第三分科会

タイトル

「分子集合体の電子励起状態ダイナミクスの基礎と実践:機能性有機材料を 分子科学の観点から眺める」

  • 講師:宮田 潔志 先生 (九州大学 助教)

  • 担当:吉田 龍矢 (京都大学 渡邊研究室 D2)

  • 担当連絡先:sec3_at_ymsa.jp

紹介文

近年、有機ELなどをはじめとした、有機分子を用いた機能性材料の開発・社会実装が加速している。有機電子材料を分子科学の枠組みから眺めると、電子の自由度と原子核の自由度が複雑に絡み合った、非常に魅力的かつ挑戦的な研究対象である。これら複雑系の裏に潜む物理を微視的なレベルで解明し、未知の機能や材料設計指針を開拓することは、21 世紀の分子科学・物質科学の課題の一つと言っても過言ではないだろう。

しかし、いざ分子科学の観点から凝縮系における機能性分子材料の研究を行うといったときに、何から勉強を始めてよいかわからなくなってしまう人も少なくないだろう。特に光機能を語る上で重要性の高い電子励起状態の特性となってくるとなおさらハードルを感じ、カバーすべき学問領域が広すぎるように感じて「木を見て森を見ず」の状態に陥ることも多いように感じる。

本分科会では、私から見えている「分子科学・光化学の風景」を参加者の皆さんと共有し、議論することを目的としたい。初学者には、恐らく本領域の難しさは大きく、1.分子集合体のエネルギー構造の複雑さ 2.超短パルス光を考える非線形光学の難解さ の二点であろう。特に、これら二点について地に足の着いた理解を提供できるよう工夫したい。

もっとも単純な一核一電子系である水素原子が光とどのように相互作用するか、を軌道の波動関数を具体的にイメージしながら定式化し、微視的なイメージを踏み固めるところをスタート地点とする。その後、一核一電子系である水素原子 → 二核二電子系である水素分子 → 多核多電子系である大型分子 → 分子集合体と取り扱う系を徐々にスケールアップさせながら、各系と光の相互作用がどのような枠組みで記述されるか極力具体的な理解をフォローする講義を展開する。

光励起状態は短寿命であるため、超短パルスを用いた超高速レーザー分光を用いた研究が強力に推進されている。超短パルスレーザーは通常の連続光とは異なり、非常に高強度・短時間の電場を持つため、パルス電場と物質との相互作用を記述する非線形光学の考え方を紹介する必要がある。励起状態ダイナミクスを調べる手法として広く普及しているpump-probe法はもちろん、余力があれば二次元分光法などの最先端の非線形光学を用いた論文をも読み解ける基礎知識を提供したい。

21世紀は「光の世紀」とも呼ばれており、光と物質の相互作用の理解に根差した光技術の重要性は今後ますます高まっていくだろう。しかし、社会からの需要の割には、現状ではそのような専門性を持った人材は必ずしも多くないように感じている。また、どのような進路を今後取るにしても、理路整然と整備された理論体系を自分のものにする経験を積めれば、新たな専門知識を得る必要に直面しても怖いものはないだろう。参加者全員にとって有意義な分科会にできるよう尽力する。また、Slack等のビジネス・教育のための新興プラットホームをうまく活用しながらインタラクティブに講義を展開する予定である。分科会全体で共に学ぶ姿勢を大事にしていきたい。

フォローは徹底的にしますので、「理解したい!」という熱意さえあれば、現時点での知識は問いません。お会いできるのを楽しみにしています。

第三分科会担当者からのコメント

担当:吉田 龍矢 (京都大学 渡邊研究室 D2)

第三分科会では九州大学の宮田潔志先生を講師としてお招きいたします.宮田先生は実験家として,分子集合体における電子励起状態の超高速ダイナミクスについての研究を行われてきました.分子集合体の電子励起状態の研究には長い歴史がありますが,今もなお盛んに興味が持たれている系です.その面白さ,そして難しさは原子核と電子が協奏的に運動する系の光励起状態を扱う点にエッセンスがあると思います.本講義では水素型原子から導入していただきます.分野の遠い方でも講義中に分子集合体の面白さに気づいていただけるように,僕も参加者のみなさんとインタラクティブな講義の場を作っていきたいと思います.