第二分科会

写真:銀閣寺 from 京都フリー写真素材

「水素原子に潜む数理構造:分子科学への応用を見据えて」

  • 講師:伊藤 祐斗 先生 (民間企業研究職)
  • 担当:杉田 心平 (放送大学 修士選科履修生)
  • 担当連絡先:sec2_at_ymsa.jp (※担当連絡先はお手数ですが「_at_」を@に変えて頂きますよう、よろしくお願い致します。 )

紹介文

水素原子における量子力学は、標準的なカリキュラムでは手で解ける練習問題としての位置付けにあることが多いと思われます。一方で、水素原子は数理物理分野において長らく研究されている対象でもあり、他の系における量子現象を考察する上でも重要となる概念・手法を多く生み出してきたという側面があります。

古くから知られている水素原子に備わる数理構造として、力学的対称性(dynamical symmetry)というものがあります。力学的対称性とは量子力学の場合は系のシュレディンガー方程式を不変にする対称性です。すなわち、力学的対称性に対応する群の作用の元でエネルギーは不変となります。特に水素原子の場合は、力学的対称性として系の空間的な対称性(三次元空間の回転対称性)を超えた高度な対称性(四次元空間の回転対称性)が現れることが知られています。

本講義の主題は、水素原子には力学的対称性に基礎を置いたより深遠な数理構造である①共形幾何学と②超対称性代数です。力学的対称性が同じエネルギーの状態間の関係性をよく説明する一方で、これらの数理構造は異なるエネルギーの状態間の関係性をもよく説明できます。これらを知る直接的な恩恵としては、水素原子の物性を代数的に計算できること、物性発現機構を幾何学的に捉えられること、が挙げられます。勿論、水素原子の応用にとどまらず様々なエネルギースケールを持つ量子系(実は量子系に限りませんが)において役立ちます。本講義では水素原子を舞台に上記の数理構造に関して基礎から学び、分子科学への応用動向についても学びます。さらに、皆さんと新しい応用方法について議論できればと考えています。


担当者コメント

第二分科会では、民間企業で研究員をなさっている伊藤祐斗先生をお招きして、水素原子にまつわる数理について基礎から分子科学への応用までお話ししていただきます。伊藤先生は民間企業での応用的研究の傍ら、基礎研究を独立して行い、「水素原子の人」として知る人ぞ知る存在となっています。

水素原子の数理に関して、カリキュラムによっては学部の化学科1年で最初に出会うこともあるでしょう。偏微分も初めてみる状態でシュレディンガー方程式を紹介されて当惑した人もいるかもしれませんし、理論系の人には遠い日の良い思い出として残っているかもしれません。水素原子は確かに単純な系で、初歩の段階で出会う対象ではあるのでしょう。しかし、今回はその奥深さ、秘められた構造・対称性を味わうため、化学系専攻ではなかなかしっかりと学ぶ機会の得にくい連続的な対称性を扱う数理に触れ、駆使していく方法を学びます。身近なようで知らなかった水素原子の別の側面に出会うことができ、さらにはそこから広がる広大な数理的世界を垣間見ることができるでしよう。

水素原子から広がる数理の一方で、この分科会は当夏学では珍しい民間企業の研究者の方が講師でもあり、アカデミアに残るかどうかとはまた別にアカデミックに生き続けるという道について知見が得られるでしょう。民間企業に就職しても疎遠にならない仲間をこの機にぜひ作っていただきたいと思います。

水素原子の奥深さに興味のある方、正直数学や物理学が専門で物質への応用も興味はあるけど敷居が高いと思っている方、民間企業への就職も検討していて話を聞いてみたい方、学部生だけどリー代数が好きだという方、ポスドクだけどおもしろそうという方等々、皆様ぜひご参加ください。