証することを繰り返すことです.これにより,現象の背後にあるメカニズムを理解したり,想定していない未来を予測することができれば現象理解は大成功と言えることになります.現象を本当に理解したいと思ったとき数学だけの視点で理解するのは難しいでしょう.複雑な要因が絡み合う中でどの本質を捉えるためには分野横断による現象の理解が重要と考えます.しかし分野横断は言葉や定義,文化の違いがあり,まだまだ進んでいないことも現状です.そこで「広い意味での災い」を防ぐという意味で「防災」を掲げることは多くの分野が集まり議論する上での1つの軸となると考えています.
身の回りの「災い」を防ぐ数学,現象理解,社会還元への啓蒙としての「防災」
防災と聞くと地震や火事,台風といったスケールの大きな災害をイメージするかもしれません.しかし,身近に潜む災いという小さいスケールも込めて考えたときに,より豊かな人間生活の実現のためには,突然訪れる「災い」に対して,どのように備えるか考えなくてはいけません.しかし,上記で述べた現象理解の成功ができた暁には,毎日をもうちょっとハッピーに過ごせるかもしれません.市田は数学と日常をつなげる,数学と他分野との分野横断研究の実践へのキーワードとして「防災数学」を掲げ,数理モデルによる現実世界の記述と未来創造に取り組んでいます.特に,現象を数学的に理解することの強みは数式がもたらす普遍性,仮説・論理の提供,実験の効率化でしょう.数理モデル構築において現象のすべての要素を組み込むことが解析を困難にするため,本質を見抜き単純化して,いかに簡単な方程式で現象の一端を記述することができるかという点はモデルの"美しさ"に関わってくるでしょう.それゆえ,実験と数理の視点が複数に織りなす新しい双方向複眼的融合基盤研究を防災という共通点で創出することこそが防災数学であると言えます.市田は防災の形について数学から模索することで,実験と数理のそれぞれの発展と融合研究が新たな価値や深化を生み出すことを目指しています.例えば,
・ペースト状人工骨の数理
・血管新生の数理
・MEMS(Micro-Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)デバイスの安全性を担保する数理
・害虫駆除の数理
関西学院大学所属時に関西学院大学のweb広報誌に「防災数学」に関する記事が掲載されております.ぜひご覧ください.(HP:月と窓 )