臨床研究関連教材

効果的なプレゼンテーションの基本と実践

1 プレゼンテーションの目的

1. 1 何のためにプレゼンテーションを行うのか

 プレゼンテーションとは自分の考えを他者が理解しやすいように目に見える形で示すことです。学会発表であれば自分の取り組んだ研究の成果、述べたい主張を伝えるために行います。

 聴き手は発表内容に関心を持っているとは限りません。関心を持ってもらうためには、わかりやすく情報を伝える資料作成と発表技術が必要となります。

1. 2  わかりやすくする工夫

 わかりやすいプレゼンテーションにするための2つの要因があります。どちらもKISSの原則「keep it short and simple」に従い、簡潔かつ単純なものになるよう心掛けます。聴き手が解読しなければならない、情報を認識するのに時間がかかるプレゼンテーションはわかりにくくなります。

中身的要因

 問題提起から結論に至るまでの話の流れをつかみやすく、内容がすんなり理解できるよう心掛けます。聴き手が「その主張を導く論理を理解できる」ように、話す内容を検討します。

外見的要因

 個々の情報を理解するための負担がかからならず、伝えたいことが目立つようにします。聴き手が「情報を早く認識できる」ように、直感的に理解できるプレゼンテーション資料(スライド、ポスターなど)を作成します。

2 プレゼンテーションの立案

2. 1 情報収集

 どのような背景を持った相手に、どのような内容を、どのくらいの時間を使って伝えるのかを意識します。また、発表する場の規定に合わせた資料作成が必要となるため、事前の情報収集が必要となります。

2. 1. 1 時間

 発表する時間とその内訳を必ず確認します。決められた時間は質疑応答の時間を含むのか、正味の説明時間は何分なのかを確認しておきます。時間を自分で決めることができる場であれば、話を伝えるのに適切な時間を決めて、時間と内訳を聴き手に前もって伝えておいたほうが良いでしょう。聞き手は長すぎる説明を嫌うため、必ず時間を守るようにします。

2. 1. 2 形式

 どのような形式でプレゼンテーションを行うかで用意する資料・原稿が異なります。ポスター発表と口頭発表の違いを以下に示します(表1)。

 オンライン形式でのプレゼンテーションの場合は、Zoomなどのオンライン会議システムを通して、スライドを用意して説明を行います。配信者には使用するシステム、機材の知識や通信環境の整備が要求されます。リアルタイムで配信を行うライブ方式とあらかじめ撮影した動画を配信するオンデマンド方式があり、両者の違いを表2に示します。

2. 1. 3 規定

 学会での発表であれば、使用できる機器などに制限があります。規定を確認し、対応した内容で資料を作成する必要があり、例として表3のような項目があげられます。

2. 2 構成検討 

 プレゼンテーションで示す情報を明確にすることが大事です。まず結論で何を主張するか決めます。次にその結論に必要な根拠は何か、帰納的に全体の流れを考えていきます。これによって、掲載する各要素が結論を伝えるために存在することになります。

 伝えたいことに直接寄与しないデータは聴き手の理解を妨げることになるため、主張することを絞って不要な情報は捨てます。

2. 3 構成の例 

学会等で発表する際の基本的な構成例を以下に示します(表4)。

3 プレゼンテーション資料の作成

3. 1 資料作成の基本

 資料の作成は、①可視化 ②要素の統一 ③注意の集中 を原則とします。

可視化

コンテンツを可視化します。人間の情報処理や記憶の性質を考えると、言葉だけでなく絵を使うべきです。

要素の統一

要素を統一します。スライドの色使いやフォント、書式設定を統一すれば、聴き手は発表の内容をスムーズに理解できます。

注意の集中

聴き手の注意を特定のポイントに集中させます。スライドから不要な要素を排除することで、聴き手の関心を引かなければなりません。

3. 2 骨子の作成

 一番大事なのは全体の構成です。いきなりパソコンで資料を作成しないで、まずは手作業でノートなどにコンテを作成しましょう。全体の構成が決まってからそれぞれをどう作成するか考えます。文章、図表、イラストからなる情報をどのように配置するかを考えます。

3. 3 資料作成の手法

3. 3. 1 文章

 口頭説明なしでも情報が伝わる資料を目指し、文章はできるだけ図に変換して表現します。文章は「体言止め」にするなどして簡潔にし、情報として必要のない言葉は省きます。安易に箇条書きに頼らないことを心がけて、箇条書きにする際は行頭文字(●や✓など)が目立ちすぎないようにします。

3. 3. 2 文字

 フォントは一般的には「ゴシック体」を用います。文字の線幅が一定のため視認性が高いとされています。会場に準備されたパソコンを使う場合、汎用性の低いフォントを使用すると、きちんと表示されなくなる場合があるので避けたほうが無難です。フォントの指定がある場合はそれに従います。

3. 3. 3 行数・行間

 行数は文章を簡潔にするなどして可能な限り減らします。行間は「文字サイズ×1.3」で計算して求めるものが目安となります。行間がこれ以下になると狭くなりすぎて文字が詰まっているように見えます。逆に行間が文字サイズと同じくらいになると文章が一行ずつ別々に見えてしまい読みにくくなります。

3. 3. 4 図形・線

 一つ一つの図形や線の細かい部分が全体の見やすさ・わかりやすさにつながります。注意すべき点の例として以下のものがあげられます。

・使用する図形の形状はなるべく統一する。

・角丸の長方形は、パワーポイントでは角丸の大きさをそろえる機能がないため避けたほうが良い。

・楕円で囲むのは見栄えが良くない場合が多いので避ける。

・ぎこちない図形は使わない。 例)リボン 額縁 カーブ矢印 

・囲みの線が目立ちすぎないようにする。

・点線や下線を使うと文字列が見にくくなる。

3. 4 口頭発表

3. 4. 1 スライドで示す情報

 1つのスライドで1つのことを話すようにします。情報量が多いスライドを出されると聴き手は理解しにくため、情報は少しずつ示すよう心掛けましょう。複数の情報は複数のスライドに分割し、1つのまとまりとして理解してほしい情報を1つのスライドに掲載します。また、そのスライドで言いたいことの要点を見出しとして明記します。

3. 4. 2 スライド内の情報の配置

 大切なことはスライドの上部に書きます。スライド上の情報の配置は中央配置を基本とします。一連の並列な情報・対等な情報は中央に配置しつつも左揃えにします。

3. 5 ポスター発表

3. 5. 1 わかりやすいポスターとは

 見た目がすっきりしたポスターを作成しましょう。ポスターの場合、すべての情報が一挙に示されています。図表をごちゃごちゃとたくさん掲載したり、文章を長々と掲載するとわかりにくくなります。情報を最低限に減らすことを心がけ、2~3分程度で説明できる内容にします。

3. 5. 2 聴き手の読みやすさに配慮する

 聴き手の視線動きに気を付けます。情報はZ型に配置して、視線の大きな移動を極力減らすことを心がけます。また、枠で囲む、情報の領域と背景で色を変えるなどして、どこまでがひとまとまりの情報かをわかりやすくしましょう。情報の領域の数が多い場合には領域に通し番号を振って読む順番を明示します。

4 プレゼンテーションの実施

4. 1 話し方の基本

 聞き手が重要視するのは、①話し手の見た目(身体言語) ②話し手の声(声のトーン) ③話し手の発表内容(言語) の3点です。話した内容だけでなく、話し手がどのように話をしているかが影響します。話す内容に自信をもってゆっくり、力強く話しましょう。スクリーン、ポスターはなるべく見ず、聴き手に向き合い、アイコンタクトをとるようにします。

4. 2 口頭発表

4. 2. 1 発表時間を守る

 説明が質疑応答の時間に割り込むと質疑応答の時間が削られ、意見・質問を聞く機会を失ってしまいます。また、質疑応答の時間がずれ込むと、以降の進行に後れが生じます。

4. 2. 2 原稿を読み上げない

 原稿の棒読みは、①早口で聴き手が聞き取りにくい。②平坦な口調で、メリハリがなく退屈になる。③聴き手の反応を見ないため、適切な間を取らずに話す。といった発表になりがちです。その結果、聴き手と話し手との間に距離を生み、一体感を損なうことになります。原稿がなくとも発表できるよう練習を重ねるのが理想です。不安な場合は、発表内容のポイントのみをまとめた発表メモを作成することで、原稿の棒読みを防ぐことができます。

4. 2. 3 話し方の注意点

 説明は聴き手に伝わり、理解してもらわないと意味がありません。会場の一番後ろまで届く声で話しましょう。また、文と文の間、1枚のスライドの説明を終えた後などに適度に間を取りながら話します。間をとることで聴き手が説明内容を咀嚼する時間が取れます。話し方は自然な調子であるほうが良いので、過度に抑揚をつけたり、大げさになったりしないようにしましょう。

4. 2. 4 スライドの説明の仕方

 聴き手が聞き漏らす可能性があるため、スライドにない事は話さず、重要な内容はスライドに記載しておきます。また、前置きなどの説明内容と関係のない話が多くなると、聴き手が処理しなければならない情報が多くなるため、理解を妨げます。

 図表の読み取り方を説明してからデータの意味することを述べるようにします。読み取り方の説明をしないと、聴き手が理解できない可能性があります。

4. 3 ポスター発表

4. 3. 1 発表形式の確認

 ポスター発表では定められた時間に説明時間帯が設けられます。学会によって、発表の形式が異なる場合があります。時間内にポスターを見に来た聴き手に説明を行う場合や、口頭発表のように発表と質疑応答の時間があらかじめ決められている場合があるため、事前に形式を確認しておく必要があります。発表時間が決められていない場合、興味を持ってくれた聴き手に声をかけて、了承を取れたら説明を始めます。説明を聞くかどうかの決定権は聴き手にあるため、勝手に説明を始めないようにしましょう。

4. 3. 2 ポスターの説明の仕方 

 ポスターは発表に盛り込める情報量が口頭発表より少ないため、簡潔な内容で説明するよう心掛けます。説明が長くなると発表時間に説明できる回数が減ってしまううえに、聴き手がほかのポスターを見る時間が少なくなってしまいます。

 口頭発表と同様に、図表の読み取り方を説明してからデータの意味することを述べます。読み取り方の説明をしないと聴き手が理解できない可能性があります。

参考資料

宮野公樹, 研究発表のためのスライドデザイン, 講談社, 2013.

西澤幹雄, ぜったい成功する!はじめての学会発表 たしかな研究成果をわかりやすく伝えるために, 化学同人, 2017.

平林純, 論理的にプレゼンする技術<改訂版>, SBクリエイティブ, 2018.

酒井聡樹, これから学会発表する若者のために 第2版 ポスターと口頭のプレゼン技術, 共立出版, 2018.

ジョナサン・シュワビッシュ, できる研究者のプレゼン術 スライドづくり、話の組み立て、話術, 講談社, 2020.