「翻訳と反応場」の解明を目指し、4つの研究チームが自身のもつ技術を駆使して有機的に連携します。
蛋白質は、mRNAから翻訳されたのち、フォールディング・複合体形成・輸送・局在化といった過程を経て、しかるべき場所で機能を発揮します。蛋白質の機能発現までの各過程は、その重要性ゆえに、これまで長らく研究されてきました。
ですが、その多くは、いわゆるin vitroの生化学的な手法によるもので、試験管内で解析が行われています。こうした古き良き手法は、それぞれの過程を担う因子やそのメカニズムを明らかにする上では無類の強さを誇るものの、蛋白質が細胞内において「一体どこで生まれて、どこで機能するのか」という空間情報を得ることはできません。蛋白質を抗体染色などで可視化する細胞生物学的なアプローチも世界中で行われていますが、こうした方法で分かるのはあくまで蛋白質がいる場所であり、そこで生まれたのか、そこで機能しているのかは分かりません。かつ、見えるのは検出感度を超えた部分だけです。
そこで私たちは、こうした問題点をクリアするべく、蛋白質がmRNAから翻訳される様子、そしてそれがRNA結合蛋白質によって制御される様子を、細胞内において1分子感度でイメージングできる手法を確立しました。本研究では、この細胞内1分子イメージング技術を主軸に、これまで一般的でないとされてきた、反応場で限局的に翻訳が起こる「局所翻訳」にフォーカスします。最も古くから知られる局所翻訳の一つ「細胞伸長部位におけるアクチンの局所翻訳」をモデルに、局所翻訳の正しい実証法の確立と、局所翻訳の意義の解明を目指します。
蛋白質は合成された後、複合体形成と局在化を経て機能を発揮します。一般にこれらの過程は順々に行われると考えられてきましたが、最近の研究では、細胞の特定の場所で翻訳されるとともに複合体が形成されるという、3過程が協奏した「反応場」を形成している様子がみえつつあります。私達はこれまでに、局所翻訳を網羅的に解析するAPEX-Ribo-Seqという手法を新たに開発し、それを通じてリソソームというオルガネラの膜上で局所翻訳と複合体形成が協奏するという現象が見えつつあります。本研究ではこの分子機構と生物学的意義を追究していきます。
ストレスにさらされた細胞は翻訳開始因子eIF2のリン酸化を介して統合的ストレス応答(ISR)経路を活性化し、翻訳プロファイルを変化させることでストレスへの対処と適応を行うことが知られています。一方で、このeIF2のリン酸化がどこでどのように生じ、翻訳の変化を引き起こしているのかについて十分な理解は得られていません。本研究では、ミトコンドリアストレス時のISR活性化経路であるDELE1-HRI経路に着目し、ミトコンドリア上でのストレス検知から周辺域での翻訳再編成に至るまでの一連の時空間的経過について、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析とトモグラフィー解析を中心的手法として解明を試みます。
リボソームの構成因子であるリボソームRNA(rRNA)とリボソーム蛋白質は、それぞれ核小体と細胞質という異なる細胞内区画で合成されますが、その後、核内でリボソームとして組み立てられます。この過程において、細胞質で翻訳された新生リボソーム蛋白質は、翻訳後に核へと輸送される必要があります。しかし、単体では非常に不安定なこれらの蛋白質が、どのような仕組みで安定性を保ちながら核内へと輸送されるのかについては、未だ十分に解明されていません。
また、一部の新生リボソーム蛋白質は「孤児蛋白質」として認識され、分解されることが知られていますが、それらが“いつ”、“どこで”、そして“なぜ”孤児蛋白質として識別されるのか、その法則性も明らかになっていません。
本研究では、新生リボソーム蛋白質の翻訳から核内輸送、さらに新生リボソームへの組み込みに至るまでの時空間的制御機構を明らかにすることを目指します。加えて、分解経路に進む新生リボソーム蛋白質の特徴に着目し、「なぜ分解経路へ進むのか?」という問いに迫ります。そのために、本領域で開発・導入される最先端技術を駆使した解析を推進していきます。