国は救急医療を医の原点とし、すべての国民が生命保持の最終的な拠り所としている根源的医療と位置付けています(救急医療体制基本問題検討会報告 平成9年12月11日より)。救急医療は社会を支え、地域を救う重要なインフラの一つと言えます。救急科は、医療の中でも特に緊急性が求められる分野であり、患者の命を救うためには迅速な判断と行動が不可欠です。一般的な診療科では、専門分野に基づく詳細な検査や診断を経て治療方針が決定されますが、救急科では常に時間との戦いが求められます。
迅速な判断: 生命の危機にある患者に対して、限られた情報と状況の中で最善の判断を下す必要があります。
即時治療: 判断の後、直ちに治療を開始することが求められます。
そのため、救急医は幅広い知識と技術を持ち、内科系・外科系を問わず多様な緊急事態に対応できる能力が必要です。救急科の使命は、患者の生命を第一に考え、迅速かつ的確な対応で救命を目指すことにあります。
富山大学附属病院災害・救命センターは外来(ER)と病棟(ECU)の2つの部門から構成されています。ERでは救急搬送、あるいは自分で来院された方の初期診療を行います。重症度・緊急度を判定(トリアージ)し、症候から初期診断と治療を行います。当院は大学病院の強みを活かし、救急科専門医および各科救急兼任医に加え、循環器・小児・周産期などの専門医と連携し診療にあたっています。また昨今の高齢化と働き方改革の最中にあって、地域の持続可能な救急医療体制構築が重要な課題となっています。当院は高度専門医療と二次輪番医療機関のサポートを両立させるべく、軽症から重症まで幅広く受け入れに努めています。
ECU(Emergency Care Unit)では主に救急患者や院内急変患者の集中治療を行います。救急科が中心となりSemiclosed形式で運営しており、人工呼吸、補助循環(ECMO)、血液浄化といった全身管理を行っています。特に重症外傷・広範囲熱傷・中毒・敗血症・環境障害・その他原因が明確でない重症疾患については、一部救急科が主治科として退院まで一貫して入院管理を行っています。一方、重症でなくとも社会的問題や複合問題を抱える患者が増えています。これらに対しても主に感染症科・総合診療科と連携しつつ、転院調整を前提とした急性期入院管理を担当しています。
重症患者を救命するためには、必要な治療を迅速かつ的確に行える事が重要です。当講座には、救急医としての知識経験のみならず様々なサブスペシャリティーを持ったスタッフが所属しています。外科、麻酔科、整形外科、総合内科などの認定資格を有し、時に外傷・熱傷手術や緊急麻酔などを担当しています。まだまだ人員は不足しており、各専門診療科との連携が欠かせませんが、シームレスな治療を行える事は当講座の強みの一つです。他にも中毒や高気圧酸素治療など、最新の知見を下に専門性の高い治療を行なっています。
当院は基幹災害拠点病院に指定されています。私たち救急医は、日々の診療に加え、災害発生時には最前線で活動します。災害急性期には、トリアージを迅速に行い、限られた医療資源のなかで一人でも多くの命を救うことを目指します。また、被災地での医療支援活動も積極的に行い、地域の皆さんの安全と健康を守るための体制を整えています。令和6年の能登半島地震においては、DMATとして被災地で活動するとともに、被災地からの患者受け入れにあたりました。災害はいつ発生するかわかりません。地域の基幹病院として、安心につながる災害医療の提供に尽力します。
当講座では、救急科専攻医や研修医はもちろん、次世代を担う医学生の教育に力を入れています。臨床実習では、臨床推論やABCDEアプローチなどの思考プロセスや蘇生に関する実践的な手技、さらには他職種の理解を深めるといった、医の原点として全ての医師に求められる内容を指導します。さらに、地域医療の要である救命士の教育にも積極的に取り組んでいます。病院内外での講習会や勉強会を通して、救急現場での判断力や処置能力の向上をサポートしています。私たちは、“知識・情愛・意思”を兼ね備えた、社会のニーズに柔軟に対応できる医療人を育成することで、地域医療の未来に貢献します。
当講座では、目の前の患者さんの命を救うだけでなく、救急医療が抱える様々な課題の解決にも積極的に取り組んでいます。日々蓄積される臨床データを基に、新たな治療法の開発や、地域社会における救急体制の改善など、多岐にわたる研究を推進しています。また、未来の救急医を育てるため、大学院生や研究に意欲のある医学生の指導にも力を入れています。論文作成の指導から研究計画の立案、学会発表まで、個々の成長に合わせたきめ細やかなサポートを行い、次世代のリーダーを育成しています。