第五分科会

タイトル

「アト秒化学:化学反応素過程の電子レベルでの理解」

  • 講師:沖野 友哉 先生 (理化学研究所 研究員)

  • 担当:上西 隆太 (京都大学 鈴木研究室 D3)

  • 担当連絡先:sec5_at_ymsa.jp

紹介文

化学反応は電子の運動により物質内の電子分布の変化が起こり、これに追随する形で核の運動が誘起され、化学結合の組み換えや切断過程が誘起されます。すなわち、あらゆる化学反応において、反応の初期過程を理解するためには、電子の運動(電子分布の変化)を実時間で観測することが必要であることを意味しております。ボーアの原子模型における水素原子の1s軌道の電子が原子核の周りを周回するのに必要とする時間は約150アト秒であり、電子の運動を観測するにはアト秒の時間分解能が必要であることを示唆しております。

今年は、2001年にアト秒パルスの発生が報告されてから20年を迎える年となります。この間、アト秒パルスの時間分解能を活かしたさまざまな応用研究が実施され、光電子放出に遅延時間が存在することや分子内電子局在を利用した分子解離制御が可能であること等が報告されております。しかしながら、真のアト秒ポンプ・プローブ(アト秒パルスをポンプ光とプローブ光の両方に用いた計測)によるアト秒ダイナミクスの計測は、光量不足からこれまで実現できておりません。

アト秒光源は時間領域でみると非常に魅力的で、世界最高性能のシャッター速度を有する超高速カメラとみなすことができます。一方、周波数領域でみると、ハイゼンベルクの不確定性原理からエネルギー的に広がった光となります。超広帯域の光が分子と相互作用した場合には、1電子励起のみならず多電子励起が誘起され複雑な励起過程が誘起されることを意味します。特に、分子サイズが大きくなると電子状態密度が高くなることから、比較的狭いエネルギー範囲に複数の電子状態が存在し、複数の電子状態が関与した物質内の電荷移動過程の観測が反応過程を理解および制御する上で重要となります。

近年、アト秒時間領域の物質内電子ダイナミクス計測に不可欠となる高繰り返しかつ高強度を兼備したアト秒パルスの発生が可能になりつつあり、アト秒光源を用いた応用研究の本格的な展開が期待されております。また、円偏光アト秒パルスの発生により、キラル分子や磁性材料におけるアト秒電子ダイナミクスの観測および制御への展開が期待されます。

本分科会では、アト秒科学の基礎を学ぶとともにアト秒科学の現状を主に応用研究に重点を置いて概観後、アト秒科学の直面している問題点について整理を行います。その後、アト秒光源を用いてどのような研究が可能であるかについて参加者の皆さんと議論を行いたいと考えております。さまざまなバックグランドを有した方の参加を期待しております。

第五分科会担当者からのコメント

担当:上西 隆太 (京都大学 鈴木研究室 D3)

第五分科会は、理化学研究所の沖野友哉先生を講師にお招きします。沖野先生はアト秒科学を専門とされ、特にアト秒パルスを用いた化学反応素過程の研究に取り組んでおられます。

本分科会では、アト秒科学について基礎から学び、アト秒パルスを用いた応用研究の展開について議論していきます。20世紀後半に発展したフェムト秒レーザー技術(フェムト = 10^−15 )は、化学反応中の原子核の運動を実時間でとらえる強力な手法として、現在の分子科学になくてはならない存在になりました。21世紀に入ってアト秒パルス(アト = 10^−18)の発生が可能となり、分子科学は電子の運動をも実時間でとらえる時代へ入ろうとしています。この過渡期を若手として過ごしている我々にとって、これからの分子科学について考える貴重な経験になると思います。

幅広い研究分野の方のご参加をお待ちしています。皆で議論を深めていきましょう!