都会と荒野の日誌
2022.8.21.日
展覧会図録が完成いたしました。
7月末を目指して進めておりましたが、半月遅れの完成となりました。
A5 オフセットフルカラー 日英の50ページ 、伊東多佳子氏書き下ろしの論考が掲載されております。
発行は小部数ですが、興味を持っていただけましたら是非お買い求めください。一冊1100円となります。
※ご注文はinanuw.sansou(AT)gmail.comもしくは 各作家までご連絡ください。折り返し振込先をお伝えいたします。恐れ入りますが郵送の際は国内送料180円をご負担お願いいたします。
The exhibition catalogue is now available. It is A5-sized 50-page book written in English and Japanese. It includes an exhibition review by Takako Ito. The price is 1100 yen (plus 180 yen for domestic shipping). If you are interested, please send an email to inanuw(AT)gmail.com or contact Katayama or Makihara. We will come back to you for the details.
2022.5.29.日
会期を無事に終了し、一週間が経ちました。ご来場のお礼が遅くなりました。
早くから予約を入れて下さった方々、チラシを手に取って見に来て下さった方々、遠方よりご来場下さった方々、皆様本当にありがとうございました。また、制作や当日の会場案内を手伝って下さった方々にもこの場を借りてお礼を申し上げます。
現在、展覧会ページとSNSにて順次アーカイブを発信しております。
キャプションとマップもダウンロードいただけますので、ご来場が難しかった方々にもオンライン形式で展覧会の雰囲気を感じていただけましたら幸いです。
今後は図録の制作を行っていきます。
2022.5.18.水
サイアノタイプ
展覧会の会場マップをサイアノタイプの手法で作っている。
なぜマップを作っているのかは12日の日誌に少し書いてみた。
なぜサイアノタイプかと言うと、山荘での制作や展覧会に日照時間が環境として切り離せないと意識してきたから。サイアノタイプは、わかりやすく言うと、日光写真。紫外線で感光する薬剤を紙に塗っておき、透明のシートに黒線で描いた(プリントした)版をその紙に重ね、一定時間日光に当てて感光させると、黒線で遮光された部分が感光せず残り、定着せずに水で洗い流せる。それによって描画した部分が白で残り、線となって現れる。紫外線の状態や感光時間に左右されて青の色味が変わる。
改めて調べてみると、
1835年 - イギリスのウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットが、カロタイプの写真技法(ネガを印画紙と重ね合わせて感光させる、ネガポジ法)を発明。
1842年 - ジョン・ハーシェルが、青地白線法の青写真を発明(高価な銀塩を使わない印画法として)。
手法としてはかなり古典的なものになります。
4日間の展覧会は今週末から後半。21日は特に多くのご予約をいただき、本日は自宅でマップの量産。実は前半14、15日に配布したマップは、同じ感光液を使っているのですが、ポジというか、ガラスペンによる手書き。版を作ってこのような青地のマップの量産を最初から思い描いていたが、実は雨天や曇りが続き、オープン直前はしっかり感光できる状況ではなく・・
そこで、苦肉の策で急遽感光液をガラスペンに乗せて手書き。描いた線が端からじんわり感光して行って青い線画が定着するという方法を取りました。サイアノタイプと聞いて紙が青いものを期待されていた方、ごめんなさい。その代わり前半お渡ししたものは、結果的に一枚ずつ手書きなので、1つとして同じ線はありません。
後半21日〜配布するのはこちら。
デニムの色落ちのように濃淡色々ございます。夕方作ったものは色薄めですね・・
(槙原)
2022.5.16.月
昨日で一週目の会期が終わり、一旦東京へ。
実は会期初日、とあるアクシデントで来場者の方々の力をお借りして対応する場面があった。前日から朝まで降っていた雨でぬかるんだ地面に来場者の方の車のタイヤがはまってしまったのだ。会期が始まり車が増えたため今まで駐めたことのなかったところに駐めたこともあり予想外のアクシデント。ちょうどその時、片山の友人の作家たちが到着しておりここぞとばかりにお願いをし手伝ってもらうことに。快く引き受けてくれたものの、想像よりも手こずり、車を押したり、牽引してみたり、作品を見る前に全員ヘトヘトに。格闘の末、車が救出された頃には1時間以上立っていた。
作品を見終えた頃、二度目の嫌な予感。最初の車を救出するために動かしたもう一台の車もはまっていたのです。暗くなる前にやらねば、ともう一度彼らにお願いをし、また車を押してもらうことに。謎の一体感のもと青春映画のワンシーンのように動き出した車を走って追いかけ、初日を終えました。きっと一生忘れません。本当にありがとうございます。
会期二日目は朝から晴れ、企画していたアーティストトークを予定通り片山作品のウッドデッキ上で行うことができた。ご来場いただいた方々とはトーク後、山荘内でお話しすることもでき大変有意義な時間となりました。来週の会期の二日間いい天気に恵まれることを祈りつつ、前半戦終了です。(片山)
アーティストトークのアーカイブ映像を公開いたしました。
是非ご高覧ください。
「都会化された荒野で」アーティストトーク
(槙原泰介×片山初音 聞き手:近藤亮介)
2022.5.14.土
本日から展覧会オープンです。
昨日の夜から雨が続き、朝まで雨でしたが、無事オープンの時間には雨が上がりました。初日からいい調子です。雨上がりの林は色が濃く、晴れている時とは違った良さがあります。
明日は15時からアーティストトークを開催します。天気が良ければ片山作品のウッドデッキ上で行います。会場にお越しいただけない場合でもZOOMにて配信予定ですので是非ご覧いただけましたら幸いです。展示の経緯から作品の話などいろいろなお話をできればと思います!よろしくお願いします。
「都会化された荒野で」アーティストトーク
(槙原泰介×片山初音 聞き手:近藤亮介)
日時: 2022.5.15(日)
2022.5.12.木
咋晩から槙原再び山荘入り。虫が多いとのことで、強力な虫取り線香を購入。片山作品は優秀助手の手塚さんの力も手伝って無事に仕上がったとの連絡を受けており、一安心。槙原は作業自体は終わっていたが、会場マップ制作の作業が残る。午後から雨予報とのことで、早朝からウッドデッキ上でサイアノタイプでマップ制作。思ったより日差しが持ち、なんとか第一号完成。午後からは伊東多佳子先生の内覧を予定していたため、ギリギリセーフでした。
さて内覧。槙原と片山でフィールドをご案内。
伊東先生は環境芸術にあたる数多くの野外作品を見ておられ、ご質問やご指摘も厳しい。和やかにお話しをしながらフィールドを8割まわったところでの表情は硬かった。そして最後の12番の巨石の前でお話しをして、ようやく少し表情が緩んだように思った。一緒にルートを歩き終えることで展覧会全体の意図が通じたような気がした。今回はマップが槙原作品と展覧会全体にとって重要なポイント。自然を歩くときには必要としない岩石へのナンバリングや自然や人工を問わず異なる事物を一度並列に落とし込むことで、先入観なく環境に内在する物質を発見していただきたいと思っている。それはナンバリングされていないものへのまなざしも含む。夕方、伊東さんをお見送りするころちょうど雨に。伊東先生は再び21日に来てくださる予定で、その日は15時からトークイベントの開催を予定しているので続きをお話しするのが大変楽しみ。(槙原)
それから、お陰様でクラウドファンディングが昨日目標額に到達し、成立いたしました。ご支援くださった方、ありがとうございました。会期終了まで会場で楽しめるリターンなどもございますので、引き続きよろしくお願いいたします。
2022.5.11.水
本日は制作最終日ということで、朝からフル稼働。無事、夕方に制作を終えました。終わりが見え始めた頃から、今日は念願の滝見の湯に行くぞ!と意気込み、時間ギリギリではありましたが、間に合いました。移動も含め既に丸三日手伝ってくれている手塚さん、温泉で癒されてくれたかな。ロビーにてツキノワグマの大きなぬいぐるみ(のような椅子?)を発見し記念撮影をしました。
山荘のいいところの一つは日が暮れると外作業ができなくなることのような気がします。やりすぎず、半強制的に考えたり、他のことをして落ち着く時間が持てます。夜の間にやることもありますが、昼の動的な時間とは対照的で、制作にはこういう時間が大切なんだと実感します。展覧会まであと少し、明日からは会場を整えたり、まだまだやることは多そうです。(片山)
2022.5.10.火
昨日、東京に一度戻ったものの滞在時間3時間で、実はまた山荘入りしていた。今回は片山の制作ではお馴染みとなりつつある猟師の手塚さんが同行。制作や会場設営の補助をしてくれる。
昨日の雨が嘘のように、今日はよく晴れていい天気。朝から林の中を歩き回りフィールドの整備をしてくれる手塚さん。片山はウッドデッキの手すりの制作。初めての構造に悩みつつ午前の作業を終え、お昼休憩。食後にクラウドファンディングのリターンで提供予定のレモネードの試飲をしてもらった。美味しいとお墨付きを貰い一安心。レモンシロップは片山の自作で、水や炭酸、寒い時にはお湯で割っても美味しい。シロップに浸かったレモンも食べられるので気に入っており、よく家でも作ります。甘酸っぱいレモネードで元気を取り戻し午後の作業も捗りました。
夕食後、片山が日誌を書いている間に、デザインが得意な手塚さんにトイレに掲示する使用方法の張り紙の製作を依頼。なんとイラストまで描いてくれました。出来上がりを楽しみにしつつ、本日はこれにて終了。お疲れ様でした。(片山)
2022.5.9.月
本日は久しぶりに山荘を離れて東京へ。予定していた作業は完了したはず。5時起きで夜間に及んだ作業の結果を確認する。再度お客さんの目線で確認。設置はいい感じ。岩石の前に立ったり、デッキに上がったりすると互いの作品がちょうど良く視界に入る。
さて、14日にはもう少し緑が濃くなるかな。
3時間ある車内ではアーティストトークの練習。
‥やることはまだまだあるのです!
東京に入ると久しぶりに見る大型トラックや横断歩道の歩行者に圧倒されて注意しないと事故を招きそうだ。そして片山を下ろし、槙原は車内スペースでちょっと制作とは別のお仕事タイム。PCのスクロールや電話対応に確実に頭がついて行かない。
それにしても関東は寒の戻りでしょうか。冷たい雨。今日は薪を補充しなくていいのだった。(槙原)
2022.5.8.日
山荘滞在10日目
今日は朝から試作のマップを片手に展示エリアを歩いてみた。槙原作品はマップが作品に含まれるため、それを含め展覧会の内容を来場者目線で確認するいい時間となった。
お昼頃に伊東多佳子先生と片山作品のウッドデッキ上でZOOMを行った。天気が良ければ今後のアーティストトークなどもそこで行う予定のため、いい予行練習にもなった。各々作品の経過をご説明し、環境と作品の関わり方などについて伊東先生からご意見をいただいた。
ZOOM後、作品の上が大変気持ちよかったのでそこで昼食を取ることに。各々カップラーメンにお湯を入れ林の中のデッキへと戻った。今後の打ち合わせをしつつ休憩をとり、午後は各々追い込み作業。あたりが暗くなるまで作業が続いた。明日は都内へと帰る予定のため片付けつつ本日は終了。お疲れ様でした。(片山)
2022.5.7.土
山荘滞在9日目
そろそろ作業大詰め。2人とも9日朝に一旦東京に戻る予定。槙原はしばらく東京。片山は助手を連れて再び山荘入りなので、今日明日で展示全体感の調整が必要。明朝はお客さんの気持ちになって展示エリアを歩いてみようと思う。
槙原は今日からエンジン式の高圧洗浄機を稼働。やっぱりパワーが格段に違う。電動の洗浄機は水と電気で稼働し、溜め水でも自吸できるので電源があればどこでも作業可能、一方でエンジン式は電気はいらないのだが、溜め水の自吸ができないので水道のラインをつないでおく必要がある。遠方の岩は水か電気かどちらかのラインの確保が必要になり、作業する岩ごとに可能なラインを確保してどちらの洗浄機を使うか選んでいく。
写真は山荘上方300m地点にある岩での作業。電源はなんとか250mの延長コードを作って引いたが、高低差があるためポンプで水を上げるのも難しく、山荘持ち主のサウナ風呂を拝借して水瓶に。車で上がってこのサウナ風呂と隣のトランク内の水を合わせて1時間半ほど作業可能に。助手のシュンゴさんが居てくれた6日はこれで5往復の作業。思考錯誤の繰り返しです。(槙原)
2022.5.6.金
山荘滞在8日目
山荘への滞在も本日で8日目となった。朝起きると晴れた気持ちのいい天気で、ふらっとウッドデッキにでた。まだ少し冷たい空気のなか林の向こうに今制作している作品が見える。そろそろ疲れが出てきた。
午前の制作を終え、よし今日の午後は少し気分転換に出かけよう、と先日より気になっていた北相木村考古博物館へ向かった。久しぶりの外出に山々も新鮮に見える。いざ到着してみると、博物館は休館だった。どうしたものか、帰ろうかと考えていたが、道中で見た神社を思い出し行ってみることに。神社に着きとりあえず参拝し、あたりを散策。おみくじを見つけ引いてみると見事大吉、幸先が良いかな。
帰り道にたくさんの薪が束で積んであるところを見つけた。山荘の薪が少なくなっていたので、もしや売っているのではと寄ってみる。近所の方に聞き、持ち主のご夫婦の元へ行ってみると快く応じてくれた。薪を積み込む間、ご自宅の暖炉のお話やお風呂も薪で炊いていること、昔は旅館を営んでいて近くの遺跡の発掘調査員などが泊まりに来ていたことなど、いろいろなお話をしてくださった。南相木村の山荘に滞在していると伝えると帰りの近道まで教えてくださり、温かい気持ちで帰路に着く。
山荘につき、早速暖炉に火を入れる。いい一日だった。また明日。(片山)
2022.5.5.木
秋川渓谷のグラフィティ
ステイホームが続いて一年ちょっと経ったころ、こんなニュースがあった。東京秋川渓谷の河原の石に落書き・・描かれている文字や絵の良し悪しはさておき、塗料の環境への影響や景観破壊として考えれば社会的には悪に違いない。しかし一方で素直に遊び場が変わっていった現在を示しており、なるほど場所と一緒にそのペインティング行為自体も古代へと遡行しているように見えてしまう。
今回の山荘展で、僕はその場の岩石を相手に制作を始めている。岩石の表面を洗浄したり、研磨したりすることで、その岩肌が持つ現在の環境との融合性を剥離し、岩の存在した時間の表象を操作できないかと計画したものだ。思い出してみるとこのニュースもひとつの着想源であったか。(槙原)
2022.5.3.火
山荘滞在5日目
連日晴れです。いい流れ。
そして、本日は待望の助っ人シュンゴさん現場入り。
東京から小海着8:50で来てくれるという気合の入りよう。
お休みのところありがとうございます!三連休も普段の仕事のような作業で申し訳ありません!シュンゴさんは槙原の山友。造園業に従事されております。
朝、駅に迎えに行ったついでに買い出し。食材と足りない道具を買い込んで戻る。
小海のローカルスーパーは朝から混み合っていて、お隣のパン屋さんもバケットは品切れ状態。さすがに連休、心持ち交通量も多い。
山荘に着き、お昼前に1時間ほど作業。
本日の昼食は片山作の坦々そうめん。(とスーパーの巻き寿司。)
つい忙しいとカップ麺に手を出しそうになるが、長い滞在、ちゃんとしたものを食べた方が力がでます。もちろん日によって槙原も作りますよ。ほかの山荘飯はまた別の機会に。
槙原、まずは岩石の位置をシュンゴさんに案内。高圧洗浄機はあまり使ったことがないというシュンゴさんだが、すぐに慣れていただき、3つほど洗浄をお任せした。取れない部分は手で丁寧に洗って行くのだが、さすが造園の方、石磨きに愛を感じる。あとシュンゴさんは植物に詳しい。滞在中にいろいろ聞いてみようと槙原も片山も楽しみにしている。
片山はいよいよ土台組み開始。槙原は落ちているカラマツの枝を整理していき、展示フィールドを明確に整理していく作業。パンクしていた一輪車のタイヤを交換し、作業効率は‥3倍に!
展覧会は18時までの設定なので、18時の日照を確認。19時前には作業終了。
明日も晴れるらしいので、シュンゴさんが居るあと2日、いつも以上に気合を入れて全力で動きます。
2022.5.1.日
山荘滞在3日目
本日は雨90%の予報。早朝6時、まだ降っていなかったところを見計らって山荘から離れた岩までの距離を測りに行く。この作業は2名で協力して行なう。
ついでに少し散策。山荘からは耳を澄ますと川の音が聞こえるのだが、まだ一度も降りたことがなかったので川にいってみる。槙原は特に岩石の丸さや大きさを確認。こごみを発見して和む。でも実は初日にスーパーで買ってしまったなぁ。
一応週間天気予報を書き出して作業工程を立てているが、季節的にも変わりやすいようだ。雨に当たらず作業できたのは正味2時間か。
槙原、岩石の①番に着手。片山は設置場所の整地作業。
午後は雨が激しくなってきたので作業中断。槙原は次の展覧会関連の打ち合わせのため、1時間ほどzoom。今日の雨は予想できていたので、午後は足りない道具を買いに片道1時間ほどの佐久市のホームセンターに行ってみることにしていた。
道中は気分転換に音楽を聴いたり雑談。そして15日に開催するアーティストトークの打ち合わせなど。
当たり前だが少し作品から距離を置いてみることで整理されることが制作には良くある。それは2人とも良く知っている。だが今回の展覧会は2名の作品を同じフィールドで混在させ、その周辺環境そのものを見せたい意識がある。移動手段も限られる中、物理的にも精神的にもそれぞれ簡単に現場を離れられない。しかし結果的に、買い物道中では遠慮のない途中経過に対する質疑もでき、なかなかいい話の展開に。雨がいい時間を作ってくれた。
この後も天気と相談しながら。助手さんが来てくれる日に具体的な作業指示が出せるよう、なんとかスムーズに進めたい。やや、明日の予報は回復方向に変わってきたかな。それにしても良く降ります。
2022.4.30.土
山荘滞在2日目
今日から本格的に作業開始。前回来た時よりも緑が増え、山の立体感にも違いが見えた。風に揺れる木々や時間と共に変わる日差しが意識される。満開の枝垂れ桜の下、逃げ足の早い雉に遭遇。休憩を兼ねてお互いの進行度合いも見に行った。昼食をとり午後になると、ゆっくりと空気が冷え出す。日中の日差しは暖かかったのだが、山の夕暮れは早く、あっという間の1日になった。
2022.4.29.金
山荘滞在1日目
今日から再び山荘入り。注文していた片山の材木を積み込むため、28日の夜にホームセンターで待ち合わせて2台の車で向かった。木材の重さもそうだが、長い滞在を考えた道具や荷物の量は想像以上。左車線キープで今回は関越→上信越→中部横断自動車道。最後のインターを降りたのが2時半だったが、深く静まる佐久市を通る片側車線の高速道路が美しく、眠気も手伝って彼方に続く道のようで幻想的。
明朝、朝ごはん前に山荘の床下に荷下ろしを完了し、一服していると雨が‥ここからは一日雨。早起きして荷下ろしをしておいて正解。助っ人運転手さんも辺りの森を満喫したようで、無事送り出す。
山荘付近は前回よりも明らかに枝葉が増え、下草も生えてきている。展示まで2週間だが、ここから緑が増えるのは早そう‥。岩石やウッドデッキとの色のコントラストを想像してみる‥。天気もそうだが、草木の生え方や色、そこら辺も今回の作品への意識として重要であろう。
午後は予定していた小海町高原美術館へ。この美術館を訪れるのは初めてだったが、等間隔に植わった中庭の白樺の成長、展望台から俯瞰できるようになっている館の全体像、芝生の色の移り変わりや咲き終わったたんぽぽ、モグラの掘り返しなど、25周年を迎えた環境との調和がとても良く映った。展示も興味深く、写真の物質性や作品内の時間について話して盛り上がる。また、突然の訪問にもかかわらず、学芸員の方ともお話しができ、自分達の展示についても丁寧に聞いてくださった。
帰りに小海のスーパーにより、数日分の食料を買い込む。明日からは天気次第の作業になるが、今晩は作業工程を互いに刷り合わせで作業終了。夕食を取り明日に備える。
2022.4.10.日
槙原の岩石マップ
ウッドデッキからの眺望
山荘からの中継
今回は山荘から中継する形で伊東多佳子先生と近藤さん、槙原、片山の4人でZOOMを行った。前日に撮影しておいた写真や動画等を共有しながら、現場の様子をお伝えする。山荘やその周辺の状況だけでなく、これまでの制作やリサーチとの関連についてもお話しすることができた。
槙原は山荘周辺を散策して作成した岩石マップを共有。カウントした岩の1つを高圧洗浄機で洗う映像を見せる。瞬時に苔がはがされて行く映像に、伊東さんは心を痛めておられ、気持ちがとても伝わってきた。確かに長い時間をかけて生じた苔を一瞬で取り去る行為はかなり暴力的なものと言えるのだが、環境美学で議論されてきた内容に触れる実践であることが意識できる。富山大学のサイトから伊東先生の論文をいくつか読ませていただいた中で、二項関係では捉えきれない自然の内在的価値と道具的価値という概念の拡張性やその中間領域、環境美学の基本的な問題意識については、特に「自然の歴史化と環境芸術の物語性(2)」に詳しく書かれている。槙原は作品として、普段見えていなかった岩の素肌や実体を追いかけて行く一方、苔や地衣類の生命に対する態度やそこに存在した時間、その両方に意識を傾けながら最終的な作品状態を決めなくてはならない。
片山のプランでは山荘のウッドデッキに対して適切な距離を保った周辺の木々が、作品となるウッドデッキでは極端に近づく。実際のウッドデッキにいる時は気がつかない眺望に対する計画性、その均衡が壊れることで不自然さが現れる。
伊東さんがウッドデッキからの眺望について、実際のウッドデッキは後ろに家があり、一方向からの支配的な視点だといえる、と話していたことがとても興味深かった。作品となるウッドデッキは360度開かれ、そこに立つ人もそれを眺める人も眺められる。双方向だけでなく全方位に開かれ、見る見られる、その関係さえも崩れてしまう。そこに立つ、見る、そういう何気ない行為に潜む、根源的な思い込みのようなものやその無自覚さを知ることでここに中間領域を作り出すことができるのではないだろうか。
2022.4.9.土
今日は計画していた通り、雪解け後に初めての山荘入り。槙原・片山の他、山荘のオーナーの3人。オーナーはコレクターでもあり、これまでも各々、作品撮影や制作記録でお世話になっている作家の強い味方でもあります。
また朝早く出発。槙原、片山をピックアップして都内のオーナー宅を経由し、山荘へと車を走らせる。
快晴で気温も上がり、気持ち交通量も多い。途中八ヶ岳や南アルプスの山々の雪化粧を眺めつつ、中村農場で鶏肉や卵を買い出したり、晩の食材を揃えて無事に山荘入り。槙原は雪が無い山荘は初めて。
片山は何度かここで過ごしたことがあるので、到着してすぐ水道の開栓を教わる。そしてみんなで掃除。4月とはいえ昼間もそこそこ肌寒く、片山が手際良く薪ストーブに火を入れる。
軽く昼食の弁当を食べ、槙原・片山はそれぞれ計画していた作業に移る。オーナーはありがたいことに先ほど手に入れた軍鶏の下拵えに。
槙原、付近の岩石を洗ったり研磨したりするプランを立てており、まずは山荘周辺を歩き回って付近の大小の岩石をマッピング&カウント。15個ほどの岩石の他、電柱の位置や道路との関係を書き込む。やっぱり電柱の本数や法面の擁壁など、ここには都市や人工の要素もたくさんある。そうか、境界杭もだ。
片山は山荘付随のウッドデッキを林に複製するプランなので、丁寧にウッドデッキを採寸。
オーナーに材木屋の場所などをきく。文庫本サイズのメモ帳は、これまでの作品のメモがびっしり。林の中でウッドデッキからの距離や木の位置から作品設置場所に目処をつけた。ウッドデッキからの眺望と作品からの眺望、場所の変化による環境の移り変わりを思考だけでなく現場で確認することができた。
片山の採寸が終わり、残るは槙原の高圧洗浄機での岩石洗浄作業。片山、過去に参加した木曽ペインティングスでの土を使った作品の話をしたりしながら、石の上に堆積した土や枯れ木を除去してサポート。
洗い上がりを見たり、それぞれの作品位置関係を話し合いつつ、日が傾く。
なんとなく作品を展開する共通フィールドが見えてきた。
2022.4.3.日
片山さんが読んだことのあった石倉敏明さんのエッセイを共有してくれる。
「獣の肉を食い、獅子の腹から生まれる -獣頭芸能に見る複数種の想像力-」
このエッセイはとある研究者の工業屠殺場潜入レポートの話からはじまる。
工業屠殺場といえば・・僕は中高と広島市で電車通学をしていたことがあり、今は無き食肉加工場の最寄り駅を毎日のように通過していた。このエッセイを読み始めてまず、なんとも形容のできない焦げた血のような匂いを思い出した。その駅を通り過ぎる1分間位だけ路面電車の車内にも漂ってくる。その周辺に何軒かあった、もつ肉の天ぷら屋に行ったのも思い出す。先輩に出刃包丁とまな板が各テーブルに置いてある面白い天ぷら屋があると連れていってもらった。揚げられた内臓の塊がまな板に配られる。そしてその包丁で好きに切り分けながら食べていく。そのうち、酒を飲み始める現場帰りのおっちゃんたちに囲まれ、ちぢこまる。いや、個人的な思い出は今はここまでにしよう・・ところでこのエッセイには原田信夫の「歴史のなかの米と肉」や宮沢賢治の童話など、興味を惹かれるものがたくさん引用され、色々と考えが脱線してしまって実は著者の結論がまだうまく飲み込めていない。展覧会テーマに寄せて考えていると、網野善彦が引用される箇所で「山林が古代・中世以後の人間社会にとって、どこか非人間的なアジールの性格を維持していたのも、もとはこの空間が人間の所有を超えた空間であり、さらに社会そのものを超えた山の神の空間であったという論理を背景にしている。」という部分が気になり、気づくと繰り返し読んでいた。2016年の個展「Nature Study」あたりから作品と山の関係を言葉にしつつ、山の神というのはなかなかイメージができないのだが、しばしば柳田國男が唱えた「山人」の存在に思いを巡らせることがある。(それは集団生活を行なっていたマタギやサンカなどとも少し違う実証に欠ける山の漂泊民の存在なのだが‥)この山荘の過去でなく、現在や未来に漂泊民の存在を考えてみる。この場所がオンラインを軸にシームレスな社会の中にあっても、例えば山中のどこからともなく上がる狼煙やその匂いのように、微かな物質と気配を伴って鮮やかに境界を示し、現れる存在があるかもしれない。(槙原)
2022.3.19.土
先日、リサーチのため山形へ行ってきた。槙原さんの車に乗り込み深夜とも早朝ともつかぬ時間に出発。同行する猟師をしている友人を拾い、車を走らせる。辺りはまだ暗く、車もまばらだった。高速に乗りしばらくしたころ、会話も弾み出したので日誌に掲載しようと動画の撮影を始めた。会話の内容は様々。作品の話や最近見た展示について、はたまたどのようなものに影響を受けたかなど。その動画は追々公開しようと思う。
運転を交代しつつすっかり日は昇り、目指す山々が近づいてきた。高速を降りた頃、日本海沿いの道で友人が潮溜まりの話をしたので、海辺に降りてみようということになり、車を停めた。
浜は大小様々な石と一角には大量のプラスチックゴミが流れ着いており、足元の石もよく見てみると、コンクリートガラや、レンガ、アスファルトなど人工的な岩石が多く混ざっていた。少し気にして見れば見分けがつくが、他の名前のわからない岩石たちと同じように波に削られ丸みを帯びたその形に妙に納得をした。人工的かそうでないかなどこちらの勝手な区分で、風化は同じように進む。常日頃管理された状態ばかり目にするため違和感を感じるのかもしれない。目的の潮溜まりは、周りの泡立つ波の影響を受けず、鏡のように灰色の空を映していた。浜のガチャガチャとした印象とは対照的に、灰色に浮かぶ黒い岩と緑の藻がまるで枯山水の庭園のようだった。少し向こうは波が音をたて荒ぶってさえ見えるのに、あまりに動かぬ潮溜りをみていると音が吸い込まれるように消え、没入するように頭の中が静かになった。この感覚を説明するのに前からよくする話がある。
幼い頃、家にあった米櫃に手を差し込むのが好きだった。米櫃の中で自分の手に小さくひんやりとしたお米が無数に触れる。一粒一粒が私の手に触れている。その時、実態として触れているのは腕から手にかけての一部分のみであったが、私の脳内では私そのものが米櫃に没入し、全身がお米に触れたかのような感覚であった。視界にはただ米櫃に手が入っている様が映るのに、目前に乳白色の半透明な粒が無数に広がっていた。それは一部の限られた感覚の体験から、拡張されより補われた大きな感覚的体験となり全ての感覚まで埋没したということだ。私はこの感覚からインスピレーションを受けることが多く、自身の作品を見せるときも常にこの感覚を求めているのかもしれない。(片山)
2022.3.15.火
Zoomにて打ち合わせ
本日もZoomにて打ち合わせ。開始するも双方、日中の仕事が長引いて頭の切替に時間を要した為、前半30分はほぼ雑談。槙原と片山は数えると20も離れていた。だが同じ美大卒で、尚且つ同じ職場を経験したこともあり、学生時代の話や今までやってきた仕事の話などをすると、意外とたくさんの共通の知り合いが居たりして和む。
さて、そろそろ本題へ。事前にリスト化していた確認事項を確認していく。主に片山が制作担当しているWebサイトの内容をチェック。片山は自身のWebサイトも作っている。展覧会へのアクセスの記載について話している際、実は山荘にはっきりした住所がないという話に。来場者への案内はGoogleフォームで予約を募り、詳細な案内を送る計画になった。幸い滝見の湯という日帰り温泉が近くにあり、そこまでは確実にバスが走るようだ。滝見の湯はサウナもあり、山荘の持ち主もおすすめのよう。片山も利用したことがある。村営のバスにプラスして、展覧会として駅までの送迎も設定しようかということになった。
22時から近藤さんに参加していただき、展覧会コンセプトを含む、確認事項を確認していただく。プランの内容だけでなく、曜日の表記やスペルまで確認してくださり、見落としにいくつもはっとする。こういう時、作家だけだと客観性を失いますので、大変ありがたい。
本日はこれにて終了。
2022.3.11.金
Zoomにて
すでに何度目かの打ち合わせ。なかなか時間や都合の関係もあるが、新型コロナの影響もありオンラインにて行うことが殆どとなっている。対面で行いたい気持ちもあるが、オンラインのよさというのもある。
以前から槙原、片山がお会いしたいと考えていた、富山大学芸術文化学部の伊東多佳子先生と今回お話しすることができた。先生はこれまでDavid NashやAndyGoldsworthyなど、英国の環境芸術を中心に取材・研究され多数の論文を書かれている。
慣れない司会進行で槙原、緊張。片山も同じく。不慣れなZoomの操作に手間取っていたところ、伊東先生に教えていただき無事各々過去作についてお話しすることができた。(すみません!ありがとうございます!)展覧会のタイトルでも示す「人工」と「自然」の中間領域をこの山荘という場に重ねながら制作を進めていることや、具体的な作品プランをお話しさせていただき、伊東先生からは環境美学の観点で語られる「自然」解釈への歴史的な問題意識やこれまでの論文の取材についてのお話などをしていただいた。和やかな雰囲気で話を進め、40分も予定時間オーバー。長い時間貴重なお話しを聞かせていただいたことへ感謝をお伝えし、終了となった。環境美学と現代美術。どちらかの観点から語るのではなく、双方からの対話というのがこれほど勉強になるとは。これからも制作過程を随時お伝えしながら、お話を伺い、思考を深めていく所存だ。
2022.1.22.土
山荘初下見
南相木村山荘へ向かう車内でいろいろな話しをした。今回リサーチ協力をお願いした近藤さんと片山は初対面であったが、槙原・片山の山行き経験の話や、山荘でのこれまでの滞在の話をしたり、好きな作品や映画の話をしたり。車内は想像以上に和気藹々。
早朝からの長距離ドライブで早めに空腹感が来て昼ご飯を食べたい気持ちとお店の開店時間が合っておらず、食べられないまま山荘へと近づいていってしまう。結局、最後となるセブンイレブンで水とスープカレー3人分を調達。いざ山荘へ、山道を車でしばらく登ると途中にある湖が凍結しているのを発見。思わず全員はしゃぐ。すぐさま降りて散策。釣り人があけた氷の穴を見つけ、手を入れてみる。想像よりかなり厚みがあることを知る。先程までのおっかなびっくりだった足元の緊張が少し和らぐ。湖の白さで木の影の長さに気がつく。山荘でテストしようと思っていた素材をそれぞれ氷上に持ってきて撮影。槙原、鏡を滑らせたり回転させたりして風景を取り込むことを狙う。片山、メッシュ(網戸)を広げ、メッシュと雪のコントラストによる色面や反射の見え方を探る。そして氷の上を楽しそうに歩く。いかん、ここは楽しすぎる。と、切り上げ山荘へ急ぐ。
たどり着いた山荘付近も雪が残り、車がはまらないように注意して駐車。やっとお昼にありつく。近藤さん、電子レンジでスープカレー3人分を温め、企画でもカレーを振る舞うのはどうかなど話をしたりする。その後、山荘周辺を散策。槙原、カーブミラー、電線、石、等に注目、ここでも鏡を置いてみる。玄関に落ちていた炭の破片を採集。片山、メッシュを水平に広げてみたり草の上に波打たせたりなどする。獣のフンや足跡を見つける。陽が傾きかけてきたので山荘を出た。
行きではなんだか少し旅行気分だったのも束の間、帰路は具体的な展覧会や作品について語る。都内に戻り、国立でそばを食べ、この日は解散。