アップコンバージョン

フォトン・アップコンバージョンとは、長波長の低エネルギー光を短波長の高エネルギー光に変換する波長変換技術です。長寿命な分子の光励起三重項を利用することで、太陽光のような弱い強度の光を高効率にアップコンバージョンすることが可能です。これは他の方法では達成が困難であり、分子ならではの光機能であると言えます。

我々はフォトン・アップコンバージョンの研究を2012年より開始し、以下の2つの方向性を打ち出してきました。これからも「フォトン・アップコンバージョンが身の回りに溢れる世界」という目標に向かって、革新的かつ実用的な材料開発に取り組んでいきます。

1.新しい機構の提案:分子拡散からエネルギーマイグレーションへ

従来のフォトン・アップコンバージョンの研究では主に溶液中における分子拡散が用いられてきましたが、揮発性の有機溶媒が必要、厳密な脱酸素処理が必要、固相では拡散が制限される、といった課題がありました。そこで我々は分子拡散からエネルギー拡散への発想の転換を提案し、不揮発性液体、イオン液体、ゲル、超分子集合、ガラス、結晶という多様な集積系においてそのコンセプトを実証してきました。

【これまでの研究例】

エポキシ樹脂:ACS Appl. Mater. Interfaces 2022, in press.

ゼラチンゲル:J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 10848-10855.

結晶性薄膜:J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 8788-8796.

水中超分子:Chem. Sci, 2016, 7, 5224-5229.

イオン性液体:Angew. Chem. Int. Ed., 2015, 54, 11550-11554.

超分子ゲル:J. Am. Chem. Soc., 2015, 137, 1887-1894.

不揮発性液体:J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 19056-19059.

2.新分子で困難を可能に:近赤外可視、可視紫外変換

近赤外→可視アップコンバージョンは太陽電池や光触媒などの再生可能エネルギー創出や、オプトジェネティクスや光線力学療法といった光生物学への応用において強く求められています。また、可視→紫外アップコンバージョンは人工光合成や環境浄化、抗菌・抗ウイルスへの応用が期待されています。

我々はS-T吸収を用いるという独自のアイデアにより、分子のみで高効率に近赤外光を可視光にアップコンバージョンすることに世界で初めて成功しました。分子系アップコンバージョンを用いた初めてのオプトジェネティクスも報告しました。

最近では可視→紫外アップコンバージョン色素の開発にも注力しており、太陽光や室内照明でも機能する新分子の開発鵜に成功してきました。

【これまでの研究例】

S-T吸収を利用した近赤外→可視変換:J. Am. Chem. Soc., 2016, 138, 8702-8705.

近赤外→青アップコンバージョンJ. Mater. Chem. C. 2017, 5, 5063-5067.

近赤外→紫アップコンバージョンChem. Commun. 2020, 56, 7017-7020.

オプトジェネティクスへの応用:Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 17827-17833.

可視→紫外アップコンバージョンAngew. Chem. Int. Ed. 2020, 60, 142-147.

重金属フリー可視→紫外UC:J. Mater. Chem. C 2022, 10, 4558.

アップコンバージョンに関する講演動画: