過去のセミナー

※ 2018年度はこちら,2017年度以前はこちらをご覧ください.
※ また,過去のセミナー情報はこちら(服部哲弥氏のウェブサイト)でもご覧になれます.

2021年度

17:15~17:40
講師:西島駿介 氏(東京都立大学大学院 理学研究科)
題目:ランダムフラクタル上のloop消しランダムウォーク
概要:loop消しランダムウォークは単純ランダムウォークから、できた順番にloopを消して得られる非マルコフ過程である。これまでフラクタル上でもloop消しランダムウォークは研究されてきた。本講演ではランダムフラクタル上でのloop消しランダムウォークを扱う。まず、ランダム枝分かれコッホ曲線を定義し、その上でloop消しランダムウォークを構成する。そして、ウォークの歩幅を0に近づける極限である連続極限の存在と、極限の見本関数の性質について紹介する。

17:45~18:10
講師:九保佑匡 氏(立命館大学大学院 理工学研究科)
題目:Monotonic normalized heat diffusion for a certain class of finite graphs
概要:Peresは「すべての頂点推移的な有限グラフに対し、その上の熱核の対角成分と非対角成分の比は時刻の関数として単調増加となる」と予想したが、Regev-Shinkarにより反例が構成されたため偽であることが知られている。一方で熱核の比の単調性が成り立つような有限グラフのクラスもいくつか見出されている。本講演ではグラフラプラシアンの固有値が4つであるような有限グラフに着目し、ある場合に熱核の比の単調性が成立することを報告する。本研究は難波隆弥氏(静岡大学)との共同研究に基づく。 

2020年度

2019年度

講師:中野史彦 氏(学習院大学理学部)

題目:キャリーズプロセスの性質と応用

概要:本研究は貞廣泰造氏(津田塾大学)との共同研究である。n個の数の加算により生じる繰り上がりのなすマルコフ連鎖をキャリーズプロセスと呼ぶ。一般化キャリーズプロセスを考え、その性質と応用について、次の点などについて論じる。

(1) 定常分布は色付き置換群の descent statistics と一致するなど、組み合わせ論的な性質を持つ。

(2) 一般化リフルシャッフルの射影と同分布になることから、(1) の性質を理解できる。

(3) 単位区間上の一様分布の和の分布や、色付き置換群のディセントの分布の行列式による表現などの応用を持つ。

講師: 越田真史 氏(中央大学理工学部)

題目:Coupling of multiple Schramm--Loewner evolution and Gaussian free field

概要:It is known that Schramm--Loewner evolution (SLE) is coupled with Gaussian free field (GFF) to give a solution to the flow line problem for an imaginary surface. I will overview our recent work where we extended this coupling to the case of multiple SLE. There, we found that the SLE partition function that defines a multiple SLE and the boundary perturbation for GFF are determined essentially uniquely so that the associated multiple SLE and GFF are coupled with each other.

講師:佐藤僚亮 氏(名古屋大学大学院多元数理科学研究科)

題目:Ergodic theoretic classification of q-central probability measures

概要:Central probability measures due to Vershik and Kerov play an important role in asymptotic representation theory, and Gorin introduced those quantization, called q-central probability measures. In this talk, we investigate these from the viewpoint of ergodic theory. We particularly discuss a classification of ergodic q-central probability measures using certain invariants, called ratio sets.

講師: 高岡浩一郎 氏(中央大学商学部)

題目:Structure conditionを満たすセミマルチンゲールの数理ファイナンス的性質とその周辺

概要: 連続セミマルチンゲール S=S0+M+A の有限変動部分 A が,局所マルチンゲール部分 M の2次変分について絶対連続であり,その Radon-Nikodym微分 h が M の2次変分について確率1で局所2乗可積分の時に,S は structure condition を満たすという.S についての確率積分に関する性質で,S の structure condition と同値なものがいくつか知られている.本講演では,Choulli and Stricker (1994) をはじめ,それら同値性を示した結果を紹介し,さらに,その同値な性質どうしが,structure condition を定義できない不連続セミマルチンゲールについても同値になるか等について報告する.

講師:森隆大 氏(京都大学大学院理学研究科)

題目:マルコフ過程の交差測度に対する大偏差原理

概要: 本講演では,複数の独立なマルコフ過程に対する交差測度について議論を行う.単一の確率過程に対する滞在測度の類似として,複数の独立なマルコフ過程に対しそれらの軌跡の共通部分の大きさを測るものとして交差測度が考えられる.König and Mukherjee (2013)が行ったブラウン運動の場合の議論を基にして,Dirichlet形式の理論により更に多くの確率過程に対して交差測度を扱い,時間無限大での大偏差原理を示すことが可能になったことを述べる.時間が許せば具体例についても紹介したい.

講師:野場啓 氏 (大阪大学大学院基礎工学研究科) 

題目:Levy過程に対する二方向反射戦略の最適性について 

概要:本講演では資本注入を含む de Finetti の最適配当問題を扱う. 具体的には, 元のモデルがL\'evy過程の挙動をする場合, 配当と資本注入の支払い方として二方向反射戦略が最適戦略となることを示す. 本講演の主結果は, Avram et al.(2007)の Theorem 3 (負スペクトラルL\'evy過程のケース)およびBayraktar et al.(2013) の Theorem 3.1 (正スペクトルL\'evy過程のケース)の一般化に当たる. 負および正スペクトラルL\'evy過程のケースでは, 二方向反射戦略の配当と資本注入に関する期待正味現在価値をスケール関数で表すことで最適性の証明を行なったが, 一般の場合ではスケール関数を用いることはできない. そのため, 本講演では新たな標本路解析の手法を導入することにより, 期待正味現在価値の性質を示す. 

講師:楠岡誠一郎 氏 (京都大学大学院理学研究科) 

題目:Stochastic quantization associated with the $\exp (\Phi) _2$-quantum field model driven by space-time white noise on the torus 

概要:Hoegh-Krohnモデルと呼ばれる指数関数による相互作用を持つ量子場モデルを2次元トーラス上で与え,その確率量子化を考える.このモデルはこれまでディリクレ形式を用いた議論がなされてきたものであるが,本講演では最近盛んに研究がなされている特異な確率偏微分方程式の手法を用いて議論を行う.この手法により確率量子化方程式の時間大域解とその不変測度を構成し,さらにディリクレ形式から得られる拡散過程との関係について考える.この研究は河備 浩司 氏(慶應義塾大学)と星野 壮登 氏(九州大学)との共同研究である.

講師:須田颯 氏(東京大学大学院数理科学研究科)

題目:長距離相関を持つ確率調和振動子鎖の巨視的挙動について

概要:振動子鎖は統計力学に由来する熱伝導現象の微視的モデルであり, 数学的には多数の振動子(粒子)からなるハミルトン系として定義される。 本講演では,x, y番目の振動子の相互間力が|x-y|^{-θ}, θ > 1 であるような長距離相関を持つ確率調和振動子鎖の巨視的挙動, 特に, 系の運動量, 熱エネルギー分布の巨視的時間発展法則についての結果を紹介する。 相互間力が指数的減衰をする場合の結果は既に知られており, 最近接モデルと巨視的挙動は本質的に変わらない。講演者は θ < 3 であるとき, 長距離相関モデルの巨視的挙動は最近接モデルと異なることを示し, 上記変数分布の時間発展法則として superballistic wave equation, 及び fractional diffusion equation をそれぞれ導出した。 

講師:稲濱譲 氏(九州大学大学院数理学研究院)

題目:Stochastic flows and rough differential equations on foliated spaces

概要:In this talk we construct stochastic flows associated with SDEs on compact foliated spaces via rough path theory. In 2015 Suzaki constructed  “leafwise diffusion processes” on compact foliated spaces via SDE theory. However, it is not known whether the stochastic flows associated to them exist or not. The main difficulty is in showing the existence of continuous modifications. The reason is that Kolmogorov-Centsov criterion is not available in this case since a foliated space is just a locally compact metric space.  From the viewpoint of rough path theory, however, there is in fact not much difficulty here and this problem is naturally and easily solved. Since stochastic flows play a very important role in stochastic analysis on manifolds, we hope our result would open the door for stochastic analysis on foliated spaces.

This is an ongoing joint work with Kiyotaka SUZAKI (Kumamoto Univ.).

講師:竹居 正登 氏 (横浜国立大学大学院工学研究院)

題目:半直線上の強化ランダムウォークの極限挙動について

概要:強化ランダムウォーク(Reinforced Random Walks)は,ウォーカーがグラフの各辺に与えられた重みに比例した確率で推移し,ウォーカーが通った辺の重みを増加させるというモデルである.グラフが半直線である場合,辺を横断するたびに重みをc>0だけ増加させる線型強化ランダムウォークについては,Takeshima (2000)によって極限挙動の判定条件が与えられている.一方,重みの増やし方が横断回数に対して非線型な関数の場合,どのような極限挙動を示すか判然としない場合がDavis (1989)以来残されている.この問題に関して,赤堀次郎氏・Andrea Collevecchio氏との共同研究で得られた結果を紹介する.

講師:Frank den Hollander 氏 (Leiden University)

題目:LARGE DEVIATIONS FOR THE WIENER SAUSAGE

参考資料:2017年にICTSで開かれた研究集会“Large deviation theory in statistical physics: Recent advances and future challenges”のスライド)はこちら(2017年8月30,31日の部分)!

概要: Let $\beta = (\beta_s)_{s \geq 0}$ be Brownian motion on $\mathbb{R}^d$.The Wiener sausage at time $t$ is the set $W_t = \cup_{s \in [0,t]} B_1(\beta_s)$,where $B_1(x)$ is the closed ball of unit radius centred at $x$.The asymptotic behaviour of $W_t$ as $t \to \infty$ has been the subject of intensive study in past years.One of the reasons is that the Wiener sausage is one of the simplest non-Markovian functionals of Brownian motion.In this talk we focus on the volume and the capacity of $W_t$.We show that both satisfy a downward large deviation principle with a rate that depends on $d$.We identify the rate functions in terms of variational formulas and analyse their scaling properties.The main technique that is used to derive the large deviation principle is a `skeleton approach'.Here the path of the Brownian motion is coarse-grained,and large deviations of the resulting skeleton of Brownian motion are transferred to large deviations of the volume and the capacity of the Wiener sausage.

Joint work with Michiel van den Berg (Bristol) and Erwin Bolthausen (Zurich).No prior knowledge of large deviation theory is required.

講師:一場知之 氏 (University of California, Santa Barbara)

題目:Directed chain stochastic differential equations

概要:We propose a class of particle systems of diffusion processes in the infinite directed chain graph. We describe the system by an infinite-dimensional, nonlinear stochastic differential equation of McKean-Vlasov type. It has both (i) a local chain interaction and (ii)  a mean-field interaction. The system can be approximated by a limit of finitely many particle system, as the number of particles go to infinity, where the propagation of chaos does not necessarily hold. It can be seen as an extreme case of interacting diffusion with the first order Markov property in a large sparse graph. Furthermore, we exhibit a dichotomy of presence or absence of mean-field interaction, and we discuss the problem of detecting its presence from the observation of a single component process through the filtering equation of Kushner-Stratonovich type. If time permits, we also discuss some extension of interactions to the tree structure and connection to the local equation in the study of large sparse networks of interacting diffusion by Lacker, Ramanan and Wu (2019), and a stochastic game of mean-field type with infinitely many players. This is a part of research with N. Detering and J.-P. Fouque.

講師:土田兼治 氏 (防衛大学校総合教育学群)

題目:Green-tight measures of Kato class and compact embedding theorem for symmetric Markov processes

概要:竹田によって,既約的かつレゾルベント強フェラーで対称化測度がグリーン緊密な加藤クラスに属する対称マルコフ過程の半群がコンパクトになることが示され,それを用いてあるコンパクト埋め込み定理が証明された.その定理は加法的汎関数の大偏差原理を導く上で非常に重要なものである.本講演では,レゾルベント強フェラー性よりも弱い推移関数が対称化測度に関して絶対連続であるという条件のもとで,そのコンパクト埋め込み定理が得られることと新しく加わる例を述べる.さらに,その証明において必要となる2つ意味でグリーン緊密な加藤クラスの同値性についても述べる.本講演は桑江一洋氏(福岡大)との共同研究に基づく.

講師:難波隆弥 氏(立命館大学理工学部)

題目:Moderate deviation principles on covering graphs of polynomial volume growth and its applications

概要:べき零被覆グラフとはべき零群を被覆変換群とするような被覆グラフのことをいい,結晶格子等の周期性を有する無限グラフの一般化に相当する離散モデルである.本講演ではべき零被覆グラフ上のランダムウォークに関して中偏差原理が成り立つという結果を報告する.中偏差原理とは,大数の法則と中心極限定理の任意の中間スケールの下での確率減衰を記述する極限定理である.本講演ではその証明はもちろんのこと,中偏差原理のレート関数にランダムウォークの推移確率から定まるアルバネーゼ計量が明示的に現れる等,幾何学的性質がどのように極限定理に影響を与えるかに注意しながら話をしたい.時間が許せば,中偏差原理の応用としてべき零被覆グラフ上の(汎関数)重複対数の法則が得られることについても触れる予定である.

講師:角田謙吉 氏(大阪大学大学院理学研究科)

題目:多様体上のランダム単体複体のBetti数に対する大数の法則について

概要:本講演では多様体上のPoisson点過程を考え,Poisson点過程の各点を中心とした球達の和集合のトポロジーについて議論する.具体的には,熱力学的状態とよばれる設定の下で,その球達の和集合のBetti数に対する大数の法則について説明を行う.時間が許せばパーシステントホモロジーへの応用についても紹介したい.本講演はAkshay Goel氏とKhanh Duy Trinh氏との共同研究に基づく.

講師:梶野直孝 氏(神戸大学大学院理学研究科)

題目:劣Gauss型熱核評価の下でのエネルギー測度の特異性

概要:本講演ではMathav Murugan氏 (University of British Columbia)と講演者の最近の共同研究で得られた,一般の完備測地距離を備えた強局所的正則対称Dirichlet空間に対し,上下からの劣Gauss型熱核評価はエネルギー測度の参照測度に関する特異性を導くという結果を報告する.自己相似フラクタル上の自然な自己相似性(スケール不変性)を持つDirichlet形式に対しては,楠岡(1989, 1993), Ben-Bassat, Strichartz and Teplyaev (1999), 日野(2005), 日野-中原(2006)の結果により多くの場合にエネルギー測度は自己相似測度に関し特異であることが知られているが,これらの結果はいずれも空間の自己相似性に大きく依存していた.実際には空間の自己相似性がなくとも,劣Gauss型熱核評価と呼ばれるフラクタル上の拡散過程に対して典型的に成り立つのと同様の形の熱核評価さえ成立していれば,一般の強局所的正則対称Dirichlet空間においてもエネルギー測度の特異性は従うと予想されていたが,長年に渡って未解決であった.本講演の主結果はこの予想を肯定的に解決するものである.

講師:永沼 伸顕 氏 (大阪大学大学院基礎工学研究科)

題目:Asymptotic expansion of the density for hypoelliptic rough differential equation

概要:本講演では,非整数Brown運動により駆動される確率微分方程式を考える.ラフパス解析を用いて定式化される方程式の解は,自然な仮定の下で,分布密度を持つことが知られている.この分布密度の短時間における漸近挙動について得られた結果を紹介する.また,時間が許せば,主定理が適用可能な典型例についても紹介したい.本講演は,稲浜 譲氏 (九州大学)との共同研究に基づく.

講師:田中亮吉 氏(東北大学大学院理学研究科)

題目:Cutoff for product replacement on finite groups

概要:与えられた有限群の元を実効的に一様サンプリングするという問題は,有限群論と理論コンピュータ科学との関連で研究されてきた.Product replacement algorithmと呼ばれるランダムalgorithmはその1つであり,サイズnの生成系全体の集合の上のマルコフ連鎖で,その上の一様分布に収束するものである.このマルコフ連鎖はあるクラスのマルコフ連鎖の族の1つでもあり,完全グラフ上の生成消滅のある相互作用粒子系ともみなせる(kinetically constrained modelの一種).今回はこのマルコフ連鎖の混合時間について得られた結果(Peres-講演者-Zhai)をお話ししたい.またこの問題はいくつかの異なる側面で(理論)コンピュータ(科学)と関わっている.本講演ではそうした方向についても出来るだけ詳しく話したい.

講師:岡本潤 氏(東京大学大学院数理科学研究科)

題目:O'Haraエネルギーのランダムな離散化と連続極限

概要:本講演では,O'Haraエネルギーの確率変数を用いたランダムな離散エネルギーを与え,その収束性とコンパクト性について議論する.O'Haraエネルギーとは,結び目に対して定義される汎関数で,各結び目のクラス(アンビエント・イソトピーについての同値類)に対する標準的な形状を,変分的手法により定義する目的で提唱された.特定の指数の場合,メビウス変換による不変性が示されたことから,メビウスエネルギーと呼ばれる.最小元の形状解析のために,これまでに様々なメビウスエネルギーに対する離散化が定義されているが,従来の離散化では連続エネルギーへのΓ収束性までのみしか示されていなかった.本講演では,O'Haraエネルギーの確率変数を用いた"ランダム"な離散近似を導入することにより,最適輸送理論に基づいた空間における離散エネルギーの"局所一様収束性",さらには"コンパクト性"を示すことに成功したことを報告する.

講師:藪奥 哲史 氏 (千葉大学大学院理学研究院)

題目:Eigenvalue process of Ginibre ensemble and Overlaps of their eigenvectors

概要:ランダム行列の固有値の時間発展モデルの研究はDysonによって始まった.行列成分が独立なブラウン運動であるエルミート行列の実固有値過程はDysonブラウン運動と呼ばれ,これはGUE(ガウシアン・ユニタリ・アンサンブル)の時間発展モデルである.この実数値確率過程は固有値の性質から互いに“反発”し,長距離相互作用をもつ.一方で非対称(非正規)行列の場合,固有ベクトルから定まるオーバーラップ関数と呼ばれる量が注目されており,静的な振る舞いに関する研究が盛んに行われている.非対称行列の時間発展モデルでは,複素数値固有値過程はオーバーラップ関数の影響を受けることがBourgade, DubachやGrela, Warcholによって報告されている.本講演では非対称ランダム行列であるGinibreアンサンブルの時間発展モデルについて議論し,その複素数値固有値過程の振る舞いとオーバーラップ関数との関係について得られた結果を紹介する.

講師:会田茂樹 氏(東京大学大学院数理科学研究科)

題目:Weak Poincare inequalities on path spaces: non-explosion case

概要:リーマン多様体上の始点が与えられた連続な道の空間(パス空間)にはブラウン運動の自然な確率測度が存在する.このパス空間上の微分を用いてディリクレ形式が定まり,多様体のリッチ曲率が有界ならば,このディリクレ形式に対して対数ソボレフ不等式が成立するなどという結果も知られている.有界性を外してしまうと,対数ソボレフ不等式のようなよい不等式の成立は望めないが,Weak Poincare inequalityとよばれるポアンカレ不等式とディリクレ形式の既約性を補間するような不等式の成立は期待され,実際,Ricci曲率に対するある仮定の下,Feng-Yu Wangやその周辺の人たちにより,不等式の成立が示されている.彼らの証明は,Clark-Ocone formulaを用いるものであり,彼らの仮定の下ブラウン運動は保存的になる.ブラウン運動の非爆発の条件のみで,Weak Poincare inequalityの成立が予想できるが,Clark-Ocone formulaを用いた議論のみでは,難しいように思える.この講演では,確率微分方程式の解の性質(ラフパスの汎関数としての連続性定理)を用いたこの問題へのアプローチについて説明したい.

講師:南就将 氏(慶應義塾大学医学部)

題目:感染症の世代間隔に対する確率モデル

概要: 感染症の世代間隔とは,ある個体が感染を受けてから他の個体を感染させるまでの時間間隔のことである.この概念を明確にするために,感染性の時間変化と集団における個体間のランダムな接触を同時に考慮した簡単な確率モデルを定式化する.次にこのモデルを用いて,感染症の基本再生産数と,流行初期の新規感染者数の指数的増大度との関係を,ある確率分布のモーメント母関数を通じて与える公式を導く.この確率分布は,先に定義した世代間隔の分布において接触頻度を表すパラメータをゼロに近づけて得られる極限分布である.