Lissoclinum midui の話

Lissoclinum midui Hirose et Hirose, 2011

↑  緑島(台湾)で採集されたLissoclinum midui 群体の液浸標本

 

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Lissoclinum midui は2011年に久米島より新種記載されたホヤです [1]。緑色の不定形なシートの中にホヤの個体(個虫)がいくつか含まれているので、本種は群体性のホヤになります。種小名の'midui'は「緑」のことを沖縄の言葉では「みどぅい」と呼ぶことにちなんでいます。

  群体が緑色をしているのは被嚢(ホヤの体を包むセルロース性の皮)の中にProchloronと呼ばれる藍藻が共生しているからです。この藍藻の一部は被嚢中の細胞に取り込まれ、ホヤ群体内で保育される胚の被嚢中に運ばれて定着することがわかっています[2]。つまり、この藍藻はホヤの親群体から子へと伝えられている(垂直伝播)ことになります。

 群体はサンゴ礁礁縁の深さ1m程度の岩陰に広がる無節サンゴ藻の上に見られます。本種は久米島のシンリ浜礁縁で発見され、ここが模式産地となっています。不思議なことに、その後も沖縄の他の場所では本種の分布が確認されていません。なぜ他の場所いないのかは謎ですが、波当たりの強い礁縁の浅い場所では採集調査が難しいことがその理由かもしれません。

シンリ浜(久米島)

シンリ浜の礁縁

 その後、台湾の太平洋側に位置する緑島 (Lyudao)の公館 (Gongguan) で L. miduiの群体が確認されました。これは本種が久米島以外で発見された初めての報告です [3]。この場所も波当たりの強いサンゴ礁で、ホヤ群体はサンゴ性の石灰岩に広がる無節サンゴ藻の上に付着しています。さらに台湾東岸の調査で、台湾南東部の港仔鼻(Gongzibi)と佳楽水(Jialeshuei)でも分布が確認されており [4]、L. midui は微小環境が適していれば広く分布している可能性があるようです。

港仔鼻の海岸

Lissoclinum midui 群体の生態写真(港仔鼻、台湾

文献

[1] Hirose E, Hirose M (2011) A new didemnid ascidian Lissoclinum midui sp. nov. from Kumejima Island (Okinawa, Japan), with remarks on the absence of a common cloacal system and the presence of an unknown organ. Zool Sci 28:462–468. doi: 10.2108/zsj.28.462

[2] Hirose E, Nozawa Y (2020) Convergent evolution of the vertical transmission mode of the cyanobacterial obligate symbiont Prochloron distributed in the tunic of colonial ascidians. J Zool Syst Evol Res 1–9. doi: 10.1111/jzs.12370

[3] Hirose E, Nozawa Y, Hirose M (2014) First record of a photosymbiotic ascidian Lissoclinum midui (Ascidiacea: Didemnidae) from Lyudao (Green Island), Taiwan. Mar Biodivers Rec 7:e42. doi: 10.1017/s175526721400013x

 [4] Hirose E, Nozawa Y (2020) Latitudinal difference in the species richness of photosymbiotic ascidians along the east coast of Taiwan. Zool Stud 59:1–11. doi: 10.6620/ZS.2020.59-19