2022年度セミナー
日時:月曜日,16:45~18:15
場所: 慶應義塾大学日吉キャンパス第4校舎独立館D310教室(対面形式の場合)
※ 日時・場所・講演形式(対面またはオンライン)は変更される場合がありますので,念のため各セミナーの項目をご確認ください.
※ 講演募集とメーリングリストの「新規登録/登録アドレス変更/登録アドレス抹消」等は随時行っていますので,何かございましたら幹事にご連絡ください.
【幹事】
厚地淳 (慶應義塾大学理工学部数理科学科)
河備浩司 (慶應義塾大学経済学部数学教室)
久保田直樹(日本大学理工学部一般教育教室数学系列)
鈴木由紀(慶應義塾大学医学部数学教室)
種村秀紀(慶應義塾大学理工学部数理科学科)
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セミナー記録
※ セミナーの記録はこちら(服部哲弥氏のウェブサイト)でも確認できます.
2023年3月20日(月)
14:30〜16:00
講師: 白井朋之 氏(九州大学マス・フォア・インダストリ研究所)
題目 : α行列式点過程のポアソン表現
概要:行列式点過程はランダム行列(GUE)の固有値およびその極限を記述できる点過程のクラスで,離散空間上では一様全域木なども記述できる.最近では機械学習など応用分野でも注目を集めており,多くの人に知られるようになっている.一方,α行列式点過程は行列式点過程の相関関数に着目して1-パラメータ拡張したものであるが,正値性の問題もあり,行列式点過程に比べると議論は少ない.本講演では,特別なクラスのα行列式点過程のポアソン表現を中心に関連の話題に触れる予定である.
16:30〜18:00
講師:今野紀雄 氏(横浜国立大学大学院工学研究院)
題目 : ゼータ対応の数理
概要:ここ数年にわたる我々の一連のゼータ対応シリーズは,無限グラフに関する先行結果を,離散時間のグローヴァー型量子ウォークに対する今野・佐藤の定理 (2012) をトーラスに適用することにより同じ表式が導出可能であることに気づくことから誕生した.
それ以降,ある種の「新しいタイプのゼータ関数」を適宜導入することにより,グローヴァー型だけでなく,全ての量子ウォークでも適用可能であり,また,ランダムウォーク,相関付ランダムウォーク,開量子ランダムウォーク,さらに,量子ウォークの正台のような通常の意味でウォークといえないモデルまで扱えることが明らかになった.
一方,上述の一粒子系だけでなく,多粒子系(確率セルオートマトンや量子セルオートマトンなど),また対応する連続時間モデルまで拡張可能であることも分かった.ごく最近では,数論,トロピカル幾何,可積分系とも密接な関連があるマーラー測度やロンキン関数との関係も見いだされている.
本講演では,量子ウォークを一つの軸とし,ゼータ対応に関連する幾つかの話題を紹介したい.
参考文献:今野紀雄, 『量子ウォークからゼータ対応へ — ゼータ関数を通して眺める数理モデル』, 日本評論社(2022)2023年1月23日(月)
講師:正宗淳 氏(東北大学大学院理学研究科)
題目:非完備リーマン多様体のラプラシアンの自己共役拡張について
概要:リーマン多様体には、ラプラシアンの本質的自己共役性と密接に関係する二つの相異なる自然な(2-2 型の)容量が定義される.本講演では,それらの間の関係および truncation property に関する,Micheal Hinz 氏,鈴木 康平氏との共同研究で得られた成果を報告する.2023年1月16日(月)
講師:江崎翔太 氏(福岡大学理学部)
題目:SDE representation of overlaps associated with non-Hermitian matrix-valued Brownian motion
概要:本講演では,非エルミート行列値ブラウン運動の固有値・固有ベクトルから与えられる確率過程について述べる.非エルミート行列値ブラウン運動とは,$N \times N$行列で, 各成分が独立な複素ブラウン運動で与えられるものをいう.この行列値確率過程は,Ginibre ensembleというランダム行列モデルの時間発展に対応する.行列値ブラウン運動において,例えばエルミート対称性を仮定するエルミート行列値ブラウン運動に対する固有値過程等は従来よく研究され,その固有値過程は$\beta=2$のダイソンブラウン運動のSDEの解として表されることが知られている.
一方,本研究で述べる非エルミート行列値ブラウン運動の固有値過程は固有値だけで閉じたSDEの解として表すことは困難であり,固有値過程と固有ベクトル過程を合わせた形でSDEを与えることとなる.ところが,一般に行列から固有ベクトルは一意的に定めることができないため, 固有ベクトルの時間発展を伊藤の公式を用いて表現するには固有ベクトルの定め方に注意が必要である.
本講演では, 行列のオーバーラップと呼ばれる量の時間発展を考え,時間発展のSDE表現を与える. オーバーラップは行列の非正規性を表す量であり,かつ,固有値過程の二次変分に現れるため,固有値・固有ベクトル過程を解析する上で重要である.我々の与えた表現公式から,オーバーラップの時間発展は,ある意味で固有ベクトルの定め方に依存しないことが見て取れる.
本研究は藪奥哲史氏(北九州高専)との共同研究である.2022年12月26日(月)
講師:坂井哲 氏(北海道大学大学院理学研究院)
題目:量子摂動に対するIsing模型の臨界現象の安定性
概要:古典Ising模型は,磁石の統計力学モデルとして不動の地位を確立している.本講演では,量子Ising模型 (別名「横磁場Ising模型」) を考察し,量子摂動が十分小さいとき,古典の場合と同様に,高次元 d>4臨界現象が平均場的なものに退化することを解説する.
尚,本講演は,上島 芳倫 氏 (台湾NCTS) との共同研究に基づく.2022年12月12日(月)
講師:鈴木由紀 氏(慶應義塾大学医学部)
題目:A diffusion process in a non-selfsimilar random environment
概要:本講演では, ある自己相似性をもたない1次元ランダム媒質中の拡散過程について考察する.考えるランダム媒質は数直線の正側と負側で種類が異なる.ここで扱う確率過程のクラスには再帰的な過程と推移的な過程の両方の過程が含まれている.講演では,この過程の長時間後の漸近挙動に関する結果を報告する.2022年12月5日(月)
講師:Xue-Mei Li 氏(EPFL)
題目:Progress in multi-scale dynamics
概要:In this talk, I shall explain recent progress on multi-scale stochastic systems, focusing on correlated fractional Brownian motion noise and aspects of the results and technics applying also to classical stochastic differential equations. In particular we bridge the gap between averaging principle and diffusion creation, and time permit to discuss also fractional dynamics.2022年11月28日(月)
講師:北川潤 氏(Michigan State University)
題目:Sliced Wasserstein距離の幾何構造に関して
概要:Sliced Wasserstein 距離とは主にWasserstein 距離より計算が簡単とのことで代用とされている確率測度空間上の距離である。本講演ではこのsliced Wasserstein 距離を含む距離のtwo parameter familyの紹介をする。本来のWasserstein 距離との違いに焦点を置き, 注意喚起の意味も込めて基本的な構造の解説をする。
本講演は 高津 飛鳥 氏 (東京都立大学) との共同研究に基づく。2022年11月21日(月)
講師:林晃平 氏(東京大学大学院数理科学研究科)
題目:Derivation of coupled KPZ equations from interacting diffusion processes driven by a nonlinear potential
概要:We consider multi-species interacting diffusion processes, whose dynamics is driven by a nonlinear potential, and study asymptotic behavior of fluctuation fields associated with the processes in the high temperature regime under equilibrium. As a main result, we will show that the family of the fluctuation fields converges to a system of coupled KPZ equations provided one can take a common value of macroscopic velocity of the system for each species. Our approach is based on a Taylor expansion argument which extracts the harmonic potential as a main part. This argument works without assuming a specific form of the potential and thereby the coupled KPZ equations are derived in a robust way. Moreover, when values of velocity vary componentwise, we will give a strategy to find proper fields to obtain a nontrivial limit.2022年11月14日(月)
講師:市原直幸 氏(青山学院大学理工学部)
題目:内向きドリフト項を持つ確率的変分問題の最適軌道とHJB方程式の一般化主固有値について概要:内向きドリフト項と無限遠方で0に減衰する正のポテンシャル項を持つ確率的変分問題について考察する.特に,ポテンシャル項に含まれる実数パラメータを変化させるとき,最適軌道の長時間挙動がどのように変化するのかに興味がある.本講演では,確率的変分問題に付随するエルゴード型HJB方程式の一般化主固有値を調べることにより最適軌道の再帰性/過渡性が判定できることを示す.
本講演内容の一部は E. Chasseigne氏(University of Tours)との共同研究に基づく.2022年11月7日(月)
講師:楠岡誠一郎 氏(京都大学大学院理学研究科)
題目:特異確率偏微分方程式と従来の確率解析の違いについて
概要:Regularity Structure や Paracontrolled Calculus といった理論が現れたことにより, 繰り込みを必要とするような特異なノイズを入れた非線形確率偏微分方程式が盛んに研究されている。これらの理論で扱っている手法は従来の確率微分方程式や確率偏微分方程式の手法とは異なっているため, 従来の手法と同様の議論ができるのかどうか不明確な部分がある。特に, 方程式の極限操作, 経路依存型係数, 方程式の変形は, 確率微分方程式の理論においては気を付けて議論しなくてはいけない部分である。この講演ではこれらの違いに着目し, 確率微分方程式の枠組みにおいて具体例を作ることにより, 特異確率偏微分方程式を扱う際の注意すべき点を挙げる。2022年10月31日(月)
講師:中山季之 氏(三菱UFJ銀行)
題目:確率偏微分方程式の解と閉集合の距離
概要:本講演の目的は,状態空間のある部分集合の付近に初期値をもつ確率偏微分方程式の解が,当該部分集合の付近に留まるための条件を明確にすることである.確定的な偏微分方程式に対しても新しい結果である.具体例として,部分集合が有限次元の境界付部分多様体の場合や数理ファイナンスにおける金利モデルへの応用例も述べる.
本講演はStefan Tappe氏との共著論文``Distance between closed sets and the solutions to stochastic partial differential equations”, https://arxiv.org/abs/2205.00279に基づく.2022年10月24日(月)
講師:桑江一洋 氏(福岡大学理学部)
題目:非正パラメータmに対する非負Bakry-Émery リッチ曲率でのV-調和写像のLiouville 型定理
概要:この講演は,李向東 氏 (中国科学院), 李宋子 氏 (中国人民大学),櫻井陽平 氏 (埼玉大学)との共同研究に基づく.完備リーマン多様体間のC^2-写像でC^1-ベクトル場Vで摂動したテンション場で消えるものをV-調和写像と呼ぶ.非負パラメータmで記述される非負Bakry-Émeryリッチ曲率の条件下と種々のラプラシアン比較定理とそれに応じたV-調和写像の増大度の条件下で,アダマール多様体値V-調和写像が定数に限ることを報告する.証明は確率論的に紹介するが, 純粋な幾何解析な証明も可能である.また合わせて正則測地球値V-調和写像に対するLiouville 型定理についても述べる.2022年10月3日(月)
講師:河備浩司 氏(慶應義塾大学経済学部)
題目:A graph discretized approximation of diffusions with drift and killing on a complete Riemannian manifold
概要:(コンパクトとは限らない)完備なRiemann多様体をグラフで離散化し,このグラフ上のkillingを持つ非対称な離散時間ランダムウォークを考える。本講演では, ある幾何学的条件の下で, このランダムウォークの生成半群が元の多様体上のドリフト付きSchrödinger半群に適切なスケール極限として得られることを述べる。また多様体がコンパクトな場合は, 収束レートも得られたので, 時間があれば述べたい。
本講演は石渡 聡 氏 (山形大学)との共同研究に基づく。2022年7月25日(月)@Zoom
講師:阿部圭宏 氏(千葉大学大学院理学研究院)
題目:条件付き2次元ランダムウォークと2次元random interlacementsのカップリング
概要:2次元離散トーラス上の単純ランダムウォーク(SRW)を被覆時間(トーラスのすべての点を訪問し尽くすまでの時間)の定数倍時刻まで走らせたとき,SRWがまだ訪問していない点(late point)はクラスターを形成するなど複雑な構造をもつことが知られている(Dembo-Peres-Rosen-Zeitouni ('06), 岡田('19)).このlate pointまわりの様子を調べる1つの方法として,Comets-Popov-Vachkovskaia('16)氏らは2次元random interlacementsと呼ばれる確率モデルを導入した.このモデルは,2次元格子上の原点に到達しないように条件づけられた多数のSRWの軌跡を用いて構成される.Comets氏らは実際,原点がlate pointであるという条件付けのもとでの原点まわりのlate pointの集合の法則が2次元random interlacementsの原点まわりでのvacant setの法則に近いことを示した.本講演では,Popov-Teixeira('15)氏らが開発したsoft local timeの方法により両者のカップリングを構成できることを報告する.時間が許せばそのカップリングを応用してlate pointの個数に関してある評価が得られることも報告したい.2022年7月18日(月)@Zoom
講師:中島秀太 氏(明治大学理工学部)
題目:TAP approach to mean-field models for spin glasses
概要:Thouless-Anderson-Palmer (TAP)法は、平均場スピングラス模型の理論研究に関する最も古い論文の一つで提案された手法である。TAP法は、統計物理学や大偏差理論でよく見られるような、エネルギーとエントロピーのトレードオフを最適化する変分原理として解釈できる利点があり、ギブス測度とそのPure stateをより直接的に特徴付けることができる可能性を持っている。本講演では、TAP法について、Sherrington-Kirkpatricモデルを例に概説した後、最近のPerceptronモデルに対する応用を紹介する。この講演はBolthausen氏(Zurich University), Sun氏 (MIT), Xu氏 (Harvard University)との共同研究に基づく。2022年7月11日(月)@Zoom
講師:一場 知之 氏(University of California,Santa Barbara)
題目:Stochastic Differential Games on Random Directed Trees
概要:We consider stochastic differential games on a random directed tree with mean-field interactions, where the network of countably many players is formulated randomly in the beginning and each player in the network attempts to minimize the expected cost over a finite time horizon. Here, the cost function is determined by the random directed tree. Under the setup of the linear quadratic stochastic game with directed chain graph, we solve explicitly for an open-loop Nash equilibrium for the system, and we find that the dynamics under the equilibrium is an infinite-dimensional Gaussian process associated with a Catalan Markov chain. We extend it to the random directed tree structures and discuss convergence results. Related stochastic processes on infinite directed graphs and the corresponding directed chain stochastic differential equations are also discussed.2022年7月4日(月)@Zoom
講師:久保田直樹 氏(日本大学理工学部)
題目:ランダムポテンシャル中のシンプルランダムウォークにおけるリアプノフ指数の狭義単調性
概要:正方格子上にランダムなポテンシャルを配置し,それらに影響を受けながら運動するランダムウォークを考える.このモデルにおいて,「リアプノフ指数」と呼ばれる量がある.このリアプノフ指数は「原点から出発するランダムウォークが十分遠い点に到達するためのコスト」を表していて,それはランダムウォークの挙動に深く関連している(実際,本モデルの大偏差原理のレート関数はリアプノフ指数を用いて記述されることが知られている).したがって,リアプノフ指数の性質は興味深い話題であると思われるが,自明なものを除き未解明な部分が多い.特に,ポテンシャルの分布の変化がリアプノフ指数に与える影響についてはほとんど何もわかっていない.本講演ではこの問題に焦点を当て,「ポテンシャルの分布が真に変化したときのリアプノフ指数の変化」について得られた結果を紹介する.2022年6月27日(月)@Zoom
講師:石渡聡 氏(山形大学大学院理工学研究科)
題目:連結和上の熱核・ポアンカレ定数
概要:非コンパクトリーマン多様体の連結和は、ポアンカレ不等式が成り立たない空間の典型例として古くから知られていた。本講演では, Kusuoka-Stroock による熱核のガウス型評価からポアンカレ不等式の導出の手法を用いて、連結和上の熱核評価からポアンカレ不等式の係数の部分であるポアンカレ定数の最良の評価が得られることを解説する。
本講演は Bielefeld大学の Grigor'yan氏,Cornell 大学のSaloff-Coste氏との共同研究に基づく。2022年6月20日(月)@Zoom
講師:笹本智弘 氏(東京工業大学理学院)
題目:1次元対称単純排他過程の大偏差と古典可積分系
概要:1次元対称単純排他過程に対する大偏差原理は, 1989年にKipnis, Olla, Varadhanによって確立された[1]。2000年頃にJona-Lasinioらによって幾分違った定式化(Macroscopic fluctuation theory(MFT))が与えられ, この枠組みではレート関数は結合非線形偏微分方程式の解を用いて書き表される[2]が, 定常な場合を除きその解は得られていなかった。
我々は最近, Cole-Hopf変換を一般化した非局所非線形変換を用いればこの結合方程式系がAblowitz-Kaup-Newell-Segur(AKNS)系と呼ばれる古典可積分系にマップされ, 逆散乱法のアイディアを用いることで解くことが可能となることを見出した[3]。
本講演ではこの内容について紹介する。[3]はいわゆるexactな計算に基づくものであるが, 証明を与えるための指針についても言及する予定である。本講演はKirone Mallick氏, 守屋宏紀氏との共同研究に基づく。
[1] C. Kipnis, S. Olla, S. R. S. Varadhan, Hydrodynamics and largedeviations for simple exclusion processes, Comm. Pure Appl. Math.,42:115-137, 1989.
[2] L. Bertini, A. De Sole, D. Gabrielli, G. Jona-Lasinio, and C. Landim, Macroscopic fluctuation theory, Rev. Mod. Phys., 87:593-636, 2015.
[3] K. Mallick, H. Moriya, T. Sasamoto, Exact solution of the macroscopic fluctuation theory for the symmetric exclusion process, arXiv: 2202.05213.2022年6月13日(月)@Zoom
講師:長田博文 氏(中部大学大学院工学研究科)
題目:無限粒子系に対する大局Nash理論:Ginibre 干渉ブラウン運動の劣拡散性とCoulomb干渉ブラウン運動の相転移予想
概要:一つの粒子に対して無限粒子系を考える対応を、1粒子-無限粒子系対応と呼ぶことにする。この対応は、不変確率測度を持つ確率過程に対しては、無限個の独立なコピーを考える、という自明な操作を例にもつ。しかし興味深いのは、無限粒子系へリフトしたときに、粒子の相互作用を付加した場合である。特にCoulomb potentialによる相互作用やGaussian解析関数の零点のような「遠距離かつ強相互作用」は、新奇で鮮やかな現象を生み出す。1粒子-無限粒子系対応は、確率過程の対応にとどまらず、1粒子の空間(つまり通常我々が考えている空間)の問題や理論が、如何に無限粒子系の世界に移行できるか、という対応とも解釈できる。1粒子-無限粒子系対応において、「ユークリッド空間の拡散過程の均質化」という問題は、「無限粒子系のtagged粒子の拡散極限」という問題に移行する。均質化に関して、重要な道具の一つは、L^2 Sobolev不等式、もしくは、Nashの不等式という空間の幾何的情報が、対応する拡散過程の大局的挙動をコントロールするというNashの理論であった。この講演では、大局的Nash理論の無限粒子系における対応物が何になるかを話す。その応用として、Ginibre干渉ブラウン運動のtagged粒子の劣拡散性、更に、平面GAF(planer Gaussian analytic function)の零点からなる干渉ブラウン運動のtagged粒子の劣拡散性を示す。また、Coulomb干渉ブラウン運動の有効拡散行列の逆温度に関する相転移予想への応用について述べる。2022年6月6日(月)@Zoom
16:45~17:30
講師: 河本 野恵 氏 (北海道大学大学院理学院数学専攻)
題目:Spread-out limit of the critical points for lattice trees and lattice animals in dimensions $d>8$
概要:A spread-out lattice animal(LA) is a finite connected set of edges in $\{\{x,y\} \subset \mathbb{Z}^d : 0<||x-y||\le L \}$. A lattice tree(LT) is a LA with no loops. Both models are the statistical-mechanical models for branched polymers. Let $\chi_p$ be the susceptibility which is a sum of the generating function of LT or LA containing the origin and $x$, with fugacity $p/|\Lambda|$, where $|\Lambda|$ is the degree of a vertex. There exists the critical point $p_c$ of $\chi_p$ in the sense that $\chi_p$ diverges if $p$ is bigger than $p_c$ and $\chi_p$ is finite otherwise. As the previous research, Penrose(JSP,77(1994):3-15) proved that $p_c =1/e + O(L^{-2d/7}\log L)$ for both models for all $d \ge 1$. We show that $p_c =1/e +CL^{-d} +O(L^{-d-1})$ for all $d>8$, where the non-universal constant $C$ has the random-walk representation. This talk is based on the joint research with Prof. Sakai at Hokkaido univ.
17:30~18:15
講師: Bruno Hideki Fukushima-Kimura 氏 (北海道大学大学院理学院数学専攻)
題目: Stochastic optimization via parallel dynamics: theory and simulations
概要: One among different approaches adopted to solve certain types of combinatorial problems is to map such a combinatorial problem into a problem of finding the minimizers of a Hamiltonian for an associated Ising spin system. Our goal in this talk is to show that by introducing a parallel dynamics in the spin system, there is a sufficient condition under which such a dynamic will converge to the uniform distribution supported on the ground states. The proof of this result was based on the notions of weak and strong ergodicity for time inhomogeneous Markov chains. Furthermore, we also provide experimental results comparing the performance of the studied algorithms with Glauber dynamics and discuss future challenges.2022年5月30日(月)@Zoom
熊谷隆 氏(早稲田大学理工学術院)
題目:飛躍型対称確率過程のポテンシャル論とその応用
概要:本講演の前半では、飛躍型対称確率過程のポテンシャル論について私自身のこれまでの研究を中心に、何を目指してどのような結果が生まれ、どのような問題が残っているのかを概説する。具体的には、
i) 飛躍型対称確率過程のDe Giorgi-Nash-Moser理論、
ii) 飛躍型対称確率過程の離散近似、
iii) ランダム媒質への応用
について述べる。講演の後半では、当該理論の応用の一つとして、ねじれのない冪零群上の長距離ランダムウォークの極限定理に関する最近の結果を紹介する。後半部分の結果は、Z.-Q. Chen氏、L. Saloff-Coste氏、J. Wang氏、T. Zheng氏との共同研究に基づく。2022年5月23日(月)@Zoom
講師:今村卓史 氏(千葉大学大学院理学研究院)
題目:歪RSKダイナミクスによるKPZモデルの解析
概要:1次元非対称単純排他過程,1+1次元ランダム媒質中のdirected polymerなど空間1次元のKardar-Parisi-Zhang(KPZ)クラスに属する確率過程に関して,それらの代数構造を利用することで分布関数等の具体形を求める研究が進展している.最近このような研究は可積分確率(integrable probability)と呼ばれている.
本講演では,Matteo Mucciconiさん (Warwick大学)と笹本智弘さん (東京工業大学)との最近の共同研究で得られた,可積分確率の新たなアプローチ(arXiv:2106.11913, 2106.11922, 2204.08420)についてお話しする.歪RSKダイナミクスと呼ばれる歪半標準盤の時間発展を導入し,q-Whittaker測度と周期的Schur測度との間の関係式を導く.前者はKPZモデルに,後者は有限温度自由フェルミオンを記述する行列式点過程に関連している.したがってKPZモデルを行列式点過程を駆使して解析することが可能となる.さらに上の関係式の変形として半q-Whittaker測度と自由端Schur測度との間の関係式も得られ,これによって,標準的な手法では困難であった半空間上のKPZモデルの解析が可能となることもお話ししたい.2022年5月16日(月)@Zoom
講師:難波隆弥 氏(静岡大学大学院教育学研究科)
題目:Trotterの半群収束定理の精密化とその応用
概要:Trotterの半群収束定理とは、線形作用素の反復により定まる半群の列があるC_0-半群に収束するための十分条件を与えるものである。本講演では、Trotterの半群収束定理の誤差評価に関する一結果を報告する。さらにその確率論への応用として、さまざまな中心極限定理との関係やBernstein作用素およびその一般化の反復を通じて得られる拡散過程等の話題にも触れる。2022年5月9日(月)@Zoom
講師:佐久間紀佳 氏(名古屋市立大学大学院理学研究科)
題目:非可換確率論によるアウトライヤーの考察と行列モデル
概要:ランダム行列に低ランク行列による摂動を加えたモデルのサイズ極限を考えると作用素ノルムの極限とそのスペクトル分布の極限分布の台の上限が一致しないという現象が起こることがある。これは摂動によりアウトライヤーと呼ばれる数は少ないが値の大きい固有値の影響である。Collins,Hasebe and Sakuma(2018)で非可換確率論の立場からアウトライヤーの散らばりを見る方法を提唱し,巡回的単調独立性の概念を導入した。最近, Collins, Leid and Sakuma(arXiv:2202.11666)でこの単調的独立性の下での計算を単純にできるようにする行列モデルが発見された。これらについて解説をする。2022年4月25日(月)@Zoom
講師:白石大典 氏(京都大学大学院情報学研究科)
題目:Loop-erased random walk in three dimensions
概要:Loop-erased random walkはランダムウォークのパスからループを切り取ることによって得られるシンプルパスである。1980年にGreg Lawlerにより導入されて以降、数学と物理の双方から注目され、研究がなされてきた。本講演では、3次元の場合に焦点を当てながら、研究の動向について述べる。2022年4月18日(月)@Zoom
16:45~17:10
講師:早川知志 氏(オックスフォード大学大学院数学研究科)
題目:Recombination, ランダム凸包, カーネル求積
概要:確率測度上での関数の積分を離散的な関数値の凸結合で近似することは数値積分における典型的な課題である.この課題において,Litterer & Lyons (2012) により導入されたrecombinationと呼ばれるアルゴリズムは非常に強力である.本講演では,このアルゴリズムを紹介した後,そのランダム凸包やカーネル求積問題における応用について,計算機科学的な観点を交えつつ解説する,本研究はTerry Lyons, Harald Oberhauser両氏との共同研究である.