Research
現在進行中の研究テーマの詳細です。
随時更新します。(2025.3 更新)
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関連論文
Y. Kimura* and Y. Ju, Applied Physics Letters, Vol. 116 (2020) 024102.
Y. Kimura* and M. Saka, Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 55 (2016) 06GH01.
Y. Kimura* and M. Saka, Materials Letters, Vol. 116 (2014) 278.
メディア報道
2025.3.16 NHK Eテレ サイエンスZERO | 未来を紡ぐ!"糸"研究最前線
2024.10.14 Science et Avenir - La Recherche|Nanomatériaux...
2024.09.15 中日新聞朝刊|金属ナノワイヤ大量生成可能に…
2024.9.9 JST Science Portal|イオンビームで金属ナノワイヤを大量成長…
2024.8.20 日本経済新聞Web|名古屋大学、極細の金属繊維を簡単合成…
ウィスカとも呼ばれる1次元ナノ材料である金属ナノワイヤは、人髪の千分の一程度の直径を有した小さな材料ですが、それゆえに面白い機能を持っています。例えば非常に強度が高い(小さいものは強くなる!)という特徴を有しており、有機物カーボンナノチューブが軌道エレベータの構成材料として期待されているように、金属ナノワイヤも新しい素材として注目されています(次世代光学・バイオデバイスなど多岐にわたる)。しかし金属ナノワイヤは身の回りにありふれて存在していないのが現状です。理由は単純につくるのが難しいためです*1。1次元ナノ材料のなかでもカーボンナノチューブのような有機物ナノ構造体や半導体ナノワイヤは数多く報告されていますが、純金属ナノワイヤは高い潜在性を有するにも関わらずつくるのが難しく、産業活用のボトルネックになっています。
これを克服する新しい試みが“原子拡散”を主役にした新しい純金属ナノワイヤ創製法で、当研究室では他に先駆けた試みを行っています。目に見えないナノスケールではどのように材料をつくるべきでしょうか?理想的には原子を積み上げていけばナノ材料になりますが、ナノスケールでは小さ過ぎて人の手を加えるのが難しいです。ここに「拡散」を使います。インクを水の中に垂らすとジワッと広がるのが「拡散」です。実は固体の中でも何らかの刺激を加えると原子が拡散するので、人の立ち入れないナノスケール領域における原子の操作方法としてこれを活用しています。原子を動かす刺激の根源は「力」であり、材料力学・熱力学・材料強度学・結晶学を統合的に利用して、新しいモノづくりを行います。
原子にどのような力が加わるのか、それによって原子がどう動くのか、その結果どのようにナノ材料ができあがるのか、これらを探究するテーマになります。当研究室では、静水圧応力場や電場(電流)、温度場を利用することによって、意図的に原子を輸送し、狙った箇所に原子を集約させ、金属ナノワイヤを筍を生やすように(ボトムアップに)成長させる技術を生み出しています。まだまだわからないことが多くあり、どんな元素でも、形状・組織をナノスケールでデザインできるように鋭意進行中です。
*1|正確には、単結晶金属ナノワイヤはつくるのが難しい、ということになります。多結晶の金属ナノワイヤはテンプレート法と呼ばれる手法でつくることができます。また一方で、意図せぬSnウィスカ成長は古くから電子デバイスの故障要因として多く研究が行われてきましたが、それを防ぐ研究は多くされども、意図した場所に意図した形状で積極的に引き起こすのは至難の業です。原子がキレイに配列された単結晶Alナノワイヤのように、これから光・バイオデバイスなどへの応用が期待されている小さな材料のつくる技術(小さなモノづくり)を提供しています。
ベンチャー向けピッチ会での発表の様子。社会実装に向けた将来構想も練っています。
金属ナノ3Dプリンタ実現に向けて鋭意推進中
関連特許
特願2024-010984|金属ナノワイヤ製造方法および金属ナノワイヤデバイス
特開2022-041761|ナノワイヤ製造装置およびナノワイヤ製造方法
関連発表
2021.11.26 JST新技術説明会|電流のみで駆動するナノワイヤ製造装置(YouTube)
2023.2.28 Photonics Challenge2023(ピッチ会) ファイナリスト
家庭用3Dプリンタのように、ナノスケールで金属を自由に造形できるようになれば、表面修飾、メタマテリアル、光回路、半導体回路、ニューラルインターフェース、バイオマーカー、薬剤投与無痛針、ガスセンサ、など多岐にわたる次世代デバイスのための画期的な小さなモノづくり技術となり得ます。
昨今のカーボンニュートラルで求められるように、近年では多品種少量生産に移行する傾向にあります。加えて、これまでの機械加工では複雑すぎて難しかった加工を実現するAdditive Manufacturing(AM|いわゆる3Dプリンタ)は、大きな研究トレンドになっています。世の中ではAMの利点を活用して、AMだからこそできる形状や組織によって大きなモノ(エンジンやタービン含め)の性能向上を図る研究が多いですが、これらのAM技術ではナノスケールの金属造形は難しいのが現状です*2。当研究室では小さなモノを作り出す全く新しい金属ナノAM技術の創出を目指しています。
鍵はTopic 1で触れた原子拡散で、原子を操ることで小さなモノづくりを推進する新しいテーマです。既存手法ではナノスケールで造形するための原子吐出技術が確立できてない一方で、原子拡散によっては既にナノワイヤをつくるための原子吐出技術が達成されていることを武器に、これを使った新たなナノ造形技術の創出を目指しています。社会実装のための長期展望として、基礎的な原子拡散技術だけでなく、ナノ造形の観察技術、その最適設計技術など、ナノ造形技術をフルパッケージで提供できるような研究開発を行います。
*2|既存の金属AM技術は、家庭用樹脂3Dプリンタのように金属を混ぜ込んだフィラメント材をノズルから吐出し造形する材料押出式、金属粉末をレーザー等で焼結しながら積層造形していく粉末焼結式、電気メッキのように化学還元反応を利用した電気化学析出式の3つに大別することができます。これら手法には様々利点がある一方で、ナノスケールでの造形は達成されていないのが実情です。例えばフィラメントを熱溶融させ押出す材料押出式では、ナノの微細孔を有するノズルから熱で溶融して押出すのは表面張力が弊害となり現実的ではありません。
オープンになっている論文が少ないので写真は少ないですが、このTEM像は日本機械学会M&M・CMD若手シンポジウム2023で講演したときの一部資料(講演賞受賞)。
関連論文
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電流印加中、電子が原子に衝突して電子が原子を押し流すような作用はエレクトロマイグレーション(電流による原子拡散)と呼ばれ、電子パッケージにおける故障要因として古くから知られています。電流を流すだけで金属配線内の原子が動いてしまうのです。これによって、原子が枯渇すればボイドと呼ばれる穴が断線を招き、原子が集まればヒロックやウィスカ(ナノワイヤ)と呼ばれる塊が短絡を招きます。皆さんが持っているスマートフォンやPC内の半導体チップでは、このエレクトロマイグレーションを考慮した設計が既にされています。
しかし、この「電子」が主役となって「原子や結晶欠陥」を動かす作用は完ぺきに理解されているとは言い難いのが現状です。しかもTopic 1で触れたように原子拡散は金属ナノワイヤ創製のようなナノ材料づくりの手法として利用できますし、そもそも材料は原子や結晶欠陥で構成されるため、もしこの「電子」と「欠陥・原子」の相互作用(インタラクション)を理解して積極的に利用できれば、材料の機能をデザインするツールになる可能性があります。
当研究室では、木村がこれまで研究してきたエレクトロマイグレーションや、名古屋大学在籍時に出会った電流印加による金属組織制御技術を統合的に理解するために、電子がもたらす欠陥・原子への影響を調べることを目的に、その場TEM*3観察を実施しています。
以上の観察技術や電子による力学作用の学理は、大きな金属材料の新奇力学特性の創出だけでなく、1.のナノワイヤ研究にも役立つ基礎研究です。
最近では純金属だけでなく、Ge2Sb2Te5*4のような相変化材料もターゲットにしています。
*3|TEMは透過型電子顕微鏡の略称。原子をみるのは光学顕微鏡では不可能なので、より小さいものを見るために電子顕微鏡(電子線を使った顕微鏡。電顕ともいう)を使用します。静的な観察を行うのが普通ですが、その場TEMでは試料に何らかの刺激を加えながら観察を実施します(しかし難しい)。当研究室では電場や温度を加えながら金属組織の変化をリアルタイムで観察する技術と経験があります。
*4|GSTとも呼ばれるカルコゲナイド合金。刺激を加えると結晶⇄アモルファスを可逆的に行き来する特殊な材料で、結晶とアモルファスにおいてそれぞれ電気抵抗率が極端に異なることを利用した新たなメモリ、反射率が異なることを利用した光デバイスへの応用が期待されています。
粉末を放電プラズマ焼結により焼き固めてつくった試料。混ぜ込む粉末の組成・粒度、焼結時の条件によって組織を制御します。(名大在籍時の学生(岩屋くん)の協力の元)
関連論文
R. Iwaya, K. Shinozaki, Y. Toku, Y. Ju, and Y. Kimura*, Fracture toughness reinforcement on α-crystobalite-precipitated 3/2-mullite, International Journal of Applied Ceramic Technology, (2025) online.
微細組織*5は、材料の力学特性*6を大きく左右します。近年ではナノスケールで組織制御されたバルク金属が、トレードオフの関係にあるといわれる強度と延性の同時向上に貢献するなど、幅広い方法論に基づく組織制御研究が行われています。
マイクロ・ナノ材料づくりを進めていると、新しい発見があります。近年では、偶然できたマイクロ材料を電顕内で引張ってみると凄く良く伸びることを発見しました(未公表なので近いうちに論文化します)。組成を調べてみると金属ではない無機材料であり、複雑な微細組織を有しており、これは新しい発見でした。
この発見を紐解いて新しい技術としていくには、組織制御の素過程である転位や原子に対する挙動の理解が不可欠で、局所的・全域的に組織を自由制御できる発想が求められます。本テーマは新奇な力学特性を発現する源であるミクロスケールの組織を、ナノスケール研究のTopic 3と結びつけながら、如何にデザインするかを探究します。
陶器のようなセラミックスをターゲットに(金属も対象です)、組織をデザインする術を探ります。買ってきた材料に手を加えるのではなく、一から材料をつくっていく楽しさも学べます。バルクだけでなく薄膜も対象とし、近年では単結晶薄膜を特殊な手法でつくったりもしています。
*5|結晶粒径・方位・粒界・転位密度・相など
*6|強度や硬さなど、材料に力を加えたときの応答性。機械特性ともいう