1T-MoTe₂は、電子が相対論的な「Weyl粒子」に似た振る舞いを示すWeyl半金属の候補物質です。常圧では超伝導転移温度 Tc が約0.1 Kと低いものの、約2 GPaの圧力を加えると4 K近くまで上昇します。本研究では、この上昇の原因を核磁気共鳴(NMR)、核四重極共鳴(NQR)、交流磁化率によって調べました。
NMRでは、原子核を局所的なセンサーとして、周囲の電子状態を調べます。特に、核スピン格子緩和率を温度で割った 1/T1T は、フェルミ準位付近の電子状態密度、すなわち電子が利用できる量子状態の多さを反映します。
測定の結果、約0.7 GPaまでは、圧力とともに 1/T1T が増加しました。これは状態密度が増えたことを示しています。この圧力範囲では状態密度と Tc がほぼ同じように増加するため、格子振動を介して電子対が形成される通常のBCS理論で説明できます。
ところが、0.7 GPaを超えると状態密度はやや減少する一方、Tc はさらに上昇しました。したがって、高圧側では状態密度の増加だけでは超伝導の強化を説明できません。この結果は、スピン揺らぎなどの磁気的相互作用が、電子対の形成に追加的に寄与している可能性を示唆します。
また、2.17 GPaでは、超伝導状態に入る際に、単純な従来型超伝導で期待される明瞭なコヒーレンスピークが観測されませんでした。さらに 1/T1T は二段階で減少しました。この結果は、異なる電子バンドに異なる大きさの超伝導ギャップが開く、多ギャップ超伝導を示唆します。ただし、測定範囲が限られているため、非従来型超伝導やトポロジカル超伝導が実現しているとまでは断定できません。
本研究の意義は、圧力による Tc の上昇を、NMRで観測した微視的な電子状態と比較した点にあります。その結果、低圧では状態密度の増加が超伝導を強める一方、高圧では別の電子間相互作用が重要になる可能性が示されました。1T-MoTe₂は、結晶構造、電子のトポロジー、超伝導機構の関係を調べるうえで重要な物質といえます。
Takuto Fujii, Hiroshi Yasuoka, Mukkattu Omanakuttan Ajeesh, Marcus Schmidt, Takeshi Mito, Yu Liu, Cedomir Petrovic, and Michael Baenitz
NMR/NQR and AC-susceptibility Studies in the Weyl Semimetal Superconductor 1T-MoTe2 under Pressure