論文の概要
更新日時:2025年9月26日
更新日時:2025年9月26日
[ 18 ] Y. Ichida, Traveling waves for a Fisher-KPP equation with power nonlinear degenerate diffusion, J . Elliptic Parabol. Equ., in press.
[ Jounal ] (Doi: 10.1007/s41808-025-00392-x)
本論文では,空間1次元の冪乗非線型退化型拡散を有するFisher-KPP方程式における弱い意味も含めた非負進行波の振る舞いに関する分類結果を与えている.フロント進行波,非有界性や特異性を有する進行波の存在,形状に関する情報を与え,漸近形式を与えている.これは,進行波を特徴付ける2次元常微分方程式系の無限遠まで含めたすべての接続軌道を分類することで得られており,本論文では力学系理論および幾何学的アプローチの1つであるポアンカレ・コンパクト化を用いている.先行研究で提唱されている弱解の概念,非線形な拡散による進行波の定性的特質の変化に関する結果と組み合わせることにより,非線形かつ退化拡散が及ぼす進行波の形状の変化や分類に関する結果への影響を指摘している.拡散の非線形性や退化性が進行波の形状や漸近形式,進行波の分類にどのような影響を与えるのかについて具体的な系から調べた研究であり,一般化に向けた1つのサンプルを与えているといえる.
この論文は完成したのは2024年だったが,投稿したのは色々と論文の記述を整理して,2025年6月10日に投稿して,9月にスピーディーにアクセプトとなった.個人的には入籍した翌日に投稿した論文で思い入れがある.
[ 17 ] Y. Ichida, R. Yamada, S. Kato, Y. Kamaya, M. Kosuge, M. Aizawa, T.O. Sakamoto, S. Yazaki, A simple mathematical model for evaluation of non-fragmentation property of injectable calcium-phosphate cement, Sci Rep 15 (2025), 21571.
[ Jounal ] (Doi: 10.1038/s41598-025-06039-0)[ Source code へのアクセスはこちら ]
本論文はバイオマテリアル分野と数学分野の融合研究の成果である.骨疾患に対する整形外科治療技術の向上において近年注目されているペースト状の人工骨を対象としている.骨補填材である注入型リン酸カルシウムセメントの材料特性の1つであるnon-fragmentation特性と呼ばれる空隙形成を含むような材料特性に着目し,実験的に明らかにされている硬化のメカニズムやその挙動の特徴を端的に捉えることのできるシンプルな数理モデルを構築し,そのシミュレーション結果とモデルの妥当性検証,実験へのフィードバックを与えて,この問題を解決している.我々の提案している数理モデルは物理法則や化学反応からモデル化するのではなく,現象論的なモデル化を行い,それを支持するための3つの新たな実験を行った.そして,その結果をうまく利用してシンプルな数理モデルを構築している.提案するモデルは,数学的によく知られたAllen-Cahn型反応拡散方程式に基づいているが,時間依存する拡散係数を持つなど現象を捉える項を導入している.適切な無次元化に従ってスケーリングを行った後,数値シミュレーションを行っている.数値結果は,実験的に観察することが困難なペーストの硬化挙動を表している.数学的結果と実験的結果の統合により,注入型リン酸カルシウムセメントのnon-fragmentation特性のメカニズムに対する深い洞察を与えているものである.
この研究は2020年秋頃からはじめており,市田の防災数学の最初の一歩となる研究である.論文としてまとめることができ,そして国際雑誌に掲載できたことは嬉しい.APCの支出はなかなか痛かったことはここだけの話.融合研究の楽しさと大変さを味わえ,後の融合研究への足掛かりとなった研究であり,修士の指導教員と博士の指導教員と論文が書けたことも個人的には嬉しい.
[ 16 ] Y. Ichida, Classification of weak and unbounded traveling wave solutions for a Porous-Fisher-KPP equation, SN Partial differ. Equ. Appl. 6 (2025), No. 25, Paper No. 3, 24 p.
[ Jounal ] (Doi: 10.1007/s42985-025-00335-0)
本論文では,空間1次元のPorous-Fisher-KPP方程式における弱い意味も含めた非負の進行波解の分類に関する結果を報告している.これは,力学系理論及び幾何学的アプローチ(特にポアンカレ・コンパクト化)により得られる.進行波を特徴付ける$2$次元常微分方程式系の無限遠まで含めたすべての力学系を与え,すべての接続軌道を分類している.そして,その分類は進行波の分類を与えるものであり,先行研究で提唱されている弱解の概念とflux conditionを組み合わせることで,進行波の分類を与えている.これにより,これまでに示されていない非有界な進行波の分類を与えるだけではなく,sharp-typeな進行波の特異点近傍での進行波の形状に関する情報や漸近挙動が方程式に含まれるパラメータにより変化することを指摘している.進行波の形状の変化や,非線形拡散の効果としての非有界な解の存在など,解構造の豊かさについて新たな視点を提供している.アクセプトまでに時間がかかった論文だが,関学助教2年目の春にようやくアクセプトされた論文.ちょうど結婚した頃にアクセプトされ,妻に自慢した.
[ 15 ] Y. Ichida, S. Motonaga, Geometric structure of the traveling waves for 1D degenerate parabolic equation, to appear in J. Dyn.Differ.Equations.
[ Jounal ] (Doi: 10.1007/s10884-024-10389-0)
空間1次元退化放物型方程式は多様な現象をその背景に持つだけではなく,拡散係数としてU^pをもち,この影響により解のダイナミクスが豊かになることが知られている.特に爆発解の存在が知られており,爆発レートの導出を含め多くの研究がなされている.特徴的な解である進行波についても退化に由来する項の影響で進行波の形状など複雑な挙動をみせることがこれまでに市田の研究によりわかってきた.先行研究として0<p<1とp>1の場合の進行波の幾何学的構造が明らかにされており,p=1を境目として進行波の構造が変化することが指摘されているもののp=1での進行波の構造は未解決のままであった.本論文では,従来のアプローチでは明らかにできなかったp=1での漸近形式を明らかにする漸近的な評価方法を開発し,p=1を境目とする進行波の幾何学的構造と分岐について議論している.2023年6月にRIMS力学系研究集会で[13]の内容を講演した際にp=1を未解決問題と紹介し,その際に本永氏に声をかけていただき議論の末に解決した論文.空間1次元退化放物型方程式の非負進行波の分類はpに関するすべての範囲で得られたことになり個人的に嬉しい.
[ 14 ] Y. Ichida, Y. Nakata, Global dynamics of a simple model for wild and sterile mosquitoes, Math. Biosci. Eng., 21 (2024), issue 9, pp.7016--7039.
[ Jounal ] (Doi: 10.3934/mbe.2024308)
蚊が媒介する疾患への罹患を予防する意味として野生の蚊の個体群動態を管理することが重要となる.その1つの方法として遺伝子操作された不妊蚊を放す方法(不妊殺虫技術,SIT法)が知られている.害虫駆除における数理モデルからの政策効果の見積もりや影響について議論したい.しかし,状況を単純化させた2次元常微分方程式系モデルを考えたとしても,比率依存する項を持つために,解の大域的な振る舞いを理解することは困難となり,知りたい情報(どのくらい放出すればよいのか?放出した結果害虫駆除は成功するのか?)を直ちに得るには数学解析としての工夫が必要となる.本論文では,時間スケール変換と特異点膨らまし(ブローアップ)技術と呼ばれる幾何学的アプローチと中心多様体定理を組み合わせることにより比率依存項が複雑化させる原点近傍での力学系の定性的な振る舞いを明らかにする.そして,蚊の自然死率と不妊蚊の放出率で表される2パラメータ 平面上に分類し,不妊蚊の放出戦略について議論する.さらに,内部平衡点とその局所安定性についてもよりシャープな結果を提供している.本論文は,比率依存項を持つモデルの数学的解析の枠組みを提供し,改良されたモデルの複雑性に理論的に耐えるものとなっていると期待している.2022年春頃より中田氏と議論を重ね,2023年冬頃に本論文の結論を得ることができた.数理モデルとしての妥当性の検証など議論の余地は大いにあるものの数学解析として大きな結果を得ることができたのではないかと考えている.
[ 13 ] Y. Ichida, T.O. Sakamoto, Classification of nonnegative traveling wave solutions for certain 1D degenerate parabolic equation and porous medium type equation, Discrete Contin. Dyn. Syst., 44 (2024), no. 8, pp. 2342 -- 2367.
[ Jounal ] (Doi: 10.3934/dcds.2024030) available on arXiv: 2304.00802 [ arXiv ]
本論文では,平面曲線の時間発展問題などに由来を持つ空間$1$次元退化放物型方程式の非負の進行波解の分類に関する8の続編にあたる論文である.既に方程式に含まれる退化性に由来する$U^{p}$の$p$について,$1<p\in \mathbb{R}$の場合における結果は得られているが,本論文では$0<p<1$の場合について議論している.単純に進行波座標を導入するだけでは,調べられないパラメータ領域である.なぜならば,無限遠の平衡点近傍の力学系を導出するために用いる特異点膨らましに課されている仮定の影響である.そこで,先行研究のように$u=U^{p}$とおき,$u$の方程式の非負の進行波解を調べた結果を用いて主結果を得ているという工夫をしている.それだけではなく,先行研究の結果と合わせ,$p=1$での非負進行波の分類の変化を進行波を特徴付ける常微分方程式系の無限遠での分岐に関連づけて考察をしている点で興味深い.さらに変換によって特別な非線形性を有する多孔質媒質方程式の進行波の分類まで得られるという結果を残している.退化放物型方程式の進行波についての豊富な幾何学的構造の輪郭が具体的な挙動の解析から見えてきたような気がする,そんな論文になったと信じている.市田がポスドクのときの結果.
[ 12 ] Y. Ichida, A characterization of nonnegative stationary solutions for certain 1D degenerate parabolic equations and their applications, Commun. Pure Appl. Anal. 23 (2024), no. 6, 873--894.
[ Journal ] (Doi: 10.3934/cpaa.2024038)
本論文では,退化性を有するような空間1次元退化放物型方程式の定常解の特徴づけを与えている.弱い意味も含めた定常解の存在しうるものをすべて列挙し,それらの形状に関する情報や漸近挙動を与えている.さらに,この定常解に関する結果の応用として,変換を上手に使うことにより,最も単純な多孔質媒質方程式の定常解についての結果についても言及している.これらの結果は方程式の定常解の満たす2次元常微分方程式系を導出し,相平面解析の手法に加え,ポアンカレ型コンパクト化と特異点膨らましを用いて,無限遠まで含めたダイナミクスの把握を行うことにより得られている.関学助教に着任して1本目の論文.定常解として複雑な形状を示している点で意義深い結果であり,退化型の拡散が織りなす豊かさの一端を示している結果であろう.
[ 11 ] Y. Ichida, T.O. Sakamoto, Geometric approach to the bifurcation at infinity: A case study, Qual. Theory Dyn. Syst. 23 (2024), no. 3, Paper No. 109, 24 p.
[ Journal ] (Doi:10.1007/s12346-024-00966-5)
これまでの空間 1 次元退化放物型方程式の非負進行波の分類の研究の派生として,進行波を特徴付ける 2 次元常微分方程式系の無限遠まで含めたダイナミクスをすべて明らかにしたことにより,無限遠の平衡点の安定性の質的変化を捉えることができること,すなわち,無限遠での分岐(bifurcation at infinity)について論じることができることに気がついている.その上で,パラメータの変化による無限遠の分岐が進行波の分類の変化と関連していることを指摘している.一方,非線形な Sturm-Liouville(ス トゥルム-リュウビル)問題におけるパラメータを動かしたことに,ある値で解の適切なノルムが非有界になる無限遠からの分岐(bifurcation from infinity)について調べられている.本論文では,特別な反応項を有する単独の人工的な反応拡散方程式の 定常解に着目し,無限遠の平衡点が分岐を起こすだけではなく,分岐によってどのような解が生じる(もしくは消滅する)かという無限遠での分岐を幾何学的なアプロー チ(特に, ポアンカレ型コンパクト化)を用いた精密な解析によって調べている.加えて,ベンディクソンのコンパクト化と呼ばれる 1 点コンパクト化の視点からも無限遠での分岐に関する同様の結論が得られることについても言及する.テストケースでの検証に過ぎないが,無限遠での分岐の幾何学的様相の一端をつかめるような結果なのではないかと思う.市田がポスドクの時に執筆した論文.
[ 10 ] Y. Ichida, Radially symmetric stationary solutions for certain chemotaxis systems in higher dimensions: a geometric approach, Discrete Contin. Dyn. Syst., 43 (2023), no. 5, pp. 1975--2001.
[ Journal ] (Doi: 10.3934/dcds.2022188)
本論文では,単純化されたKeller-Segel方程式系,単純化された誘引反発型走化性方程式系における球対称定常解の存在とその形状,漸近挙動について考察した.この問題は参考文献にもあげたNaito (2021)の議論に触発されている.力学系理論や幾何学的アプローチからの走化性方程式系の球対称定常解に関する本研究により,これまで明らかにされていなかった解の存在やその諸性質,既知の解のより詳細な性質を明らかにした点で新しい.これらの結果は変換により導出される2次元ODEの無限遠まで含めたダイナミクスをポアンカレリャプノフコンパクト化により導くことで得られる.市田がD1の終わり頃に精力的に計算した結果.走化性方程式に初参入し,この方程式の研究に特組まれている多くの方と出会い,お話しすることができるきっかけとなった論文.無限遠方での球対称定常解の挙動をきちんと調べられている点は特筆すべき成果と言える.
[ 9 ] Y. Ichida, Classification of nonnegative traveling wave solutions for the 1D degenerate parabolic equations, Discrete Contin. Dyn. Syst., Ser. B, 28 (2023), no. 2, pp. 1116--1132.
[ Journal ] (Doi:10.3934/dcdsb.2022114)
本論文では,多くの現象を由来とする空間1次元退化放物型方程式の非負の進行波解の分類(解の存在,形状に関する情報,漸近挙動)を与えている.論文[2]では特異点膨らましという手法を用いるために,どうしても方程式に含まれるパラメータを1より大きい自然数に制限せざるを得なかった.しかし,本論文では$U^{p}=u$という変換により得られる別の方程式を考える.この変換によって,先行研究での自然数という仮定なしに[2]と同様にポアンカレ・コンパクト化や力学系理論の手法によって議論をすることができ,別の方程式において非負の進行波解の分類を得ることができる.そして,変換を復元することでこの結果を元の問題の非負の進行波解の分類に反映し,[2]の結果を一般化した結果を得ている.市田がD1の夏休みに急に思い付いた変換で,この変換により,退化型の進行波の分類という個人的には強いと思っている結果を出すことができた.おそらく博士後期課程在学中に最も多く講演した内容だろう.
[ 8 ] Y. Ichida, Traveling waves with singularities in a damped hyperbolic MEMS type equation in the presence of negative powers nonlinearity, Electron. J. Differ. Equ, 2023 (2023), no. 5, 1--20.
本論文では,MEMSモデルを由来とし,$\alpha$を偶数,$\varepsilon>0$を十分小さい定数とする消散双曲MEMS型偏微分方程式の進行波について考えている.この方程式は出版済み論文[1]の反応拡散方程式の左辺に慣性項を付加したものであるが,方程式の型が放物型から双曲型に変わるため,偏微分方程式の観点からもその解の振る舞いを調べることは重要な問題の一つである.本論文では,進行波という視点で,この項の有無によって形状や漸近挙動がどのように変わるのか調べた.さらに,論文[1]での漸近挙動導出のプロセスを改良し,より精度の高いものを導出することに成功した.主結果としては,進行速度が十分大きい場合には反応拡散方程式の場合には存在しなかった形状を反転させたような進行波が得られた.市田がM2の修士論文審査会で副査の先生方にご提案いただいた内容に基づいて研究したことが成果となった論文.個人的にははじめて書いた単著で思い出深いが,アクセプトまでは時間を要することになった.
[ 7 ] Y. Ichida, T.O. Sakamoto, Radially symmetric stationary solutions for a MEMS type reaction-diffusion equation with fringing field, Nonlinearity, 36 (2023), no. 1, pp. 71--109.
[ Journal ] (Doi:10.1088/1361-6544/ac9bc3)
本論文では,fringing filedと呼ばれるモデル由来の非線形項を持つ空間多次元のMEMS型反応拡散方程式$U_{t}=\Delta U+(\mu+\delta |\nabla U|^{2})(1-U)^{-1}$における(特異性を持つものを含む)球対称定常解の存在とその形状や漸近挙動について考察した.この問題は参考文献にも挙げたGhergu-Miyamotoの結果に触発されて調べているが,それとは本質的に異なるアプローチにより,部分的に一致する結果やより詳細な結果,異なる結果を得た.これらはポアンカレ型コンパクト化(ポアンカレコンパクト化,ポアンカレリャプノフコンパクト化),力学系理論,ベクトル場の特異性解消に関する幾何学的な手法を組み合わせた枠組みを応用することで調べた.市田がM2の夏休みからD1になる頃あたりまで精力的に計算を進めていた問題で,場合分けが多くなり時間を要した.特に原点付近の球対称定常解の挙動を詳細に把握できている結果を含むものであり,面白いことが見つけられたのではないかと思っている.
[ 6 ] Y. Ichida, T.O. Sakamoto, Stationary solutions for a 1D pde problem with gradient term and negative powers nonlinearity, J . Elliptic Parabol. Equ, 8 (2022), no. 2, pp. 885--918.
[ Journal ] (Doi : 10.1007/s41808-022-00180-x)
本論文では,$\alpha$を偶数,$\beta$を4より大きい偶数としてfringing filedと呼ばれるモデル由来の非線形項を持つMEMS型反応拡散方程式$u_{t}=u_{xx}+\mu(1+\delta u_{x}^{\beta})(1-u)^{-\alpha}$における(解が無限大になるものや時間微分が発散するような特異性を含む)定常解について考察した.方程式としては論文 [1] の一般化に相当する.ここでは,有限区間または半無限区間で方程式を満たす関数の族の存在や(特異な)定常解の存在を証明し,その形状,漸近挙動といった豊かな性質を明らかにした.手法としてはポアンカレ・コンパクト化を拡張させたベクトル場の擬斉次性を考慮したポアンカレ・リャプノフコンパクト化,時間スケール変換,特異点膨らまし(blow-up)を応用した.市田がM1の冬から取り組んでいた問題だったが,査読期間が長引いたことやなかなかアクセプトにこぎつけなかった論文.多くの未解決問題を提唱しており,無限遠方での力学系について今後何かしらの示唆を与えているのではと個人的に思っている(が,特にこれといったアイデアは何もない).
[ 5 ] Y. Ichida, On global behavior of a some SIR epidemic model based on the Poincar\'e compactification, JSIAM Lett., 14 (2022), pp. 65--68.
[ Journal ] (Doi:10.14495/jsiaml.14.65) available on arXiv: 2201.05321 [ arXiv ]
感染症流行過程を記述した常微分方程式系ではその解の大域挙動を調べることは重要な問題の1つであり,その一般的な方法としてLyapunov関数によるLaSalleの不変原理がある.しかし,Lyapunov関数を構成する一般論は確立されていないため,より複雑で多くの要素を組み込んだモデルなどの解の大域挙動を理解することは決して容易ではない.そこで本論文では相空間のコンパクト化の1つであるポアンカレ・コンパクト化という手法を用いて,ODE系の無限遠方までのすべてのダイナミクスを明らかにすることでLyapunov関数を構成することなく解の大域挙動を理解することができるというこれまでとは異なるアプローチを提示している.そして,出生や死亡項を持つような人口動態を考慮した古典的で代表的なエンデミックSIRモデルに適用し,それが有効であることと本手法の応用可能性について述べている.さらに,平衡点の周りでのダイナミクスの議論を洗練させ,漸近挙動を導出し基本再生産数との関係性について言及している.M2の頃から新型コロナウイルス感染症の影響もあり,もともと興味を持っていた感染症の数理の研究に本腰を入れ,シンプルなモデルで複雑で豊かな構造を調べたいというモチベーションのもと研究したことで生まれた論文.
[ 4 ] Y. Ichida, K. Matsue, T.O. Sakamoto, A refined asymptotic behavior of traveling wave solutions for degenerate nonlinear parabolic equations, JSIAM Lett., 12 (2020), pp. 65-68
[ Journal ] (Doi:10.14495/jsiaml.12.65) available on arXiv: 2008.00174 [arXiv]
本論文では,論文[2] にて明らかにならなかった0と1をつなぐ進行波の陽的な漸近挙動を導出した.この漸近挙動の導出の最大の難しさは特殊関数LambertのW関数を含むODEの出現であった.そこで,本論文ではLambertのW関数を含む(広義)積分を評価し,これを含むODEを解くことなく進行波座標に変換することで陽的な漸近挙動を得られた.特に,これまでの我々の議論とは異なる形式での解の漸近的研究を行ったことが特筆すべき点である.市田がM2になった頃,新型コロナウイルス感染症の蔓延となり,在宅の時間が長くなった時に松江先生と坂元先生と議論して生まれた論文である.個人的に結果はかなり気に入っている.
[ 3 ] Y. Ichida, T.O. Sakamoto, Radial symmetric stationary solutions for a MEMS type reaction-diffusion equation with spatially dependent nonlinearity, Jpn. J. Ind. Appl. Math., 38 (2021), pp.297-322.
[ Journal ] (Doi:10.1007/s13160-020-00438-8)
本論文では,$p$を自然数として空間非線形な項を持つMEMS型反応拡散方程式$u_{t}=\Delta u-|x|^{q}u^{-p}$における球対称定常解の存在,及びその漸近挙動($r\to 0$,$r\to +\infty$)について調べた.$q\in \mathbb{R}$,$p$を偶数に制限すると,負値解の存在とその漸近挙動を,$p$を自然数,$q\ge -2$に制限すると,正値解の存在と$q=-2$と$q>-2$のそれぞれで漸近挙動を導出したのが大きな成果である.市田がM1の夏頃に坂元先生から問題をご提案いただき,夏休みに一気に計算した思い出がある.
[ 2 ] Y. Ichida, T.O. Sakamoto, Traveling wave solutions for degenerate nonlinear parabolic equations, , J. Elliptic and Parabolic Equations, 6 (2020), pp.795-832.
[ Journal ] (Doi : 10.1007/s41808-020-00080-y) [ Correction ]
本論文では,$p\in\mathbb{N}$として退化($u=0$を考慮)非線形放物型方程式$u_{t}=u^{p}(u_{xx}+u)$とそのスケーリングすることで得られる$v_{\tau}=v^{p}(v_{xx}+v-v^{-p+1})$の進行波解とその漸近挙動について調べた.$p$を偶数に制限することで,Quenchを伴う弱進行波解と進行波解の存在とその漸近挙動を,$p$を奇数に制限することで進行波解に対応する軌道を分類することができた.市田がM1の秋頃に明治大学の数学科資料室でDCDSをみていた時に,こういう方程式にも応用できるのではという思いつきから研究を始めた.
[ 1 ] Y. Ichida, T. O. Sakamoto, Quasi traveling waves with quenching in a reaction-diffusion equation in the presence of negative powers nonlinearity. Proc. Japan Acad. Ser.A Math Sci. 96 (2020), no.1, pp.1-6.
Open access : [ Journal ] (Doi : 10.3792/pjaa.96.001)
本論文では,$\alpha$を偶数として反応拡散方程式$u_{t} = u_{xx} + 1/(1-u)^{\alpha}$における解の時間微分が有限時間で発散(急冷・Quenching)するような擬進行波(有限区間でのみ方程式を満たす関数を構成)の存在を証明し,さらにその漸近挙動を導出した.先行研究では$\alpha$が自然数の場合には,もし存在すればという結果であったが,我々は偶数に制限することで存在を証明したことが大きな成果である.市田が学部4年生の夏休みに坂元先生からこういう問題をやってみないかとお誘いいただき,秋頃に計算を進めたが,どうしても進行波の存在を証明することができずにいたが,卒業研究中間発表の時に先生と証明を思いつき,論文化に至った思い出がある.
[ 4 ] J.-S. Guo, Y. Ichida, C.-C. Wu, S. Yotsutani, Bifurcation diagram for boundary value problem arising in the polarized ionic conductor, submitted.
本論文では負冪の非線形性と勾配項を有する空間1次元の反応拡散方程式にRobin境界条件を課した境界値問題を対象として,特殊な解でありかつ典型的な解である定常解に着目している.まず,方程式の複雑さを緩和させるため参考文献にも挙げたGhergu-Miyamoto,Ichida-Sakamotoで採用されていた勾配項の係数の範囲による3つの場合わけを統一する変換を発見し,問題は2階常微分方程式の境界値問題に帰着される.この変換がうまく機能することで古典的な手法を適用することが可能となり,元の方程式の反応項の係数を単一の関数として表すことのできる変数(論文中でいうsに相当)を見つけることができ,元の方程式の反応項の係数の挙動や最大点を唯一持つことを示すことができる.これにより,分岐図式と対応する定常解の個数に関する結果を得ることが可能となる.さらに解の陽的表示も得られている.分岐図式の結果はLevine (1989) の勾配項がなくDirichlet境界条件を考えた結果の拡張とも言えるものの,勾配項とRobin境界条件による計算の複雑さを上手な変換の導入によって回避することができていることがポイントだろう.
これまで手計算でどんどこやってきたが,共同研究者の四ツ谷先生にmapleによって変換を見つけたりする技術を伝授していただいたのは財産.共同研究しながら新しい手法を勉強できてありがたい限りである.
[ 3 ] Y. Ichida, Geometric structure of stationary problem for spatial 1D self-diffusion equation with logistic growth, submitted.
本論文では非線形な自己拡散項と増殖項を有する空間1次元放物型方程式の非自明な非定数定常解の解構造について考えている.この方程式はSKT交差拡散方程式において自己拡散項のみに着目して得られる単独方程式であるものの,線形拡散のFisher-KPP型反応拡散方程式,非線形拡散のPorou-Fisher-KPP型方程式を内包しているという特徴を有する.定常問題を満たす2次元常微分方程式を導出し,その無限遠まで含めた全てのダイナミクスを相空間のコンパクト化の1つであるポアンカレリャプノフ・コンパクト化により明らかにすることで,定常問題を満たす関数(非自明な非定数定常状態)の分類を方程式の構造のみの情報から抽出している.さらに,2次元常微分方程式系の持つ対称性や保存量に関する議論を組み合わせることで,線形拡散係数と自己拡散係数の明示的な関係式による非定数定常状態の分類の変化を観察している.自己拡散係数を分岐パラメータとして扱うことにより,big saddle homoclinic orbitからsaddle平衡点同士を繋ぐようなheteroclinic orbitへの変化を捉え,定常状態の形状やその諸性質の大きな変化として特徴付けている.自己拡散に関する非線形拡散と線形拡散の関係性を明示的に示し,非自明な非定数定常状態の特徴づけを力学系の観点から与えている点で新しい.
[ 2 ] Y. Ichida, Traveling waves in the spatial 1D Fisher-KPP equation with Allee effect, submitted.
Fisher-KPP方程式の進行波解の構造に対して,方程式の拡散項や反応項を変化させることで構造にどのような変化が起こるかという問いは自然な問いである.本論文では,Allee効果を表現する非線形性をFisher-KPP型反応拡散方程式に付加することにより,進行波の存在や形状に関する情報の分類がどのように変化するかという問いに答えるものである.フロント解の変化の詳細だけではなく,有限区間の端点で非有界性を持つ進行波の存在とその特徴づけを精密に解析している.この分類に関する結果は進行波の満たす2次元常微分方程式を導出し,その無限遠まで含めた全てのダイナミクスを相空間のコンパクト化の1つであるポアンカレ・コンパクト化により導いている.この議論により,線形拡散の場合のFisher-KPP反応拡散方程式の進行波における結果をベースにして,著者のこれまでの研究成果を統合することにより,Allee効果のもたらす進行波への影響だけではなく,拡散項の変化と反応項の変化によって進行波の解構造がどのように変化するかについての比較と考察を与えている.